またしてもご無沙汰でした。
GWはそこそこな天気に恵まれつつ、パートナー難民だったこともあり、
ほぼボルダーか岩探しで終わった。
少しだけ涼しくなったので秋にできなかったほうとうに行ったりしたけれど、
半年たってみても相変わらず核心の一手は止まらなかった。
調子が悪いとかそういうことは感じないので、単純に力が足りないのだろう。
あとは、サル左衛門とショーンと開拓エリアで登ったりした。
さて、そんな連休の後半に、大ザルと不動沢のずっと気になっていたルートへ行ってみた。
「宝島」と聞いて、ピンとくる人はどれくらいいるだろうか。
そのルート名を出すと「お、気になってた!」という反応が返ってくることもあるが、
実際にその場所を知っている人はほとんどいないようだ。
宝島は5.11b 3P、名作隠し金探し(5.11c 3P)のすぐ隣の岩にある。
下2ピッチのアプローチの面倒くささ、登ったという話のなさ、隣のルートの人気の高さなど、
いろいろな要因が重なって、その立地の割に話題にのぼることはほぼないと思われる。
実は昨年、10年続いた弁天岩の開拓が一旦ピリオドとなり、
次の目標を探してうろうろしていたときにふと思い出して見に行ったことがあった。
道からも岩の取りつきからも、素晴らしいと噂の3P目はほぼ見えなかった。
それでも、隣の千両岩の質の高さも考慮すると期待できそうな気がした。
なにより、ラインを見出してボルトを打ったのは清水さん。これは面白くないはずがない。
大ザルが1P目のルンゼ、2P目の短いクラックをリードしてくれた。
どちらもほぼ自然に還っていて、特に1P目は大きな倒木や浮石があって恐ろしそうだった。
梅雨前でまだ山全体が乾燥していたので、それでも少しはマシだったのかもしれない。
3P目の下のテラスから見上げてみると、硬そうなスラブが広がっている。
左のカンテに沿うように、そこそこ傾斜の変化があるラインにボルトが打ってあった。
やはりというべきか、ラインは蛇行していた。
前に人が登ったのがいつなのか分からないので、結構緊張した。
実際に登ってみると壁は見た目よりも傾斜が緩かった。
ボルトは茶色く錆びたRCC、ホールドは埃っぽく、ポケットから木が生えているところもあった。
不動沢のルートでよく引き出される、グレード以上の力を出して、しかし手堅くオンサイトできた。
清水さんのルートらしく、岩の形状をとにかくよく見て辿ったライン取りになっている。
岩は硬く、派手なムーヴこそないものの、花崗岩での経験値と確実な読みが求められる。
以前ヘルスラブを登って感動した時の気持ちが蘇ってきて、しばらく興奮していた。
壁のトップまで抜けた後、同じ岩の別のラインをラペルして観察したところ、
そちらにも十分に可能性があることが分かった。
アプローチは多少面倒だけれど、やりようによっては面白いルートになるのかもしれない。
そう考えていて、すぐにふと思いつくことがあった。
「宝島はもっと登られるべきルートだ」ということだ。
このルートは初登以来ほとんど登られることなく、何十回目の春を迎えている。
このまま次の春も、またその次の春も、人が訪れることなくまた苔と埃ばかりが厚くなる。
それはあまりにも勿体ない、と思った。
これまでにもそう感じるルートは何本もあったけれど、きっかけを掴めずにいた。
長くかかったプロジェクトが終わり、一年経ってもまだ目標を探している今こそが、
それを実行に移すべきタイミングなのかもしれない。
というわけで、僕は宝島を掃除して、リボルトすることにした。
翌週、道具を一式持って単身宝島岩の上に回り込んだ。ホールドについた埃と地衣類をできるだけ落として、一度壁の上に戻る。
35メートルほどのこのピッチは、掃除しなおすだけでもそれなりに骨が折れた。
更にもう一度ラペルして、今度はハンマーを振るってボルトを抜いた。
もう何年も前に大ザルが隠し金探しをリボルトしたときに、
清水さんが打ったRCCはなかなか抜けなかった、という話を聞いた。
宝島も、もちろんそうだった。
この日はボルトの手配が間に合わず、穴を開けるところまでで撤収。
さらに1週間後の雨の日に、また一人で宝島岩に登ってボルトを打ち込んだ。
そのまま1~2ピッチ目も少し掃除して、邪魔な倒木はノコギリで切って落とした。
ロープも体もドロドロになったけれど、気持ちは晴れやかだった。
翌日、ルートの取りつきにケルンを積んでおきました。
僕はこれまで、ボルトを積極的には使わずにルートを開拓することが多かった。
そのやり方で登れるラインを探していた、というのが正しいと思う。
今でもその考えは変わらないし、今後開拓するルートもできる限りそうしたい。
しかし、ボルトを排斥すべきという考えは、僕にはない。
むしろ僕が登って「印象深かった」「勉強になった」と感じたルートの多くは、
ボルトを打って登られた不動沢のスラブにある。
そうしたルートが、僕の価値観を変えてくれたと言ってもいい。
ひとつのルートを登って何を思うか、それはクライマー次第だろうが、
少なくとも僕は、宝島というルートを登って強い感銘を受けた。
登って満足するだけはなく、何か次の行動を起こしたくて仕方なくなった。
そう感じさせてくれるものが、この地にはまだいくつも残っている。
ルートの終了点に、開拓者が残したと思われるスリングがあった。
木に巻かれたスリングはほとんど苔むしていて、幹に食い込んでいた。
時の流れを感じさせるそのスリングは、回収せずに残してある。
それが巻かれた時のことに思いを馳せつつ、次のルートを目指したい。
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