2023年10月10日火曜日

秋と呼ぶには

9月終わりでもまだ残暑が厳しかったのに、この1週間ほどで一気に涼しくなりました。
むしろ冷え込みすぎて朝晩は寒いくらい。
この週末は、朝一で山に向かうときに車の温度計が5℃を差していた。
所謂「秋」と呼べる季節は、本当に来るのだろうか。

9月の終わりの日曜日、瑞牆でひとりボルダーサーキットに出掛けた。
どうにも週末の度に雨が降ったりやんだりで、ちょっと涼しくなってきた以外は大して好条件でもなかった。
梅雨前に初めて100本のプランを作ってみてから、実はもう2回くらいサーキットをしているのだけれど、
どちらも夏の時期であまりしっかり追い込めず、「疲れたなー」くらいで終わったので割愛。
夏の終わりが見えてきた今回こそは100回るぞと意気込んで準備したはいいが、
金曜日に降った雨の影響が意外と尾を引いて、土曜日の山は湿っぽいまま。
コンディションはあまり期待できなかったので、当日はゆっくりしたスタートになった。

4回目ともなると、同じ回り方ではさすがに飽きる。ということで、今回はみんなの岩からスタートして逆打ちすることに。
また、回るスピードを上げるためにトライは3回まで。
課題が易しくても1回落ちると一気にシリアスになるルールになった。

以下、当日の記録。
9:55スタート
1. 集団登高 5級 1トライ 
2. みんなのスラブ 3級 1トライ
3. ベイトボール 3級 1トライ
4. 二重斜線 4級 2トライ
5. 望郷 2級 1トライ (10:15)


6. 算術 1級 3トライ
7. 計算尺 5級 1トライ
8. そろばん 5級 1トライ
9. 方程式 2級 3トライで登れず
10. イワタケ畑 3級 1トライ (10:50)


11. 少年 3級 1トライ
12. 氷柱 2級 1トライ
13. 黎明期SD 3級 2トライ
14. 東雲 1級 3トライ
15. 泉の家 初段 3トライで登れず (11:35)
16. 霞の目 3級 2トライ
17. 木漏れ日 2級 2トライ
18. 森の人 6級 1トライ
19. 森の生活 6級 1トライ
20. 茜雲 3級 1トライ
21. 草笛 1級 3トライで登れず
22. 団栗トラバース 3級 1トライ
23. 団栗 5級 1トライ
24. クリネズミ 4級 1トライ 
25. 寒空 初段 3トライで登れず  (12:35)
26. 冬の動物 3級 2トライ
27. 冬の来訪者 3級 1トライ
28. 先住者 1級 3トライ
29. 眠った風 初段 3トライ


30. カラクリ 1級 1トライ (13:50)
31. 百里眼 1級 1トライ
32. 一本桜 3級 1トライ
33. 桜餅 2級 1トライ
34. 夜を待ちながら 2級 3トライで登れず、泣きの1トライで登った
35. スーパークーロワール 7級 1トライ
36. 瑞牆レイバック 3級 1トライ
37. 桃源右 6級 1トライ
38. 桃源左 5級 1トライ
39. コールドスリープ 1級 1トライ
40. がちゃ豆 5級 1トライ
41. 日々の暮らし 1級 1トライ
42. カルカド 3級 1トライ
43. インタシン 3級 1トライ
44. 日暮右 3級 1トライ
45. 日暮左 2級 1トライ
46. 光合成 初段 3トライ (15:40)


47. 夏木立 1級 1トライ
48. シャリシャリ君 3級 1トライ
49. ガリ子ちゃん 3級 1トライ
50. リッチくん 5級 1トライ
51. ガリガリトラバース 2級 1トライ
52. ガリガリ君 1級 1トライ

車で少し移動。

53. 小藪の細道 6級 1トライ
54. 穴契約社員 3級 1トライ
55. ナーガ 1級 2トライ
56. 阿修羅 初段 3トライで登れず
57. ガルーダ 二段 3トライで登れず
58. 信徒 1級 3トライで登れず
59. ウッドマントル 3級 1トライ
60. チップクラック 2級 1トライ
61. デールクラック 3級 1トライ (17:30)


62. シマリス 5級 2トライ
63. スケルトンSD 1級 1トライ
64. 背伸び運動 3級 1トライ
65. ミトラ 3級 1トライ
66. トラツグミ 3級 1トライ (17:55)

67. VOCK 初段 3トライで登れず、泣きの1トライで登った
68. ロイヤルポケット 5級 1トライ
69. 御門 4級 1トライ
70. 玉 2級 1トライ
71. 剣 4級 1トライ
72. 鏡 6級 1トライ (18:30) 終了


回った本数で言えば、前回よりも多く回れたわけだが、100本には到底届かず。
3トライで登れずに敗退した課題は7本。
やはりコンディションに左右されやすい課題は、リピートでも厳しかった。
その中で眠った風、光合成と、最後のVOCKを登れたことは、まあ満足と言っていい。
今回初めて登った先住者も、高いところで進退窮まる感じでよかった。

指も手足もかなり痛かったけれど、感触としては悪くない。






2023年9月19日火曜日

測るⅣ

クライミングに関する記述がかなり空いてしまいましたが、ちゃんと登っています。
夏ということでシーズンオフですが、ボルダーサーキットなり荷揚げの練習なりリボルト作業なり、天気が怪しい中ほそぼそとやっています。
盆休み中、貴重な晴れ間にフリーウェイを登りに行ったら、ルートの半分はびしょ濡れでエイド、ということもあった。
まさか錆びた古いボルトラダーに救われる日が来るとは。

先月の終わりには、珍しく小川山のスラブを登りに出かけた日もあった。
マラ岩の下部のスラブをあまり登ったことがなかったので、そこに行ってみた。
思い起こすと、届け手のひら(5.10d)とJECCルート(5.10d)以外は登ったことがなかった。
手当たり次第に一通りすべて登ったけれど、瑞牆とは違う味わいの渋いルート揃いで面白かった。
特にてんかちゃん(5.11c)はOSを逃し、かなり苦戦して2撃。
ムーヴをしっかりバラして、相当慎重に登った。体感は12の前半くらい。時期のせいなのか?
ところでここのスラブはルート同士の間隔が近く、見た目には隣のルートと重なっているように思える個所もあるのだけれど、
実際に登ってみるとどれもほぼ独立した内容を持っていて驚かされた。
岩は見た目によらないし、ルートも見上げただけでは分からないものだと思う。


さて、雑な回想はこれくらいにして、本題。

今月の初め、瑞牆でハカセとマルチの継続をやった。
今回はとにかく長く、24時間行動を越えることを目標にプランを作り、実行してみた。
ハカセが作ってくれたルートのリストを見て「流石にこれ全部は...」と笑ったりしたものの、まずはやってみましょうということになった。

土曜の朝にハカセを拾って出発。
圏央道から中央道まで繋がる渋滞にハマり、トイレの限界が近かったので、
八王子JCTをスルーして高尾山ICで下り、インター横のトイレに駆け込むという柔軟なムーヴを繰り出す。
と、今度はトイレが渋滞していて待ちぼうけ。
渋滞が嫌なのは皆同じ、そしてタイミングの悪い便意が来ることも皆同じ。
これで随分時間を食ってしまったものの、10時前に瑞牆に到着。
「どうせ時間はイヤになるほどあるから」と、ギアをだらだら準備して10時半頃に出発した。

1本目 ワイルドアットホーム 160m  11:30取りつき→13:30トップアウト
昨年夏の継続のときはハカセがトップバッターだったので、今回は僕から。
ちなみにここで1P目をリードすると、続くフリーウェイの苦しいピッチも全部引き受けることになる。まあいいよね。
2ピッチ繋げて伸ばしたりしたものの、あまりスピードは上がらず丸2時間で終了。
下降は同ルートを懸垂した。
このときはまだシューズを食べる元気がある

2本目 フリーウェイ 235m 14:45取りつき→17:30トップアウト
時間を書き出してみると、どうも取りつきに移動してからぐだぐだしていたらしい。
前回びしょびしょでどうしようもなかった分、今回は乾いているだけでもう快適に感じた。
更にありがたいことに、この日は曇りがちで突き刺さるような日差しもない。
2本目でもまだ元気はあり、ひたすらにくだらない話をしつつ抜けた。
下降はイクストランへの旅を辿って懸垂。60メートルロープでもこまめに切れば問題ない。
きれいな夕日

と、あまりきれいとは言えない顔

3本目 左稜線 245m  18:45取りつき→21:00トップアウト
フリーウェイを登って取りつきに戻るとかなり暗くなってきたので、ここからヘッドランプ装備で夜間登攀になった。
左稜線は荷物もすべて持って登った。基本はフォローが背負って登る。
後半のワイドだけは背負えないので、フォローが一時テンションをかけて荷揚げ。
初めてのやり方だったけれど、軸足は山の壁であるハカセの機転でほどほどに上手くいった。
が、ハカセのサブザックには穴が開いた。
頂上で一息ついて、裏側のフィックスで下降。

だんだん壊れ始めている

4本目 一刀 185m 21:45取りつき→0:25トップアウト
一刀の取りつきは大面から下りてすぐ、なのに登りだしたのはこの時間。ペースが落ちてきている。
アプローチシューズと上着を腰につけ、1P目をリードしていったハカセ。
その腰につけた荷物がロープに絡まり、あわや落ちかけるというヒヤリハットがあった。
すんでのところで荷物を外して下に放り投げ、ノーテンで登っていった。
頭上の暗闇から靴が降ってきた僕としては、なかなかスリリングだった。
続くクラックのピッチは、外側の壁のフットホールドが見えづらく、かなり登りにくかった。
最後の11aで集中が途切れそうになったものの、必死で頭を働かせ、落ちずに登り切った。
頂上でハカセが動画を撮ってくれたが、眠気であまりにぐだぐだだったので流石にお見せできない。

岩の裏から懸垂で下り、取りつきに戻ったところで二人とも完全に電池が切れた。
ハカセの「ちょっと休もう」の一言を最後に、どちらも全くしゃべらなくなり、
そのまま斜面に背中を預けて一瞬で寝落ちした。
しばらくして寒さで目覚め、一枚上に羽織ろうと、木に掛けておいたジャケットを探すも、ない。
足元を見ると、ハカセがそれに包まって死んだように眠っていた。
引きはがすのは忍びないので、そのまま寒さを我慢しつつもう少し寝た。
明らかに体脂肪が1桁に見える彼は、なぜか体脂肪率が18%と出てしまう僕よりも寒かったことだろう。

30分経ったか1時間経ったか、どちらからともなく「行かなきゃダメだ」と起きて、
「サムイ」「ネムイ」と20回くらい呟きながら荷物をまとめて歩き出した。
ほとんど口も開かないので、「サムイ」も「ネムイ」も同じに聞こえる。
計画では、この次に蒼天攀路を登ることになっていたが、とてもそんな気分ではない。
ともかく、易しいルートで体を暖気することにした。

5本目 Joyful Moment 115m 3:45取りつき→5:00トップアウト
お互いゾンビのようになってルートの取りつきに着いてから、また15分だけ仮眠。
「これ初めて登る」というハカセが暗闇の中トラバースしていった。
2P目を登って振り返ると、白み始めた空に富士山が浮かんで見えた。
その輪郭を縁取るように、灯りの線が煌々と続いていた。
夜明けの寸前にトップアウトすると、東の空から光の柱が伸びている幻想的な景色を拝むことができた。

明るくなると元気が出てくる

6本目 錦秋カナトコルート 155m 6:00取りつき→7:00トップアウト
ベルジュエールとか秋一番とか、いろいろとプランに入れていたものを飛ばして、最後の一本。
流石に夜も明け、いつもと変わらないクライミングに戻った。
違うのは、もはや眠気も感じないくらい変なテンションになっていたことくらいだ。
奇声なのかコールなのかよく分からない声で叫びつつ、ひと際賑やかく岩の頭に抜けた。
一番乗りを狙ったどこぞのパーティーが十一面のガレ沢を登ってくる声が聞こえたので、
僕らの冷静になると聞くに堪えないやり取りも聞こえていたのかもしれない。
カナトコ岩の上からは、瑞牆山のシルエットが下に広がって見えた。

この頃にはシューズが食べられるくらいには元気になった

ここから山賊黄昏を下降して、荷物をまとめてガレ沢を下っていくと、末端壁にはすでに何人もクライマーがいた。
この時間に上から下りてくる僕らには、好奇の視線が注がれていた、ような気がする。

駐車場に戻ると、8:30だった。

行動時間はざっくりと22時間。24時間には少し足りなかった。
もともと立てていたプランも、本数で言えばこなせたのは半分以下。
これは実際にやってみないと本当に分からない部分なので、下方修正はやむなしか。
2日とも曇りがちで比較的涼しく、シューズを履く足が痛くならなかったのはラッキーだった。
むしろ、事前に想定していたよりも夜間登攀でスピードが落ちたこと、そして眠気に完全にやられたことが反省点だった。
前者は多少受け入れるとしても、後者は登る時間帯の調整でどうにかできるはずなので、次に活かしたいところだ。

反省点、そこからの改善点がぼろぼろ出てくるが、一先ず腹ごしらえ。ちゃんとしたご飯が食べたい。
ということで、11時まで駐車場で時間をつぶし、みずがき食事処でジビエを食べて帰った。
帰りの運転は、夜中の一刀を登るよりもよっぽど危なっかしく、遙にスリリングだった。


2023年9月4日月曜日

懺悔とジレンマ

「自分は大きな勘違いをしているのかもしれない」
そう感じ、考えさせられる出来事があった。
 
ひと月ほど前、弁天岩と摩天岩に行く機会があった。
雨の翌日で、ルートはジメジメ。それでも弁天岩で目当てのルートをなんとか登った。
摩天岩に下って、ふと対岸に立つ弁天岩を見やると、見慣れた大ハングが目に入る。
そしてその壁に張られているロープの数に驚いた。
対岸から見えただけなので正確な数は把握しきれないけれど、二十億光年の孤独とHumble、それぞれに複数本のロープが垂れていた。
この光景はここ数年、何度か目にしたことがあった。
それだけこの岩場、これらのルートに足を運びトライする人が増えたということだろう。
初登者として、その事実は間違いなく喜ばしいことだ。
しかしその一方で、どうにもモヤモヤとしたものが胸の内に残った。
何本ものフィックスロープが弁天岩のハングに掛かっている様子を見るたびに、非常に複雑な心境になった。
 
予め断っておきたい。僕は2本のルートにトライ中の人たちを非難するつもりは全くない。
その上で「この状況は良くないのではないか」と感じている。
 
ここで、いくつか告白しておきたいことがある。
 
まず僕は、特にRXのつくルートに関して、トップロープ等でムーヴを組み立て、リハーサルをすることを受け入れてきた。
むしろそのルートが困難であればあるほど、しっかりとリハーサルをして臨みたいと考えてもいた。
それは、どれだけ沢山リハーサルをしても、いざリードでのトライとなれば、緊張感や墜落への恐怖はまるで別物であり、それによって登りの精度そのものにも予想できない狂いが生まれ、そのクライミングには依然不確かさが残っている、と僕は思う。
その不確かさを、自分の肉体と精神を信じて一歩踏み超えることに価値があり、尊さがある。そう信じてきた。
また、不必要なボルトは打たずに登るということにも、強い魅力を感じていた。
クラッククライミング等の魅力としてよく言われる「登って降りた後になにも残らない」ということも勿論良さのひとつだが、僕はむしろ、「クライマーがやるべきことが増える」ということに面白さを感じていた。
プロテクションはどこにどう取るのか、その上でムーヴはこなせるのか、そもそも登るべきラインは岩のどこを辿るのか。
ボルトという残置物がないことで、こちらは様々な工夫と熟考を強いられる。
相応のリスクは伴うが、それがボルトのないルートの良さだと考えてきた。
 
そして、その考えに従い、二十億光年の孤独もHumbleも、どちらもフィックスロープを張って掃除、プロテクションの確認、そしてリハーサルを行った。
その際、数年に渡って弁天岩のハングにフィックスロープを残置しつづけた。秋の終わりにロープを回収せず、冬の間もそのままにしてしまったこともある。
 
Humbleが完成してしばらく後、クライミング界の大先輩と話す機会があった。
Humbleの初登記録が載ったRockSnowを手にした大先輩を見て、僕は内心、称賛してもらえるのかもと期待していた。今思うと恥ずかしいことだ。
大先輩は静かにこう言った。
「君がもっと強かったら、グラウンドアップで登れたのではないかな」
流石にそれは無理です、と思った。「理想はそうでも、限界はあるよ」とフォローをしてくれた友人もいた。
しかしこの問いは、今でも僕の中に永く尾を引いている。
 
 
今回、弁天岩の今を改めて目の当たりにし、僕は自分の中に残ったモヤモヤしたものが何なのかを考えた。
そしてそれは、この手のクライミングが孕むひとつのジレンマなのだと思い至った。
ボルトを打たずに登ったことで、かえって壁に残置される物を増やしてしまったのではないか。
僕はたしかに、終了点以外のボルトを打たずにあの壁を登ろうと手を尽くし、それが結実して2本のルートができた。この「手を尽くす」ということに、僕は自分のクライミングそのものの在り方を見出しているし、出来上がったルートも気に入っている。
そして初登したルートは、一度公にすれば自分ひとりのものではなくなる。どう向き合い、どう登るかは各個人の自由であり、その人の考えに委ねられる。
しかしその結果、登るために使うボルト以外の残置物が多くなるとしたら、どうだろうか。
自分がなにか大きな間違いをしてしまったような気がしてならない。
 
繰り返すが、今弁天岩のルートにトライしている人たちを非難する意思は、僕にはない。
むしろ初登者として感謝したいし、トライしている全員に登り切ってほしいと願う。それはクライミングに対する価値観とはまた別に、「ルートは誰かに登られることで存在しつづける」という信条があるからだ。頼まれればビレイでもなんでも引き受けたいくらいだ。
そしてそもそも、フィックスロープについて文句を言う資格は僕にはないのだ。
なぜなら、僕自身がフィックスロープとリハーサルを受け入れてこのルートを登っているからだ。
開拓時には掃除や終了点の設置などの作業があるから、という考え方もあるが、フィックスロープを張って使ったという事実は動かしがたい。
 
ここしばらく、僕の心中はずっと複雑だ。
あの2本のルートを登るために自分が採った手段は、本当にそれでよかったのだろうか。
もしもそれぞれのルートの核心部に1本でもボルトが打たれていたら、現状は違っていただろうか。
ボルトを残置しない代わりにロープを残置することには、果たしてどれだけの意味があるのだろうか。
室井登喜男さんは、ボルトを「妥協点」と語った。僕もその考えには同意するものだ。そして、ボルトと違いずっと壁に残るものでないが、フィックスロープもまたひとつの「妥協点」なのではないか。
そうだとすれば、何の疑問も持たず、リハーサルを行うことを前提にしたクライミングを行ってきた自分は、その「妥協点」に対する考え方を見直すべきなのではないか。
 
弁天岩のハングに通っている人たちのうち、何人かとは個人的なつながりがある。
そうでない人も多かれ少なかれ、どこかでお会いしたり、一方的に尊敬していたりと、様々ある。
その人たちの燃やす情熱に水を差すことになってしまったとしたら、心苦しいばかりだ。
「通い慣れた岩場に来る人が増えて、景色が変わることを拒んでいるだけじゃないの」と言われれば、それまでなのかもしれない。
しかしこれは、自問し続けなければいけないことなのだと強く感じている。自分が今後このクライミングを追求し続けていくためにも。
 
「君がもっと強ければ」と問いかける大先輩に返す答えは、まだ見出せていない。
 

2023年6月21日水曜日

懐かしい場所

梅雨の晴れ間になんとか登っている。今年はまだ比較的マシな天気で、結構登れている。

先々週は、1日だけの晴れ間にあさこさんとカンマンボロンへ。
あさこさんが最近トライを始めたA Wish(5.13b)をやりに行った。
前にノミーが「指切れるかと思いました!」と話していたCelebrating Spring(5.10c)を登ってアップ。うん、確かに痛い。相当痛い。
天気は悪くなく、そうかと思えば突然降ってきそうな微妙な雲行きなので、他のルートには手を出さず、本題のA Wishにトライ。
取りつきが狭く後ろに下がれないし、中間のハングの上はもうほぼ見えない。ヌンチャクも掛かっていないのでマスター。
下部から慎重に登りすぎて、ハングを越えた先の小核心をこなしたところで既にパンパン。
レストしつつ、『ハングの前後に核心が』とトポに書いてあったしな~、とか一抹の期待を持ったのも束の間、
レストポイントを離れてすぐに一番の核心が出てきて、呆気なく落とされた。
その後しばらくハングドッグでいろいろ試してやっとムーヴが見つかったので、OSトライはあまり惜しくなかったようだ。
花崗岩での5.13のOSはまだ遠い。
その日2回目のトライで危なっかしくRP。瑞牆のこのグレードにしては珍しく(?)かなり持久系のルートだった。
午前中は晴れていたのに午後になるとどんどん空が曇り、ガスが出てきて、夕方には小雨になった。
このコンディションでも5.13が数トライで登れたことは、素直に驚きだったし嬉しい成果だった。

先週の土曜日は、1年半ぶりくらいに不動沢の弁天岩へ。
新しい瑞牆本の撮影で、いつものごとく監督直々の指名でセンス・オブ・ワンダーを登ることになった。これは緊張する。
3P目にあたる風穴クラック(5.10a)もしっかり撮りたい、ということだったけれど、風穴は午前中しか日が当たらないので、そちらを先に撮ることに。
残氷ルート(5.9)を登って岩の肩まで上がり、風穴ピナクルに向けてラペル、濡れた短いコーナーを上がってやっと取りつき。
何度やってきてもすっきりしないアプローチだが、それもこのクラックの良さのひとつかもしれない。
風穴クラックはあさこさんがリードし、僕はフォローのみ。ピナクルの上は気持ちのいい風が吹いていた。

風穴クラックの取りつきからセンスオブワンダーのラインへとラペルし、とりあえず大ザルが残した捨て縄を新しいものに交換。
もともとあった捨て縄は10年ほど前のもので、苔だかなんだかわからないもので真っ黒だった。
ちなみに風穴クラックのテラスからセンスオブワンダー1P目の終了点へ行かずにまっすぐ下りると、70mロープ1本でちょうどラペルできます。参考までに。
流石に残氷ルートと風穴クラックだけではアップが足りないので、ハングボードをニギニギして、軽く前腕をパンプさせてから本題の1P目にトライ。
やはりアップが足りていないのか、シルクロードのパートで動きがかなり硬かった。
縁が鋭くて痛い核心のシンハンド~フィンガーを越えて、ダイクを掴んでレスト。
この先は見ただけで、触ったことのないオリジナルパートが待っている。
あまり落ちたくないサイズのカムを突っ込んで、最初のセクションに入ると、ホールドの悪さに面食らった。
ここ、こんなに悪いんか。大ザルの登りが一瞬よぎる。
行きつ戻りつして、結局は初登者と同じようなムーヴで抜けた。
シルクロードのクラックが閉じて溝になるところにカムを固め取りして、件のフレークを見やる。
手で触れてみると、薄い。数年前、ファインダー越しに見たときの印象よりも、もっと薄い気がする。
大ザルよりも体重がある自分が思い切り引いたら、縁が呆気なく欠けるんじゃないか、と少し心配になった。
ここまででかなりパンプしてしまったけれど、この後のレイバックを走り切れるだろうか。
でも、兎にも角にもやってみるしかない。
意を決してフレークに入っていくと、最初のプロテクションを決めるところでレスト出来ることが分かった。
フレークは薄く微妙に動く(らしい)けれど、思っていたより掛かりも良かった。
一瞬乱れた気持ちがみるみる落ち着き、怪しいプロテクションで誤魔化しつつ、自分で設置した捨て縄まで登り切った。

このピッチについて、僕が今更語るのはいささか憚られる。
ひとつ言えるのは、素晴らしいピッチだったということだ。
自分が贔屓目に見てしまうということは大いに認めるが、瑞牆の5.12でも屈指の名作だと思う。
僕は前半のシルクロード(5.11c)を、大ザルがこのピッチをトライしている頃に一度登っている。
そのうえ、何を隠そう大ザルの初登シーンを撮影したのは僕なので、ムーヴも一から十まで見てしまっている。
OSでもなければFLですらないのだけれど、リスク云々を一切抜きにして、登るなら絶対に1回で登りたかった。
そう思って取り付き、それを叶えられた充足感以上のものを与えてくれるピッチだった。


弁天での撮影が終わり、矢立岩に移動。
ここでは我に返るとき(5.13a)にトライした。
事前に監督から「矢立で撮るならどのルートがいいかな」と聞かれて、恥ずかしながら自薦したのだけれど、久々に行ってみると少し自然に還り始めていた。
初登したときに大した怖さを感じなかったので、今回は結構軽い気持ちで取りついた。結果、自薦したことを後悔した。
「こんなにランナウトしたっけ...」
「こんなにボルト遠かったっけ...」
「こんなに悪かったっけ...」
当時は、当然掃除からムーヴの検証、ボルト打ちまで全部やった後でリードしているので、そりゃあ怖いはずがない。
大して今回は、ムーヴもほとんど覚えていない状態でリハーサルなしのグラウンドアップ。
あちゃー、しまったなと思いつつ、それでも「これがグラウンドアップで抜けられなくてなにがビッグウォールだ」と奮い立たせて、
テンションをかけながら意地でムーヴをひねり出し、現場処理でなんとか抜けた。
8年前、ここにボルトを打った自分は何を思っていたのだろう。
リハーサルをして「ここならクリップできるか」という位置を選んで打ったとはいえ、
当時の自分はそれなりに尖っていたのかもしれない。
しかし、今の自分はそのもう少しだけ先に進んでいることも実感できた。

不動沢の最奥部は、自分が青春時代に足しげく通った場所だった。
今一度行ってみると、今だからこそ気づくこともまたある。
良い一日だった。

2023年6月8日木曜日

測るⅢ

5月の快適なシーズンはあっという間に過ぎ去り、梅雨がやってきてしまいました。
その間、大面岩のコスモスをやりに行ったりしていましたが、その話はまた別の機会に。

5月27日、ふと思い立って瑞牆山のボルダーでサーキットをしてみた。

サーキットと一口に言っても、いろいろなやり方がある。
本家フォンテーヌブローのサーキットは、エリアごとに易しいものから難しいものまで、それこそ山ほどある。
だいたい30本くらいの長さが多かったような記憶(曖昧)があるが、中には7台の課題がバンバン出てくる極難サーキットもあるらしい。
1日に初段とか二段を30本も登るのかと思うと気が遠くなったりもするけれど。

さてそれでは、今回瑞牆ではどうしたのかというと、夢は大きく100本のプランを作った。
これは直前に見た、ブローで1日に7aを100本登って回ったという記録(しかも移動は自転車)に影響されている。ただのミーハーである。
グレードは7級から二段まで。当然ひとつのエリアでは課題が足りないので、複数のエリアを巡る形にした。
当初は移動もすべて歩きにしようかと思ったが、さすがに初めてでいろいろと予測がつかないので今回はやめておいた。
課題を登りながら「次はどれにしようか」と考える時間が勿体なかったので、回る順番を厳密に決めてリストを作った。
さらに、このサーキットはより多く登り続けることが目的なので、トライは最大10回まで。
それで登れなければ敗退、次の課題へ進む、というルールに決めた。

では実際にどうなったのか。当日リストにメモした時間とともに記録として書いておく。

ウォームアップをしてクライミングスタート(6:15)
1. ため息 3級 2トライ
2. 夏への扉 1級 1トライ
3. 日暮れの道 1級 1トライ

〈車で移動〉

4. 指人形 初段 3トライ

〈車で移動〉

5. 水晶の舟 3級 1トライ
6. スプリットエッジ 3級 1トライ
7. エッジオブトゥモロー 1級 5トライ
8. 羽蟻 4級 1トライ
9. 羽音 2級 1トライ
10. 瑞雨 4級 2トライ
11. 雨と花 3級 1トライ
12. 花畑 1級 1トライ
13. ラフレシア 初段 5トライ
14. トガリネズミ 2級 10トライで敗退
15. 雨の弓 1級 3トライ
16. バックトラック 4級 2トライ (8:55)

17. ダブルカンテ 1級 2トライ
18. 言葉 初段 4トライ
19. 物 1級 1トライ

20. 鏡 6級 1トライ
21. 剣 4級 1トライ
22. 玉 2級 1トライ
23. 御門 4級 2トライ
24. ロイヤルポケット 5級 1トライ
25. VOCK 初段 7トライ

26. トラツグミ 3級 1トライ (10:15)
27. ミトラ 3級 2トライ
28. 背伸び運動 3級 2トライ
29. スケルトンSD 1級 7トライ
30. チップクラック 2級 2トライ
31. デールクラック 3級 1トライ
32. シマリス 5級 1トライ
33. ウッドマントル 3級 1トライ (11:37)
34. インドラ 二段 10トライで敗退
35. 阿修羅 初段 2トライ
36. ナーガ 2トライ
37. 穴契約社員 3級 1トライ
38. 小藪の細道 6級 1トライ (13:24)

39. 村祭り 5級 1トライ
40. 祭の花 1級 1トライ
41. ガリガリ君 1級 3トライ
42. リッチくん 5級 1トライ
43. ガリ子ちゃんSD 3級 1トライ 
44. シャリシャリ君SD 3級 1トライ
45. ガリガリトラバース 2級 1トライ
46. 夏木立 1級 1トライ
47. 日暮右 3級 1トライ
48. 日暮左 2級 1トライ
49. エンラッド 5級 1トライ
50. インタシン 3級 1トライ
51. カルカド 3級 1トライ
52. まずまずの日 4級 1トライ
53. 普通の日 初段 4トライ
54. 日々の暮らし 1級 5トライ
55. コールドスリープ 1級 2トライ (16:33)
56. 桃源左 5級 1トライ
57. 桃源右 6級 1トライ
58. 瑞牆レイバック 3級 1トライ
59. スーパークーロワール 7級 1トライ
60. 夜を待ちながら 2級 1トライ
61. 一本桜 3級 1トライ
62. 桜餅 2級 1トライ
63. 百里眼 1級 1トライ
64. カラクリ 1級 1トライ
65. 眠った風 初段 8トライ
66. 冬の来訪者 3級 1トライ
67. 冬の動物 3級 1トライ
68. クリネズミ 4級 2トライ 

クライミング終了 (18:59)

終盤はもう吐きそうなくらいにボロボロで、眠った風は諦めかけながらも死ぬ気で登った。
結果として、100本中68本トライし、登れたのは66本。
計画を立てた段階では「8割くらいはなんとか回れるかな~」なんて呑気に構えていた気がするが、実際にやってみると100本という数字が果てしなく思えてくる。
もともとの計画では、このあと初段が1本、1級が6本入っているので、ここで弱音を吐いていては1日で回り切るのは到底無理、ということかもしれない。
日が長い時期にやってみてこの結果なので、おそらくスタートをあと2時間繰り上げたところで、10本多く回る程度に終わるような気がする。
かといって、コンディションが良い時期を選ぶと日が短くなる。
オリジナルのプランを忠実に完走しようとすると、もっと考えなければいけない要素があることがよく分かった。

そもそもこのサーキットは、長くハードなクライミングのためのトレーニングとしてやってみることにした。
ボルダー1本を3メートルとして考えると、100本登っても登攀距離は300メートルにしかならない。この数字はちょっと少ない気がする。
が、数日前にコミネム先輩に話したところ「そんなに核心が続くことなんてないでしょ」と言われた。たしかにそうなのかもしれない。
それと、「最初に限界になるのは、指皮か、足の痛みか、体力か、それとも時間か」と思って試してみたら、答えは体力だった。
指皮は相当減っていたし、最後はシューズを見たくもないくらい足も痛かったが、完全にバテて終わったという感じがしている。
もっと自分に厳しくなる必要があるな、これは。

2023年5月15日月曜日

転がる石には

5月6日、あさこさんと小川山に出かけた。
連休中だというのに、駐車場はガラガラ。予報が悪かったからかな。
空はまだ晴れているけれど、雨が近づいてきているのは事実で、空気が幾分湿って重たく感じた。

分岐岩でエッジの常連様方に出くわしたりして歩いていくと、この日の目当てのルートは日陰にひっそりとあった。
当然というべきか、誰もいなかった。
ローリングストーン(5.12d)は、駐車場から20分程度の場所にあるのに、どうもこの辺りに来て人に会った覚えがない。
と言っても、前回ここに来たのはもう10年以上前なのだけれど。

当時、サル左衛門がこのクラックをトライしていたことがあり、僕も一緒に来て近くのルートを数本登った...というところまでは覚えている。
ブリザード(5.12a)は登れて、睦月誕生(5.12b)は登れなかったとか、そういうことも覚えている。
が、肝心のローリングストーンのことは何故だか全く覚えていない。
サル左衛門の真似をしてトップロープで触ったことが、あったか、なかったか。
内容はおろかトライの有無すら思い出せないので、今回は一応、オンサイトのつもりでトライすることにした。

右奥にあるももちゃん(5.10c)とブリザードを登ってアップ。
前に登った時、ブリザードは11dがついていたと思うけれど、今のトポでは12aになっている。概ね同意。
指が温まり、腕もそこそこ張ったので、アップを切り上げて本番のローリングストーン。
いつでも濡れていると思っていた出だしのパートが、この日は乾いていた。
何度見ても、足がスタートの水平クラックから離れたらプロテクションはセットできそうにないし、ナッツを固め取りして突っ込むしかなさそうに見える。
散々眺めまわして緊張を誤魔化そうとしても、あまり意味がなかったので、思い切ってトライした。
水平クラックに立つまでで出来るだけカムやナッツを固めて、核心前最後のナッツをもう一つセットしようと、頭上をカリカリ探った。
と、細かいエッジを踏んでいた足がすっぽ抜けて、呆気なく落ちてしまった。あちゃー。
ぶら下がって見上げると、そこまで決めたプロテクションの間隔の近いこと近いこと。
オンサイトを失敗するときは、思いきれなくてだいたいこんな感じだ。

テンションをかけながらムーヴを作り、上まで抜けた。
思っていたよりも、個々のムーヴは難しくない。
ボルダーライクだと聞いていたけれど、これはこれで結構ストレ二系のルートなのかもしれない。
前半の手数のある核心をこなして、中間にレストを挟んで、後半にも短い核心がもうひとつある。
それぞれのパートはたしかにボルダーだけれど、繋げる難しさが十分にあるように感じた。

あさこさんのトライのビレイをして、レストの後、2回目。
1回目のトライで使うカムも絞り込めたので、腰回りがかなり軽くなった。
ナッツを固めて水平クラックから離れ、核心のレイバックに入っていく。
絶妙な配置のフットホールドを拾って、クラックの縁をぐいぐい引いていくと、核心の真ん中で少し足運びを間違えた。
「あ、ヤバい」と過ぎる。急ぎつつ慎重に微妙な結晶を踏んで、もとのシークエンスに軌道修正した。
ここで一瞬流れが止まってしまったせいで、核心の最後の一手で落ちそうだった。
なんとか堪えて、クラックが一瞬開いたところでレスト。
後半も若干ムーヴを変更しつつ、最後の核心をまた危なっかしくこなして、易しくなる最上部までやっと走り切った。


自分が生まれるよりもずっと前に、この場所で初登を争った人たちのことを、僕は一方的に知っている。
感覚としては、教科書に載っている近代の偉人を見るときのそれに近い。
残念だけれど、どの人とも特に面識はない。
ただ、その人たちの登ったルートの数々がこの地に残り、礎となって、今の僕はその上に立っている。
「日本のクライミングの歴史」というのが大袈裟すぎるのであれば、「この土地の歴史」としてもいい。
どのような尺度で語るのであれ、場所があれば時間があり、その流れの中に在った人たちによって歴史が生まれる。
その歴史の上で大きな意味を持ったであろうルートを、またひとつ登ることができた。
そうしたルートを登るたびに、感じることは毎回よく似ている。
「こういうルートが登れるようになったんだなあ」と安堵すると同時に、「そのもうひとつ先で、自分は何ができるだろう」と考える。
これがあるから、ハードクラシックは良い。

予想どおりローリングストーンは貸し切りだったけれど、ルートにはチョーク跡があった。
このルートに苔が生えることはまだ当分ない、ということだろう。

2023年5月10日水曜日

Sky Rocket

今年のGWは、事前の予報が「あららら」だったところが良い方に覆り、思ったよりも好天に恵まれましたね。

先月の半ば頃から、ゲートが開く前の瑞牆に通い始めた。
やりたいことは既にあれこれあるのだけれど、それらは一度置いておき、4月某日ハカセの誘いでついにダイダラボッチへ行った。
登りに行ったのは無論、Sky Rocket(5.13c 4P)。
数年前からじわじわと人気が増してきているらしいこのルート、実はこの日が初めてだった。
ハカセは既に通ってしばらく経つので、この日は初めからリードさせてもらった。
1P目のハンドクラック(5.10c)と2P目のワイド(5.10d)は問題なくOS。
で、3P目(5.13c)も気合を入れてトライしたものの、流石に核心のボルダーセクションでなすすべなく落ちた。
ムーヴはその後数回で解決できたけれど、結局その日は3トライして核心が繋がらなかった。

数日後、いましさんから「連休にSky Rocket合宿しようゼ」という嬉しいお誘いをいただいた。
が、ハカセと登った翌日にボルダーの着地で足を捻挫してしまい先行きが怪しくなる。
1週間は強制レスト、続く週も控えめに登っただけ。捻挫した足首の治りもなかなか時間がかかった。
それでもなんとか連休の初めまでには元通りトレーニングができるように回復。やれやれ。

4/29、いましさんと6:30集合でダイダラボッチへ。
1P目を僕、2P目をいましさんがリードし、日が当たり始める前に3P目のトライを開始。
後からハカセとソロイスト先輩が来て、この日はテラスが大混雑だった。
1回目のトライは核心のデッドの飛び出しで蹴り足が抜け、手が完全に空を切って落ちた。
いくら微妙なフットホールドでも、ムーヴを起こすためには欠かせないのであって、きちんと整えてから動かなければいけないと反省。
3人分のトライが終わってからの2回目、その反省を生かして丁寧に置いた足で蹴ったら、核心のデッドが初めて止まった。
続く数手を4割程度のパンプを感じながら慎重にこなして、あとは11-程度のフェースを長いレストを挟みつつなんとか逃げ切った。
瑞牆本でクロヒゲさんが書いていた『地上にあったら大人気になるだろう』という話は、誇張ではなかった。
瑞牆で登ったボルトルートの5.13では、ナンバーワンと言っていいと思う。

この日はいましさんがもう1トライしてから二人で上へ抜け、4P目(5.12b)にもトライした。
2本目のボルトを越えたところでカンテを越えてスラブに入ってしまうので、ビレイ点からはさっぱり見えない。
実際に登っていくと、想像したよりもかなり傾斜に変化のあるスラブが続いていた。
もうしばらく人が踏み入っていないらしく、結構チャリチャリしたけれど、核心まではスムーズに登れた。で、核心であっけなく落とされた。
やはりというか、前情報がほぼないこのグレードのスラブをOSするのは相当難しい。
数回のテンションでムーヴを解決して抜け、いましさんが交代でトライして、この日は時間切れ。
ちなみにこのピッチ、ラインが見た目以上に蛇行しているため、回収は多少面倒でもラペルでするのが無難。
ロワーダウンの場合は、中間のヌンチャクをすべて外してから出ないとロープが抜けなくなるので、トライされる方はご注意を。

いつもよりもかなり倦怠感のある中2日の仕事を終えて、5月4日にまたいましさんとダイダラボッチへ。
この日は、前回残した4P目を登って...とはいかない。
いつだったか、いましさんに「WADEくんはワンプッシュで登るよね」と言われてから、
そういえばマルチピッチはシングルピッチのルートと『完登』の示すところが異なるよな、と考えていた。
何をいまさら、というところかもしれないが、今回はこれにこだわることにした。

1P目と2P目はハカセと来た初日と同じく、特に問題なく登った。
3P目下の快適なテラスに上がった時には、壁はまだ日陰だった。一息ついて準備していると、斜め上からどんどんと日が差し込んできた。

3P目について少し詳しく書いておくと、
アプローチの5.12a→5手の二段(2手の初段+3手の2級)→パンプする5.11b というところだ。
言わずもがな、瑞牆本の写真で初登者の福田さんがとんでもない浮遊感で止めているあの1手が、圧倒的に遠く悪い。

1回目のトライ。できればこれでスッパリと決めてしまいたかった。
核心手前までは早くも自動化できてきたのか、ほとんどパンプせずに抜けられた。
少しレストして呼吸が整ったら、いざ核心。
左手の結晶を慎重に持って強引に飛び出すときに、極小エッジを踏んでいる右足がすっぽ抜けた。手は出たものの全く届かず、落ちた。
前回の1トライ目もこんな落ち方をした気がする。反省。

いましさんが1回トライしている間に、壁は完全に日向になってしまった。
岩はまだ辛うじてひんやりしているけれど、もう長くはもたないだろう。
核心の左手は、岩が温まったら途端に持てなくなる。ワンプッシュで登ると意気込んで来たからには、次で登るしかない。
一気に状況がシリアスになってきた。
とはいえ、心中は意外に静かで、「気負っても仕方ないか」くらいで構えて2回目。

核心手前までは、またほとんどノーダメージで抜けた。
呼吸を整えて核心に入る。左手の結晶は、捕らえたのか外したのか毎回よく分からなくなる。
どちらにしても長くは居られない。右足が抜けないことを瞬間的に祈って飛び出した。
左手があまり引けなかったのか、体がかなり吐き出されて、右手は指2本でギリギリ引っかかった。
RPした前回よりも、かなり危なっかしく止まった。でも、これを逃すわけにはいかなかった。
叫びに叫び、右手を持ち直して続く3手を慎重にこなして、やっとガバを掴んだ。
あとは注意深く、とにかくミスをしないように時間をかけて5.11bを登り切った。
緊張から解放されました

これで一気にワンプッシュが近づいた。4P目は前回1度しかトライしていなかったけれど、気持ちはものすごく楽だった。
前回トライしてから翌日に雨が降ってしまったので、チョーク跡は残っていない。
でも、ここまで上がってくると風が強く当たっているので、日向でも状態はかなり良かった。
時間もたっぷりあるし、これなら大丈夫そうだ。
気負いが全くないのが良かったのか、ヌンチャクをかけながらの1回目でそのまま登れてしまった。
追い込まれかけた3P目の直後でなんだか呆気ない気もするが、まあそういうものなのだろう。
そしてこの顔である

残る半日は当然、すべていましさんに付き合った。
いましさんは4P目を登り、夕方の日差しが弱くなる時間帯を待って3P目で怒涛の追い込みをかけていた。


長くなったけれど、このルートではいろいろと学ばせてもらった。
3P目の5.13cの印象がどうしたって強いけれど、今回の経験には単なるグレードを追うだけでは得られないものが詰まっていたと思う。
マルチピッチを登るとき、何をもって「登った」と言うかは様々だ。
各ピッチのRPでよしとすることもあるし、チームフリーで満足できることもあるだろう。
それぞれに尊さがあるわけだが、今回はこのルートのワンプッシュに挑んでみて正解だった。
それはいましさんの言葉に発破をかけられたからでもあるし、初登の福田さんのスタイルに触発されたからでもある。
結果として分かったのは、「核心のピッチが登れても、ワンプッシュで登れるとは限らない」というプレッシャーが、そのクライミングをより面白くしてくれる、ということだ。
あのテラスで日が当たってきた3P目を見上げ、次のトライで登れるのか、と眉間に皺を寄せた瞬間に感じた不安に似た感情。
これからの自分は、それを乗り越えていくことこそを大事にしたいと、強く思う。

ところで、ワンプッシュの日はこのシューズで全ピッチを登った。
前から期待していたけれど、思っていた以上だった。
長らく続いたTCPro一強の時代が、ついに終わるのかもしれない。