1月6日(月) 洞窟エリア
週間予報がそのまま当たり、朝は雨。「昼には止むらしいし、岩探しでも行くか」となった。
ゆっくり朝食を摂ってから、船の上からちらりと見えて気になったボルダーを見に行ってみた。
同じ宿に出入りしているアサイさん(a.k.a ワレメ長兄)が既に見に行っているらしい。
流石は兄上、機動力と行動力がある。
びしょ濡れで足元が滑る森の中をよろよろ下って行きつくと、サイズは期待どおりだったけれど、
圧倒的なハングの中にあるホールドがあまりにも悪すぎて、「これはもう五段とかそういう次元の話?」となった。
生まれ変わらないとできないような気が、なんとなくする。
とりあえず裏から上に回ってみた
それ以外に1か所、とても良さそうなラインがあったけれど、
雨上がりで湿っぽいのとボルダーモードではないというのを言い訳に登らず。
ただ、車まで帰りながら、トライすらしなかったことにどうにもモヤモヤしていた。
マルボーさんらが昼過ぎからお座敷エリアで登るよということだったので、駐車場で待って合流した。
そのときあさこさんがまた一言。
「洞窟エリアのあのライン、やっとかんでいい?」
あのライン、というのは初日にYabuくんと見上げたラインだった。
たしかにずっと気にはなっていたし、洞窟エリアに行くことがあればやろうと思っていた。
日程的にこの日が今回の大堂の最終日になるはずで、そこで折角水を向けてもらえたので、行ってみることにした。
思えば、午前中のボルダーのこともあってか、このままのんびりと終わって帰ることを受け入れたくなかったのかもしれない。
雨は既に止み、風が強く吹いていた。
その風で岩が乾いていることを期待し、お座敷でマルボーさんらと別れて洞窟エリアまで出かけた。
歩いているうちに雲が晴れ、日が差してきた。そして、洞窟エリアの岩は乾いていた。
ボルトが2本打たれたフェース(5.10b)を登って軽くアップし、目当てのラインをあちこちから双眼鏡で眺めまわす。
ゴリラ(5.9)の右のフェース、というかスラブに、ヘアラインクラックが一本走っている。
途中に顕著な水平クラックとアンダーフレークがあり、プロテクションは取れそうだった。
このためにと言わんばかりにありったけ持ってきたマイクロナッツ、ボールナッツを携えて、いざトライ。
フェースの中央から始まり、ガバフレークを辿って一度右カンテへ。
カンテを使いつつもう一段登って、中間のアンダーフレークにカムを固め取りして一度落ち着いた。
が、本題のヘアラインクラックに手を伸ばすと、思ったよりも閉じていた。
辛うじて開いている場所を見つけてナッツを押し込んだものの、効きが甘い気がしてくる。
頭の中は、大堂海岸から奥秩父の花崗岩へと一気に引き戻され、気づけば必死でフットホールドを探していた。
カンテを右手で押さえつつ、見つけ出したエッジに立ち、半ば祈るような気分でヘアラインを探っていくと、プロテクションを受け付けそうな穴を発見。
手探りでサイズを測り、選んだナッツをセットする。
クラックはカンテから徐々に離れていっているので、ここでカンテに見切りをつけて、クラックに入っていくしかない。
意を決してフェースの中央へと入り込むと、クラックは頭上でまた閉じてしまっていた。
一瞬「ヤバい!」と思ったが、もうカンテへは戻れない。足も疲れてきた。
ただ、クラックに正対したおかげで、先ほどセットしたナッツがしっかり効いていることが分かった。
あとはそのナッツと、シューズの性能だけを信じて突っ込んだ。
最後の1セクションをこなし、核心が終わる水平クラックに手が届き、やっと緊張から解放された。
この3年ほど、グラウンドアップでの初登攀をしてみたいと、ずっと考えていた。
五島列島では幸運にもその機会に恵まれたが、元をたどればその憧れは、大堂でのクライミングに端を発している。
そういうラインがどこかにないかと思いつつ、そうあるものではないと半分諦めて折り合いを付けながら月日が過ぎた。
今回、その始まりとなったこの岩場でこのルートを初登できたことは、掛け値なしに嬉しいことだった。
あさこさんは「今までで一番緊張したビレイ」と言っていた。ありがとうございました。
ルートについてはその後、大堂の先輩方に確認を取ったが、やはり未登だったようだ。
ルート名は、きらめく世界。グレードは5.11b PDというところ。Rはつかないはずだ。
お座敷エリアに戻ると、マルボーさんらが薄暗い岩の隙間でルーフクラックを楽しんでいた。
日が暮れてきて撤収となり、帰り道を歩いていると、
疲れた様子だったあさこさんが「明日の朝一であのルーフやってもいい?」と言ってきた。
次の日は丸一日移動日の予定だったけれど、そう言われたら勿論やるしかないでしょう。
ということで、次の日も少しだけ登ることになった。
右上の更に盛られているのは、ブリの心臓と卵!
1月7日(火) お座敷エリア→移動日
朝食後、お世話になった宿を引き払ってお座敷エリアへ。
曇りどころか雪が舞い、とにかく寒かった。
あさこさんは例のルーフクラックにトライしたものの、流石に寒すぎた様子。
「やる?」と聞かれたので、僕もやってみることに。
肩をぶんぶん回してトライし、無事にFL。
見た目はこじんまりしているのに、いざ登ると見た目の倍くらいの距離があるように感じた。
海岸の岩場にはこんな遊び方もあるのかと感心しつつ、撤収。
大月の道の駅で弁当を食べて、それから一路東へ。
曇天の四国をひたすら下道で走りに走って、高知から山を越えて香川へ。
坂出でうどんを食べ、大月で買ったブリの刺身を「超豪華デザートだ」とばかりに車中で切って食べた。
なんだか海賊にでもなった気分(例えがおかしい気もする)。
横風の吹き付ける瀬戸大橋を渡り、深夜まで走って赤穂のキャンプ場で泊まった。
助手席で刺身を切り出す海賊
旅はこのまま、尾鷲に寄り道しつつもう少し続く。