2022年12月26日月曜日

師走

今月に入ってからは、寒波に震えつつひっそりとボルダーに通っている。
ツアーが終わって一月経ち、やっと体の調子も戻ってきたように感じる。
直近で何か大きな目標があるわけではないけれど、調子が上がらないと気分も良くないので、鍛え直していかないと。

12/3、今年最後の瑞牆。
まだ体の調子は微妙だったけれど、リョウマくんが登ったHOLOS(三段)をやりに行った。
近くにある二段をリピートしてアップ。体は重いけれど、なんとか登れた。
本題のHOLOSは、スタートがいきなり悪い。
左のでかいアンダー両手だと浮けないので、右下のアンダーカチとセパレートでやったらスタートできたので続行。
このスタートでは1時間くらいトライして登れた。
が、後ほど確認したらやはりスタートは左のアンダー両手だったので、やりなおし。
必死で離陸→着地を高速で繰り返し、何とか1手目を出すくらいはできた。
課題の内容は、意外と数が少ない瑞牆の三段の中でも屈指のものだと思う。

12/4、今シーズン初の野猿谷。
以前からこっそり気になっていた、猿猴捉月図(二段)をやりに行ってみた。
アップでエリア5の日当たりがいいところの課題をパラパラと登った。
なんだか遠山川の課題を思い出すような水の川(初段)も登った。
本題の猿猴...は、見るからに核心っぽかった前半は案外早くできたものの、
この課題の本当の核心は明らかに後半のスラブ。
ホールドもフットホールドも割と明瞭にあるのに、これができない。
かなり頑張ったけれど、結局スラブを這い上がれなかった。
その後はエリア4→3へと下り、モンキーシャドウ(二段)、サル伝説SD(二段)を登った。
見た目には1級なさそうなサンシャインスーパーマン(初段)には完全に敗退。宿題か...
最後に猿人サークル(1級)をぷるぷるしながら登って帰った。

12/18、久しぶりにSSKでボルダー。大ザルもやってきた。
本当は野猿谷に行きたかったけれど、前日の雪をうけて「これは無理」とSSKにした。
行ってみると、雪はないもののSSKでも十分すぎるくらいに寒い。
日陰では登れる気がしなかったので、日当たりのいいパスウェイの岩へ。
この岩でまだ登っていなかった48(二段)と近くのたきちハング(初/二段)を登った。
やるものがなくなったので、少し戻って大ザルをシャークティースの周辺に案内。
ついでに、前に来た時に気づいて気になったシャークティース左の課題も登った。
両手アンダーからリップにドーン、あとはマントル。
マントルを返すところでホールドに土が詰まっていて危なかった。
帰ってから確認したところ、早春賦(二段)とのことだった。

12/24、クリスマスイブでも構わず野猿谷へ。やっぱり寒波で寒かった。
最近ブログに載せる写真を全く撮っていないことに今更気づき、登った岩の写真はできるだけ撮ることにした。
駐車場でばったり会った知人を案内してエリア9まで上がり、日当たりを求めてエリアの上の方へ。
この辺りの課題はやったことがなかったので、ちょうどよかった。
気温はかなり低いけれど、風さえなければそこそこ快適に登れた。
アップで数本易しい課題を登って、まず御神渡り(初段)を気持ちよくゲット。
それから邪宗門(1級)もやってみたら、スタートホールドで指を抉られた。
見た目が良いわりに登られている様子がないのはそういうことか?
邪宗門

続いて結構高い幻日(二段)。
なんだか見た目にはもう少し易しそうだな...でも高いな...と思いつつ届く範囲で掃除してトライ。
核心だと思われる中間部をこなして、上部も咄嗟に心臓が止まりそうなハイステップを繰り出してOSできた。
幻日

さすがに二段はない気がするけれど、とても良い課題だった。
続いて少し下って三狐神(初段)も登った。
初めは???だったけれど、ホールドの持ちどころが分かったらできた。
三狐神

で、ようやく本題の猿猴捉月図。新しく買ったキメラが威力を発揮してくれるか。
前回のハイポイントには何トライ目かで追いつけたものの、やはりそこからがもろに核心。
キメラの爪先の感覚は確かに良い気がしたけれど、単純に使用者の技量の問題らしい。
一応、ハイポイントは更新して実質あと1手というところまでは進んだ。
この1手、というか1ムーヴがサクサクできるくらいになりたいのだけどなぁ。

12/25、クリスマスだけれど、やっぱり野猿谷へ。
冬型が少しは緩んでくれることを期待したけれど、風は相変わらず冷たく吹いていた。
いつものように、エリアを一度通り過ぎてマウントピア黒平で受付し、お金を払って、エリアに戻って車を開けたところで気がついた。
「あ、マット忘れた。」
2枚もあるボルダーマットを2枚とも家に置いてきてしまい、車の後ろは空しくすっからかん。
でもお金払ったし、このまま帰るのはなぁ...となったので、とりあえず登りに行った。
これもまた気になっていた猿の王(二段)にロープを張って降りてみたけれど、
これはマットがあるときに地面からトライした方が良さそう、ということで今回は見送った。
特に目当てもなくぶらぶら上がっていって、マットを敷いても意味がなさそうなドランクモンキー(初段)は数回で登った。
次はこれかな、と思って見に行った低めの二段はリップが凍り付いていたのでやめて、
結局エリアの入り口付近までもどって猿楽(初段)をやってみた。
見るからに出だしの数歩が悪そうなので、マットがなくてもまあ大丈夫そう。
が、当然浮いては落ちるを繰り返してやきもき。
足ふきマットくらいは持ってくるんだったと反省。
指もソールも結構減った頃にやっと問題の数歩を抜けて、後半のスラブでまたぷるぷるしながら必死で這い上がって登った。
猿楽

この日は夕食を作る約束をしていたので、早めに撤収して買い物をして帰ることにした。


というところで、年の瀬が目の前に迫ってきた。
登り収めと思っていた日にマットを忘れてメンタルの弱さを痛感したわけだけれど、
それだけで1年を締めくくるのはちょっとアレなので、もう1日どうにか登りたい。

2022年12月15日木曜日

燃える心

『油断』という言葉がある。由来は諸説あるそうだ。
そのひとつは、比叡山延暦寺にある法灯で、最澄の時代から火をたやさないよう、油を継ぎ足しているという逸話から、というもの。
この話は中学生くらいの頃に、聞いたことあった。
今再び思い出してみると、ひとつの疑問が湧く。
「継ぎ足した油が違う油になったら、その火は同じ火だと言えるのだろうか?」

ヨセミテから帰った翌週、不動沢の宝島岩にあるプロジェクトを登った。
パートナー見つからなかったので大ザルに声をかけてみたら、ビレイだけしに来てくれた。
ありがとうございます。
海の向こうへ行っている間に瑞牆の季節は進んでしまい、冷たい風が吹いていた。
天気がいいので、日向に出るまでの我慢と考えて、千両滝の横を下った。
取りつきに着いてみると、なんとルンゼの側壁にある1P目まで日が差し込んでいる。
おかげで極寒の中震える羽目にはならずに済んだ。

このルートは宝島や浸食の造形をリボルトした後、ラペルして掃除とボルト打ちをした。
浮いている岩もそこそこ落とし、ここだとラインを定めたのが梅雨入り前。
壁のあちこちに生えるツツジが満開で、綺麗だった。
3ピッチの、おそらく5.11の真ん中くらいになりそうなルートに見えたので、
フィックスにぶら下がってムーヴを探ることはせず、地面から順番にトライすることにした。
それから、ヨセミテに向けたトレーニングやらなにやらに精を出しているうちに夏が来て、
何度か掃除の続きをしに足を運んだものの、登れそうな状態になったところで出発となってしまった。

1P目は千両岩と宝島岩の間のルンゼの左壁、顕著なコーナークラックに入っていく。
すぐ左にどうやら室井さんの銀竜草というルートがあるらしいが、完全に自然に還っていて詳細は分からなかった。
ヨセミテ帰りの固くない手の皮には、瑞牆のクラックはなかなか痛い。
ひんやりとした空気と岩、ジャムを決めるたびに食い込む結晶を感じつつ、懐かしさも覚えた。
コーナーを登って壁の中段のブッシュに突っ込み、2P目の取りつきまで伸ばしてピッチを切った。

2P目は宝島フェースの右端、茶色っぽい壁のコーナーを登り、後半は右上のフェースに出る。
コーナーの中は岩が脆く、クラックの中は埃っぽくてあまり快適ではない。
おまけにすぐ横に長さ2メートルほどのエクスパンディングフレークがくっついている。
これはどんなに蹴っても、鉄棒を差し込んで引いても取れなかったので、そのままになっている。
叩くと明らかにマズそうな音がするこのフレークをおっかなびっくり掴んでコーナーを抜けた。
フェースに出ると岩が固くなり、緊張も解けた。
もう少し入念に掃除をしてもよかったな、とも思うけれど、そこはあまり気にしないことにする。

3P目は宝島フェースの右側が張り出し、バットレス状になったその頭へと抜けていく。
フェースムーヴをこなすとぽろぽろと欠けそうなアンダーフレークがあり、
出来るだけ丈夫そうな奥の方へとカムを突っ込む。
フレークを抜けた先の核心が思っていたよりも長く、結構ドキッとした。
ラインを見定めて掃除したときにどんなホールドがあったか、だんだん淡くなってきた記憶を頼りに手を出していくと、
最後のマントルまでなかなかハリのあるクライミングになった。

大ザルがユマールで登ってきて、フィックスも巻き上げ、木に巻いてあった捨て縄も回収した。
これでこの壁に残ったのは自分が打ったハンガーボルトのみ。
今回は、これでいいだろう。


グラウンドアップ、それも完全にフリーでのグラウンドアップに憧れる気持ちが、今の僕にはある。
しかし当然、それはそう滅多に実現できるものではない。
よほどの幸運で、諸々の条件がそろっていない限り、手をつける前に相応の選択をすることになる。
ラペルするのか、下から登るのか。
ボルトを打つのか、打たないのか。
リハーサルをするのか、しないのか。
すべての選択が後者となるようなルートに出会えることは稀だろうと思う。

善し悪しの話をするのであれば、オールフリーでグラウンドアップ、しかもオンサイト、というのが一番いいのだろう。

この数年の出来事の中で、自分の理想について想いが揺らぐことが何度もあった。
休職と転職、新たな生活、Humbleの完成、五島でのクライミング、宝島との出会い、リボルト、そして初めてのヨセミテ。
僕の場合、揺らいだ想いが再び定まるのには時間がかかる。
単に優柔不断なのか、それとも心が未熟なのか。それは分からない。
ともかく、その揺らぎの中で僕はこのルートを登ることに決め、ラペルで掃除とボルト打ちをした。
そしてひとつまみのこだわりで、リハーサルはせず地面から登ることにした。
ラペルで掃除をした時点でルートの内容は大まかにわかるし、ホールドやプロテクションの予想もついてしまう。
だからこれはオンサイトではないし、グラウンドアップでもないのだろう。
ともすれば中途半端なやりかたに思えるし、よりよい登り方があったかもしれない。
しかし、「それでもせめて」と地面から登ることにしてよかった、と思う。
冬の足音を聞きながら、日の当たる宝島岩を登った時間は充実していた。

スタイルのことはともかく、宝島や隠し金探しのようなルートを初登したいと、よく考える。
それら名作にはまだまだ及ばないけれど、このルートは僕にとっては十分に楽しく、価値のあるものだった。


継ぎ足した油が違うものだったとしたら、もうそれは同じ火とは言えないのかもしれない。
それがもし油ですらなく、薪になってしまったら、やはり同じ火とは言えないだろう。
しかし依然、火はそこで燃えている。熱を発している。
その火がただ揺らめいているだけでなく、蒸気機関のようになにかを前に動かしていくのなら、僕は燃やし続けたいと思う。

燃える心 3P 5.11b
1P目 5.10a 30m NP
2P目 5.10c 20m NP+ボルト1本 
3P目 5.11b 20m NP+ボルト2本
使用ギア カム#0.3~#4、オフセットカム数個、アルパインドロー複数本


〈追記〉
燃える心、というのはヤマツツジの花言葉をもとにつけました。
が、この岩場に咲いていたのはヤマツツジではなくミツバツツジだった模様。
名前を変えるかどうか0.5秒くらい考えましたが、結構気に入っていたので変えないことにしました。
ちなみにミツバツツジの花言葉は、「節約」だそうです。

2022年12月5日月曜日

Yosemite 5

10/30  Salathe Wall day3
3日目。自分たちのすぐ前に、Golden Gateへ行くパーティーがいたので、少し遅くスタート。
登りだしたのは、結局10時前だった。
昨日張ったフィックスを登り、そのうえで4thが1ピッチ。
その次に現れたのがHollow Flake(5.11d)。
すぐ前のパーティーはフォローが登っている最中だった。
それを見て「・・・これ登るんか」と思った。
2mほど左にトラバースして、いきなり始まるとんでもない長さのクライムダウンに怯む。
いやいや、ここで止まってはいられない、と落ち着きなおして、ひたすら下を目指した。
無心のレイバックで下っていくと、思ったよりも個々のムーヴは易しく、
何か所か慎重にこなす必要があったけれど、無事Hollow Flake本体へトラバース。
あとはまた延々続くフレークをレイバックで登り返した。
トポには「ビレイヤーと同じ高さで#0.3がひとつ入る」とあったけれど、
実際に登ってみるとビレイヤーよりも1mくらい低く見えた。
100m近いクライミングで、プロテクションは出だしのボルトとこの#0.3のみ。
あとは見た目よりは易しいスクイズチムニーを、また無心で登った。
自分にはヒールトウが効くサイズだったのでラッキーだった。

Hollow Flake上のレッジでよくよく話し合い、今回はここまでで下降することにした。
頭上に見えるEl Cap Spireまでは、近いようで、遥か遠かった。
壁が巨大すぎて目測が狂うことにも、もう慣れてきた気がする。
Heart Ledgesまでのラペルはかなり斜め方向に降りなければいけなかったけれど、問題なく降りられた。
今回最後に見た景色

最後の夜は、持ってきたAlpine AirとAdventure Mealを両方食べて満腹になった。

10/31  El Cap day4
朝はゆっくり起きて、朝食を摂り、日が当たってきた頃から下降を始めた。
パッキングすると、水や食料が減った分、ポータレッジも含めて70Lのホールバッグ二つになんとか入ったので、
不安は多少あったけれど背負ってラペルすることにした。
ただ、これが実際は負担になったらしく、地面に降り立った時は二人ともへとへとだった。
特にポータレッジを背負ったあさこさんは、重心が後ろに持っていかれそうになり、
それを堪えるのに相当な筋力を使っていたようだった。
ゆっくりした歩調で車に戻り、荷物を片付けていると、観光客らしき老夫婦に声をかけられた。
ルートの途中で降りてきたと伝えると、「無事でよかったね、おめでとう」と言ってくれた。

Camp4に戻ってシャワーを浴び、Degnan'sへ行って通信をして帰ると、なにやら寒気が。
疲れが一気に出たのか、風邪気味になり、しばらく昼寝。薬も一応飲んだ。
昼寝から起きて体調が少し回復し、トポを読んでいると、Freeriderを登ったノミカシペアが帰ってきた。
3泊4日の予定を1日延長し、飢えにも耐えてEl Capitanを登り切った彼らを前に、
出国前、SalatheができなくてもFreeriderで抜けられればいい、などと話していた自分を,
内心恥じた。

11/1  Camp4撤収
予報ではこの日から天気が崩れるということだったので、Camp4を撤収した。
午前中、ノミカシペアがやってきたので土産話をどっさりと聞いた。
夕飯をCurry Villageで一緒にどうや、という話になったので、夕方に再集合することに。
こちらはハンス邸に装備を返しに行った。
しかし、ここでポータレッジのフライだけを返し忘れてしまった。
気づいたのは午後イチ、この時は天気も崩れる前で、「夜にいけばいいか」ということになった。
が、天気はそれからどんどん下って雨。Curry Villageでピザパーティーをしているうちに雪になった。
ちなみに、Curry VillageのPizza Deckは最高。特にホワイトソースのWhite Wolf Pizzaが4人の間での1番人気だった。

さて、ノミカシペアと別れ、どんどん景色が白くなってくる中Yosemite Westを目指した。
が、ビューポイントのあるトンネルの手前でレンジャーが道路を塞いでいた。
交渉も空しく「道が開くのを待つか、このまま帰るかどっちかにしなさい」とのこと。
Yosemite West経由でOakhurstへ抜けるWawona Roadは、標高が高くクローズされやすいらしい。
仕方なく、標高が低いEl Portal RoadからMariposaへ抜け、そこから南下してOakhurstへ。
途中Air BnBで予約した宿で泊まることになった。

11/2~4  Oakhurst~Fresno~LA
Oakhurstの宿はBird Bath Waterfallという名前で、Air BnBのサイトでは勝手に日本語訳されて『鳥風呂の滝』と書いてあった。独特の語感。

11/2にはもう一度Mariposaへ出かけてクライミング博物館で土産を買ったり、
あさこさんがOakhurstで見つけたReverent Coffeeで豆を買ったりした。
このReverent Coffeeが今回の旅で一番のお店だった。
腰が低く且つ気さくなオーナーのコーヒーへの熱意が伝わってきた。
試飲させてもらったコーヒーも美味しかったので、結構たくさん買った。
これからYosemiteに来る度に、買いに寄りたい。

それからタイヤチェーンを買ってWawona RoadからYosemite Westにも行った。
途中雪が本降りになってヒヤヒヤしたものの、チェーンは一度もつけずにハンス邸にたどり着いた。
なんとかギリギリ、借りたものはすべて返却。
ノーマルタイヤでのドライブは怖かったけれど、なんとかなってよかった。

11/3には天気が回復したものの、Yosemiteはもう雪の下になったようだったので、
予定よりも少し早く南下してLAへ向かうことにした。
午前中にOakhurstにある怪しげな古道具屋を物色し、ゆっくりとFresno方面へ。
なんとも、とにかく怪しげ

もう登れる日はないので、自分の気持ちは途切れてしまって、ただフラフラと消化試合的に移動日を過ごした。
Fresnoに出てからはスーパーを何件かハシゴして、REIにも寄り道。
さらにBakersfieldでウォルマートにも寄って、この日はLAの北にあるHungry Valleyでキャンプ。
だだっ広い荒野で、月がものすごく明るかった。
風が強く寒かったので、夕食はテントの中で作った。
泊まったのはEdison Campgroundというキャンプ場。
発明王との関係があるのかないのかは、最後まで分からなかった。

11/4はLAまで少し移動し、ダウンタウンにあるクリニックでPCR検査。
午後イチの予約だったので、先にあさこさんイチオシのOhMyBurgerでランチ。
普段日本でハンバーガーを食べることはほとんどないけれど、
たしかにこれが日本にあったら食べに行きたい、というくらいに美味しかった。

PCR検査は15分で結果が出て、無事に陰性。
値段的には結構痛かったけれど、時間には代えられない。
あとは給油、洗車を済ませてレンタカーを返却、空港へ向かった。
フライトは次の朝なので、この日は空港泊。
出国ゲートを通った先にしか快適なベンチはないので、
硬いベンチに座って、どこから来てどこへ行くか知る由もない人の波を眺めつつ、長い長い一夜を過ごした。


Yosemite 4

10/26  荷揚げ
荷揚げの日。朝は8時にCamp4を出た。
当然のように、日が差さないうちはキンキンに寒い。

Heart Ledgeへのフィックスの取りつきに着くと、先行パーティーあり。
どうも僕らは2番手のようだったけれど、直後に来た強そうな2人組に順番を譲り、3番手になった。
荷物はホールバッグとポータレッジ(2人用+フライ)、合計で53kgだった。
マイクロトラクションを一つ噛ませただけのスペースホーリングでは上がらないだろうと、
Camp4で知人から教わったZシステムというのを試してみた。
が、これも相当に手間取った。
半分くらい四苦八苦して上げたところで、下した荷揚げロープにあさこさんの体重をかけてもらうと、
さっきまでの苦労はなんだったのかというくらいにシャーシャー上がった。
なんだ、スペースでもいけるじゃん!
支点についたところで次の荷揚げに移るところで手間取ったりもしたが、それもだんだん慣れていった。
すぐ後ろを上がってきたローカルのお兄さんに助けてもらいつつ、スタートから4時間くらいでHeart Ledgeに到着。
初めてのビッグウォールの荷揚げとしては、御の字だろうか。
壁の傾斜でロープにかかる摩擦が大きいところでは、やっぱりZシステムも使う必要があるけれど、
警戒していたよりはずっとスムーズに上がって一安心。
ハカセが授けてくれた、Metoliusのノーズコーンが相当に優秀だった。

こんなに近くに鹿が

フィックスの混雑を縫ってラペル、そのままOakhurstへ出かけ、街道沿いのOakhurst Grillへ。
荷揚げお疲れさまということで、美味しいハンバーガーをいただいた。



10/27 レスト
ゴーアップ直前のレスト。ゆっくりと起き、ギアの買い足しとパーミッションを済ませてシャワー。
昼食後はそれぞれに出かけて過ごした。
僕はEl Cap Meadowsに出ていって、双眼鏡を手に壁を眺めてみた。
この壁がいかに複雑な形をしているか、トポと見比べながらやっと分かってきた気がする。
それを読み解いて、挑んできた先達がどれだけ勇敢で、強かったか。
自分はまだ、読み解くことができていない。
しかし、彼らの足跡を追っていくだけでも、この時間に価値があるのだと信じたい。
芸術家が模写して学ぶように。棋士が棋譜を見て差し手を学ぶように。
明日からSalatheに取りつく。ヘッドウォールまで辿り着けるだろうか。
そこにある何かを目にすることもなく、はじき返されるかもしれない。
考えた分だけ、不安も膨らむ。
しかし一歩でも半歩でも、踏み出したいという気持ちのままにここへ来たのだ。
恐れはあってもいい。恐いと思うまま跳んでみれば、見えるものもあるだろう。
「えいやー」と踏み込む心ひとつで何かを得られた経験は、嘘ではない。
それに胡坐をかきたくない、それだけだ。

10/28  Salathe Wall day1
Freeblastからゴーアップ。朝は8時にキャンプを撤収して、9時にはSalatheの取りつきにいた。
が、前はやっぱり渋滞していて順番待ち。しかしそれもラジオ体操をしていたら空いた。
1P目(10c)をリードして、タグラインで荷揚げして、これが想定よりも重いことに今更気づいた。
2P目(5.8)はあさこさん、3P目(11b)は僕がリード。
11bのトラバースは思い切って動いたら意外とすんなり抜けられた。が、問題はその後。
タグラインとクライミングロープが交差したり、出だしのカムが抜けなくなったり、
かたや自分は荷揚げ中のホールバッグがチムニーに挟まって動かなくなったりと、トラブル連発。
最後にだらんと垂れたクライミングロープがクラックにスタックして、
登ってきたあさこさんに外してもらうというオマケまでついた。
いろいろとあったこのピッチで、一気に雲行きが怪しくなった。
4P目(10c)はあさこさんがリードし、Freeblastの核心にあたる5P目(11c)は僕がリード。
ここは慎重に登ってOSできた。雲が出て日差しが薄くなり、風が吹いてきたおかげで肌寒いくらいだった。

6P目(11a)はあさこさんが頑張ったものの、核心でエイドアップ。
寒さでつま先の感覚は皆無だったそうだ。
僕は時短のために荷物を背負ってユマール。が、ここでも少しトラブルが。
ユマールするためにしまっておいたショルダーストラップを付けなおすときに、
下部のベルトを片方落としてしまい、仕方なくスリングで代用。
辺りも暗くなってきた。
7P目(5.9)は僕がヘッドランプを点けてリード。Half Dollarの下でピッチを切った。
ここでランプの電池が残り目盛り1になってしまい、光量ががっくりダウン。余計に怪しくなる。
8P目のHalf Dollar(5.10b)があさこさんがまず行ったものの、核心が越えられずロワーダウン、リードを交代。
核心であるチムニーの入り口にピトンスカーが2つあり、どちらもカムとナッツで塞がっていたのでここはエイドした。
チムニーに入ってからは慎重にズリズリ上がった。トポには5.8と書いてあったけれど...
ここでも荷揚げでタグラインが岩角から外れず、一度ラペルして外すという手間が加わり、時刻はすでに22時過ぎ。
Mammoth Terracesまでの長い5.7は中間でピッチを切り、最後はあさこさんと交代。
互いにヘロヘロの状態でどうにかMammoth Terraceに抜けた。
Heart Ledgeへは下らず、2人分の幅のテラスでビバーク。
時間は1時近かったと思う。

翌日のことを考えたくないくらいに疲れていた。喉が渇いているのか、腹が減っているのかもよく分からなかった。
それくらいに気持ちに余裕がなく、ギリギリだった。
ゴーアップの日の荷物が70Lに満載になってしまったところで、この結果は見えていたのかもしれない。
シュラフはキャンプ用とビバーク用と2つ必要だし、他の荷物も荷揚げですべてデポしてFreeblastは小さい荷物で登る。
このことに思い至らずに、至極中途半端なやり方になってしまったツケが容赦なく返ってきた。
荷物が多いならフォローは登らずユマールにするべきだったし、
自分たちの採りうる方法を正しく考えられていなかったのだと思う。

ともかく、事故がなくて本当によかった。今はそれだけが幸いだ。

10/29 Salathe Wall day2
Mammoth Terracesで起きると、Heart Ledgeから登り始めている人々が見えた。
空腹なのもあって、次のピッチ(クライムダウン)を行く気力は湧かず、フィックスでHeart Ledgeまで下りた。
前日よりも多い荷物を上げつつワイド地獄を抜け、Alcoveまで行くのは無理だと判断。
丸一日レッジでレストすることにした。
老けている

遅い朝食を摂り、日が当たってくると少しずつ元気が出てきた。
が、日中は日向にいるのが辛いくらいの灼熱。
ロープを張り巡らしてシュラフをかけ、日陰を作って涼んだ。

水などを捨てて下降することも考えたが、それでもせめてEl Cap Spireへ向けてできるだけ登りたいということで、
翌日1日で登れるだけ登ってみることになった。
天気予報は早まり、11/1と11/2が荒れ模様。しかも冷え込んで雪も降るという。
この時点で、どれだけ頑張ってもトップアウトはできないことが見えていた。つまりは敗退。
しかしそれは初日の結果で予想できたことでもあったので、へたり込むほどのショックはなかった。
ただただ、じんわりと滲むように悲しく、悔しかった。
しかしあさこさんは、この大きな壁で過ごす時間が楽しく、有意義で、もっと登りたいと話してくれた。
ここに来られたことを喜びと表現してくれた。それだけでどれだけ気持ちが軽くなったことか。
夕暮れを待ち、レッジから始まる11cだけ登ってロープをフィックスしておくことにした。
トポに「すごくハードなムーヴの核心」と書いてあってビビったけれど、一瞬の緊張感のあと、OSできた。
夕映えの空の下、気持ちの晴れるようなクライミングだった。


Yosemite 3

10/20  レスト
昨夜はRostrum祝いに飲んだビール1缶(よく見たら9%だった)で潰れてしまった。
二日酔いはなし。よかった。
ゆっくりと起きてシャワー、昼頃に出かけてハンス邸で知人のデポ品から追加の装備を拝借。
谷に帰って、Curry Villageの休憩所にwifiがあることを確認したりしつつ、ギアショップで買い物。
先日Mariposaのスーパーで買ったコーヒー豆がなぜか行方不明になり、大捜索もむなしく空振り。
谷の中のお店では挽かれた粉しか買えないので、少しの間我慢する。
あとはDegnan’sで通信した。次の目標であるScarfaceの情報も集めた。
5.12が2ピッチある14ピッチ400mほどのルートを、1日でどれだけ登れるか。
Rostrumを登ったことで、少し前向きなイメージが湧く。
天気予報を見ると2日後に天気が崩れて、そこから気温が一気に下がるようだった。
残り2週間ちょうどで、天候を味方につけられるかどうか。

10/21  Curch Bowl & Cascade Falls Left
朝早くにChurch Bowlに行ってみた。が、寒くてスタートはゆっくりになった。
Church Bowl Lieback(5.8)とChurch Bowl Tree(5.10d?)、Energizer(5.11b)を登った。
Church Bowl Treeは、クラックが途切れた先に直上するボルトのラインがあったのでそこを登ってみた。
これがかなり悪く、11cくらいあるように感じた。
(後で調べてみると、10dは直上ではなく左のクラックに合流していた)
やってみたかった13aは倒木でふさがって登れなくなっていたので断念した。
昼間はCamp4でのんびり過ごし、3時にCascade Fall Leftへ。
この時間には日陰になっていた。
ここにある12のクラシック、Fish Crack(5.12a)とCrimson Cringe(5.12b)をやりたかった。
で、トポ上ではグレードが低いFish Crackからやってみたところ、核心で落ちてOSを逃した。
ワンテンで抜けて、2回目でちゃんとRPしたけれど、次に進む時間はなかった。
とにかくFishだけでも登れて嬉しかったけれど、一度温まった岩はなかなか冷えないのだな、と実感。
ジャムが終始温かかった。



10/22  レスト
予報どおり空は曇り。しかし予報ほどは寒くならなかった。雨が降るとのことだったのでレスト。
Mariposaへコーヒー豆を買いに出かけた。
あさこさんが前回、ガソリンスタンドのある角で"Rooster"の看板を見つけていた。
行ってみると、たしかにあった。Pony Expressoというカフェ。
看板によると、"Best Coffee in Mariposa"。
大きく出たなぁと笑いながら入ると、店内はかなり素敵だった。
スタバよりも自分は絶対にPonnyだ。
あさこさんは古着にプリントしたオリジナルTシャツをお買い上げ。
コーヒー豆も手に入った。

あとはすぐ裏のホームセンターでダクトテープなどを買い、スーパーにも寄った。
キャンプに戻ると、夕方には雨が降ってきた。一時大きな雹も降った。
仕方なく、今日はテントの中で夕飯を作った。
食べ終えて外へ這い出すと、星空が見えていた。明日の朝は冷えそうだ。

10/23  Liberty Capへのアプローチ
朝はゆっくりと起き、コロンビアボルダーの前でやっているClimber's Coffeeもいただいた。
昼前にCascade Falls Leftへ行ってみたものの、岩は既に鉄板状態。
先にFish Crackにトライしたあさこさんが、熱中症気味になって降りてきたので、
Crimson Cringeにはトライせずキャンプ場に戻った。

午後からScarfaceの準備。シュラフなども詰めると、70Lのホールバッグがいっぱいになった。
4時過ぎからScarfaceのあるLiberty Capに向けてアプローチ。
有名なJohn Muir Trailから分岐と合流を繰り返しながら続くMist Trailを歩いていった。
Vernal FallとNevada Fall、2つの滝を横目に休憩も入れつつ歩いて、暗くなるころに壁の下に着いた。
右がLiverty Cap、左端がHalf Dome

Vernal Fall(この左岸にMagic Lineがある)

あとは荷物を広げてビバーク。
夕食後、ひとりで水を汲みに行った。ヘッドランプが寒さのせいかやけに暗く、かなり心細かった。
こんなときに限って、最近見たホラー映画とかばかり思い出してしまう。
しかし星空は信じられないくらいに明るく、美しかった。

10/24  Scarface
Scarfaceを登る日。夜明けとともにスタートしたものの、とにかく寒い。
冬の瑞牆で震えながらボルダーをしているようだった。
1P目(11a)はボルト交じりのコーナーで、慎重にこなしてなんとかOS。
2P目(10b)であさこさんがあまりの寒さに下りてきて、リードを交代。かなり冷たかった。
3P目(10d)はあさこさんがエイド交じりでなんとか越え、日の当たるテラスに出た。
ここで時間は12時を回り、寒さで固まった体はかなり痛かった。
行動食を食べて、二人で相談し、上へは進まずラペルすることにした。
つい1週間前まで、日陰は涼しく登りやすかったのに、一気に冬が来た。
この気温の乱高下はかなり効いた。
寒さへの耐性はそこそこある方だと思うが、それでも限界はある。
初めてのYosemiteで、日本との気候の違いの洗礼を受けた気分だった。
あさこさんはあさこさんなりの悔しさを感じているとおもうが、
自分がこのScarfaceで感じた自分なりの悔しさは、忘れずにいたい。
自分がなぜそう感じるのか、その理由も含めて大切にすべきだと思う。

帰り道はMist TrailではなくJohn Muir Trailから帰った。
こちらの方が傾斜は緩いが、距離は倍くらいあった。
行く先に人だかりができているのでなにかと思ったら、トレイルの横の木にクマの親子が登って食事をしていた。
どうもここのクマは人目に慣れているらしく、なんともゆったり食べていた。


10/25 レスト
結構、下半身にきていた。
午前中からSalatheの装備を整えた。
水やら食料やらを並べて、不足分を書き出し、Village Storeなどで買い出し。
それからSalatheの下1/3にあたるFreeblast(5.11c 9P)のギアの情報も集めて、使わないギアは荷揚げすることにした。
キャンプに戻ってあさこさんと相談しながらパッキング。
水のボトルにダクトテープを巻くなどの細工もした。
この時間が充実していた。
パキスタンのチャラクサ氷河でIqubal Wallを見上げて話し合ったときと同じ、
用意に使う時間の楽しさがあったと思う。
あさこさんともそれを感じられたことは嬉しかった。



Yosemite 2

10/16 レスト
Mariposaの町へ出かけた。泊っているYosemite Westから1時間半くらい。
来るときに通ってきたOakhurstと同じくらいの、割と小さい町だった。
ゴールドラッシュの頃に栄えたのだとか。
買い物、洗濯をして、町をぶらぶらしながら土産も買った。
『Little Ramen Shop』と書いたお店もあったが、これは入らず。
「さて帰るか」と、最後に給油したスタンドの向かいに、Climbing Museumというのを発見。
ここで給油しなければ見逃していた。
そして、これがとてもよかった。

黄金期として知られている60年代よりもさらに前、初めてこの地で岩が登られた40年代以前の歴史と、当時の道具を伝えている。
Salathe Wallの由来であるJohn Salatheが、近代的なピトンを開発した人だということは初めて知った。
ギフトショップも小さいながら、売られているものがこれまた素敵。
時間はあっという間に過ぎ、気づけば夕方になっていた。
思いがけず、いいレスト日になった。

10/17  Cookie Cliff & Amphitheatre
日中があまりに暑いので、早朝と夕方に登る作戦をとってみた。
暗いうちにハンスの家を出て、まずはCookie Cliffへ。
日が当たる前に何本か登りたかったが、ここは岩場が南東を向いているらしく、思ったよりも早く日向になってしまった。
あさこさんとお互いに1本ずつ登って、完全に日向になってしまい撤退。
Meat Grinderの1P目(5.9)を僕が登り、あさこさんは1P目と2P目をリンクして一気に登っていった。
スケールは実に70m超。圧巻のオンサイトだった。

昼間はCamp4にチェックインしてゆっくりブリトーを作ったり、借り物のポータレッジを組んでみたりして過ごした。

日が傾いてから、Lower Fall Amphitheatreに出かけた。Camp4から歩いて20分くらい。
Yosemiteの他の場所とはちがう、独特な見た目の岩だった。
磨かれてはいるけれど、形状はかなり豊かだった。
ここではRanger Crack(5.8)とTen Years After(5.10d)を登った。
あさこさんはまたまたTen Years Afterで気迫の登りを見せ、一撃。
粘りの登りが見られて嬉しかった。


10/18  Swan Slab & Jungle Gym
午前中はCamp4のすぐ隣にあるSwan Slabでポータレッジを組む練習。
壁の上からラペルして、スラブの中の小さい足場で組み立ててみた。
なかなか骨の折れる作業だったものの、思ったよりはスムーズに完成。
壁の傾斜がないのもあって、レッジを水平にするのが難しかった。
これでビバークしながらクライミングができるなんて素晴らしい。

午後はCascade Fall Leftでクラックを登るつもりだったけれど、
午後から日陰というトポの記述を信じて行ったらカンカン照り。
仕方がないので、谷の対岸にあるJungle Gymで登ることにした。
Chapel Wallに見た目が似ていないこともないが、アプローチからして藪が遥かに濃かった。
Flight Attendant(5.10d)を登り、トポで☆☆になっているThe Viper(5.11c 2P)をやってみたら、これが凄かった。
アプローチピッチの5.7がとにかく荒れ放題。
苔は生え放題、ブッシュは伸び放題。倒木も溜まり放題。
しかしそれを我慢して抜けた先にある2P目は、確かに素晴らしかった。
薄かぶりのシンハンド~ハンドで、多少汚いところもあったものの、集中してOSできた。
あさこさんもノーテンでフォローしてきた。
トポに書き添えられている「grungyなアプローチがなければ☆☆☆」という記述はまさにそのとおりだった。
隠れた名作、ということで。
(grungyは「荒れ果てた、不潔な」という意味らしい)
Grungy

2P目

10/19  Rostrum
North Face(5.11c 8P)を登った。
前日の夕方に装備を整え、朝食も軽く済ませて、夜明け前に出発。
5:00起床、5:50出発、6:40歩き出しというところ。
アプローチはかなり分かりやすく、暗くても迷うことはなくて助かった。
ラペルで取りつきに降りて準備をしていると、すぐに次のパーティーがやってきた。
タッチの差でなんと一番乗り。ラッキーだった。


登る順番は奇数があさこさん、偶数が僕。つまり完全にツルベ。
1P目(5.9)から苦しいチムニーが出てきてフォローでも息が上がる。
2P目(5.11a)は出だしに核心があって、これまたドキッとしたけれど、それほど苦労せずに抜けられた。
3P目(5.10d)は特に長いピッチで、レイバックの核心をあさこさんが頑張って越える。
3P目上の大きなテラスで小休止して、次のパーティーに追い付かれる前に4P目へ。
日陰はそこそこ寒い

4P目(5.11c)がグレード的にはルート全体の核心に当たる。
これは思っていたよりも短いフィンガーで、サイズも得意系でラッキーだったけれど、OSがかかっているので緊張した。
タイトなフィンガーをこなすとあとは5.9で、無事に抜けた。
5P目(5.10d)で再びコーナー~レイバックの核心があり、あさこさんがまた気合のOS。
6P目(5.10a)は隠れた核心と言われているらしく、実際やってみると、絶対に10aではなかった。
出だしのトラバースから最後のワイドまで、10aに感じるセクションはほぼなかった気がする。
自分なら11aをつけるだろうな...と弱っちいことを考えつつ、息を切らしてOS。
フォローで上がってきたあさこさんも、少しの間放心状態だった。

7P目(5.11b)は最後の核心となる前傾シンハンド。
実際にシンハンドになるのは一瞬で、それ以外は少し太かったり細かったり。どちらにしても中途半端なサイズで登る。
あさこさんは直前のワイドでの疲れを感じさせない登りで見事にOSしていった。
本当に感動する登りだった。あまりのことに、後続のパーティーに自慢した。
これはフォローでも絶対に落ちられないと思い、僕も荷物を背負って必死で抜けた。
8P目(5.10a)の洞窟トラバース~ワイドのダメ押しにビビりながら、なんとか切り抜け、頂上へ。
最後のチムニーを抜けだすと、登ってきた人のすべてを受け入れるかのような立派な松が生えていた。
登りだしが7:30頃、頂上に立ったのが15:30。
チームオンサイトでノーフォール。これ以上ない結果だろうと思った。
一緒に会心のクライミングができたことがただただ嬉しかった。


お祝い

Yosemite 1

10月10日から11月6日で、Yosemiteに行ってきました。
クライミング歴21年目にして、初めてのYosemiteです。
こう話すと、10人中8人くらいに「行ったことなかったの!?」と言われます。

ツアーの発端は、「Salathe Wallのヘッドウォールを登ってみたい」という僕の希望。
結果から書くと、Salatheはルートのちょうど中ほどでの敗退に終わりました。
やはりというか、そこはEl Capitan、そう簡単には登らせてもらえませんでした。
ただ、その一言で終わらせるには勿体ない4週間だったのは間違いありません。
いつものごとく、旅の間に書いていた日記を多少加筆しつつ載せていきます。

10/10 移動日
車で成田空港近くのパーキングへ行き、車を預け、シャトルバスでターミナルへ。
預入れの荷物は、ダッフルバッグ+ホールバッグ満載で巨大。
これは前日に追加料金を払っておいたので問題なし。
今回初めて使ったZIPAirは、LCCということで機内食は注文しないと出ない。
それでも設備は新しく、機内のWifiもそこそこ使えて、なにより空いていたので快適だった。
ロサンゼルスには朝9時前に着き、入国手続きを終えてレンタカーも無事借りられた。
窓口で手続きをすると、「君はZone Cに行け、キーは車の中にあるから」とだけ言われ、
案内や説明も特になく終わり。
Zone Cは安めのプランで借りられる車が並んでいるようだった。
僕らはスモールカーを予約していたけれど、SUVが何台もあったのでそっちを借りることに。
何度かアメリカには来ているけれど、このシステムは初めて。特に追加料金もなし。
それからはSanta MonicaのREIで買い物をして、あとは一路、Fresno経由でYosemiteへ。
休憩、買い出しなどをしていたら到着は21時を回ってしまった。
Camp4へ行き、予約で割り当てられたサイトに荷物を運びこんで就寝。

10/11  El Cap Base
8:30にレンジャーがCamp4のキオスクに来るので、それを待ってチェックインを済ませた。
朝の散歩でCamp4のボルダーも見学。
それから公園のエントランスへ行って、年パスを購入。
80ドルでどこで出入り自由というのは安い気がする。ただし、円安を度外視すればの話。
その後Curry Villageのギアショップ等も偵察した。
午後、ゆっくりとEl Cap Baseへ登りに出かけた。この日は易しいクラックで肩慣らし。
La Cosita Left(5.7)、La Cosita Right(5.9+)を登り、有名なSacharer Cracker(5.10a)もOS。
約40mで、フィンガーからワイドまですべて出てくる。
クレイジージャムよりは難しかった気がする。Yosemiteの3つ星は伊達ではない。
夕日を浴びて朱に染まるヘッドウォールは、頭上に覆いかぶさるようだった。


10/12  Middle Cathedral
El Capの向かいにあるMiddle CathedralのEast Butress(5.10c 11P)を登った。
早出したつもりが、すでに先行パーティがいた。甘く考えてはいけない。
ルートは5.9までが9割で、ランナウトも多少するものの概ね快適。
核心の10cのスラブだけ、ちょっとピリリとしていた。
とにかく長く、岩も硬い。なにより、El Capの眺めが素晴らしかった(写真は撮り忘れた)。
このルートは最終ピッチを省いて下降用のルートをラペルするのが一般的らしいけれど、
僕らは折角なので最後まで登って、裏側へ歩いて下りることにした。
が、これになかなか手間取った。
ルートを間違えて右往左往、ラッペルすべきところでクライムダウンしてしまうなど、失敗が多かった。
登る壁が大きければ、その分下降にも長くかかるわけで、そこを計算に入れる必要がある。
それこそ、瑞牆の壁の比ではない。
季節的に日が短くなってきたことで、よりヘッドランプでの行動も意識させられる。
夕方早めの時間に帰ってくることができたけれど、ルートが易しかっただけかもしれない。
これは気を引き締めなくては。

10/13  レスト
レスト日。ゆっくり朝食を摂った。
まずYosemite Westにある、かの有名なハンス・フローリンの家(別荘)へ行き、ヒゲ先生のデポ品を確認。
管理人として住んでいるらしいディーンに会い、いろいろと立ち話をした。
実はこのとき、週末のCamp4の予約がいっぱいで、泊まる場所をどうするか悩んでいた。
あさこさんがその事情を説明すると、なんと泊めてもらえることになった。
なんてこった。温情に感謝。
帰り道、あさこさんが「こういうことがあるから、旅の人は助けてあげたくなる」と話していたのが印象的だった。
昼以降はビジターセンターでポストカードなどを物色、隣のAnsel Adamsのギャラリーにも行った。
ここでいいポストカードを見つけ、ついでにCorey Richの本も買った。
あさこさんはGlen DennyのYosemite in 60'sを見つけて即買い。
あとはDegnan's Deliで通信しつつコーヒー一杯で粘り、PCR検査についてリサーチ。
どうもロサンゼルスのクリニックを予約するのが良さそうということで、
公衆電話で予約をするために、ポストカードを出しがてら郵便局で小銭をゲット。
窓口のおじさんが、平泉成も顔負けのハスキーボイスだったけれど、両替をお願いすると親切に対応してくれた。
PCRの予約も無事に取れて、レスト日にこれだけできれば十分だろう。


10/14  Chapel Wall
朝イチでCamp4を撤収。
まずは谷の下流にあるGenerator Crack(5.10c)を登りに行った。
川原のハイボールを両断するワイドで、トップロープ課題。初のYosemiteでバーバラが敗退したというアレ。
結果、じゃんけんで勝った僕は見事に落ち、2回目でどうにか登った。あさこさんはFL。
ついでに近くのConductor Crack(5.10d)もやったところ、こちらも見事に落ちた。
あさこさんはこちらもOS。強い。
なんだか先行きが不安になりつつ、Chapel Wallに移動した。

Chapel Wallは日陰のスポートエリアだった。
この時期、Yosemiteの日向はまだ灼熱で、日中はとても登れないくらいだったので、
登るエリアの選択にかなり悩まされた。
日陰に入ると一転して涼しく快適なだけに、ますます悩ましい。
Golden Dust(5.10d)はじゃんけんで勝ったあさこさんがリードして、僕がフォローで回収。
Mr.Pink Eyes(5.11c)は逆に僕が勝って、ありがたくOS。
更に左奥の96 Degrees in the Shadow(5.12c)も気合を入れてOSした。なんだか石灰岩チックだった。
次に三ツ星のDrive by Shooting(5.12a)もOSして、最後におまけでNew Waves(5.11d)もOSして終了。
あさこさんも、Mr.Pink Eyesを登って嬉しそうだった。

10/15 Camp4 Boulder
ディーンに泊めてもらい、久々にベッドで寝た。これが眠りを深くしたのか、二人そろって寝坊。
Lower Yosemite Fallsあたりにでも行こうかと思っていたが、それはやめてボルダー。
Camp4のエリアは、週末ということもあって賑やかだった。
磨かれてツルツルのホールド(主に足)に苦しみつつ、易しめの課題を数本登って、
洞窟のようなところにあるBachar Cracker(V4)も数回で登れた。
この日一番盛り上がったチムニー課題(V3)

Bacher Cracker

ユタとコロラドから来たという2人組がやっていたThe Farce(V9)に混ぜてもらい、これも2回目でゲット。
更に難しい課題を触ろうかとも思ったけれど、あまり無理はしないことにした。
代わりに、スラブでのフットワークを練習することにした。
Cocain Corner(V5)とBlue Suede Shoes(V5)をギリギリ登って、
どうも馴染んだTCProが一番いいらしい、という結論に至った。