2025年5月19日月曜日

今年の五月はどうも

ホームエリアのベストシーズンのはずなのに、雨ばかりでろくに登りに行けない。
狙い撃ちするように毎週末雨で、いやな周期にハマってしまったなと思う。
嘆いてばかりいても仕方ないので、忘れないうちにゴールデンウィーク中のことを書いておきます。

4月29日 大ザルの庭
大ザルが「庭に行くぞ」と言うので、岩場に興味を持ってくれていたコミネムを誘った。
林道の終点からのアプローチは小川沿いで、この日はコゴミがたくさん顔を出していた。

岩場に着いて、初めてのコミネムを一番奥まで案内。
1時間ほどぶらぶら散策して、入り口周辺で既成ルートを何本か登ってみた。
思えばここでは掃除と自分のルートの初登ばかりで、他の人のルートはやったことがなかった。
大学の後輩Kくんのアフタヌーンティー(5.9)がいきなりワイルド、というか脆い上にランナウトでひやひやした。
やはりこういうルートを楽しめなくてはこの岩場は...と思いかけるが、それはそれで適度にどうかしている気もする。
ともあれ、登って楽しいルートなのはたしかだった。春の風も気持ちよい。
大ザルは掃除とリハーサルの後、プロジェクトだったラインを初登。
僕はビレイしたついでにフォローで回収させてもらった。
ミツバツツジ 5.11aだそうです

それから奥の方にあるピラー状の壁をコミネムがグラウンドアップでやりたいそうなので、そちらに移動。
僕も以前から気になっていた壁だったけれど、コミネムが登るのは少し違うラインのようだったので、先に行ってもらう。
が、これがどうしようもなく脆かったようで、岩の脆さと濡れへの耐性に定評があるコミネムが敗退してきた。
これはまずいぞと考え直し、とりあえず左にある岩質がマシそうなチムニーを登ってみた。
こちらは見た目どおり岩がそこそこ硬く、ものすごく埃まみれになったものの、問題なく登れた。
フォローしてきたコミネム曰く、「沢でよくある垂直のブッシュが、干からびた感じ」とのこと。
まあ、グラウンドアップだし、充実感はあったので良しとしておく。
ルート名は、わたしはたわし。5.9くらいだろう。



5月3日 小川山
連休後半の初日、あさこさんがローリングストーンに行くので付き合う。
近くにあるボルトルートでもやろうかと思ったものの、どれも濡れていたのでやめ。
ローリングストーンも出だしが濡れていたので、トップロープでのトライのみになった。
改めて見てみると、見事なクラックだなと思う。数年前、オンサイトを呆気なく逃したのが口惜しくなる。
翌日からの乾きに期待して、早めに下山。長坂のカフェとかに出かけて帰った。


5月4日 瑞牆
この春の目標のひとつ、サル左衛門が昨秋に初登した巨人の肩(5.13c R?)をやりに出かけた。
零の谷のボルダーで軽く登ってアップ。二ノ谷あたりは賑わっていたが、ここは誰もいなくて快適。
アレテー(2級)とか千年王国(2級)を登った。千年王国は隠れた良作。
それから、巨人の肩へ。一応ボルダーマットを持っていったので、アプローチの急登がしんどかった。
取り付きのテラスに行ってみると、知り合いのA川さんがいた。
この類のルートにやってくる人といえば、大抵知り合いになってきている気がする。

このルートはまず、リハーサルなしのグラウンドアップでトライすることにしていた。
理由はいろいろとある。
ランナウトする(リスクが伴う)ルートに対してリハーサルが前提になってしまっていることに疑問を感じた、というのがひとつ。
昨年夏に登った魅惑のキューピー(5.12c)以降、自分が踏み込める領域がどこまでなのかを測ってみたかった、というのもひとつ。
他にも諸々あるが、要は今までできなかった挑戦をしておこう、ということだった。
強い風に吹かれながら散々双眼鏡で眺めまわし、意を決してトライすることに。
前半の核心手前のフレークにカムを固め取りして、いつもの倍くらいテストした。
そこから数手伸ばして、最後のカムが足下を過ぎるところまで頑張ったけれど、
結局そこから上に行くか横へ行くかの判断も、突っ込む踏ん切りもつかずに泣く泣くクライムダウン。
見ていたA川さんは「見てるこっちもしんどい」と言って苦笑い。ですよね。
しばらく迷い、最後は負けを認めて裏から歩いて壁の上へ。
ラペルで残置したカムを回収し、できなかったパートのムーヴだけをやってみた。
ムーヴ自体は数回でできたものの、多分これを初見では止められなかった。
そして、そこから落ちたらロープの伸びでグラウンドだったかもしれない。
後半のセクションは次回以降に回し、今回は終了、すごすご退散した。

5.13のRつきをオンサイトのグラウンドアップで勝負できるほど、強くはなかった。
ただ、これはこれでひとつの経験ということにしておく。
出来ることと出来ないことの境界線を見極めるには、挑んでみないといけない。
5.12cはできて、5.13cはできなかった。
この数字ひとつ分のどこかに、今の自分の限界がある。


5月5日 瑞牆 カサメリ沢
あさこさんはローリングストーンへ出かけていき、僕はカサメリ沢へ。
少し前から連絡をとって一緒に登る約束をしていた、rhimくんとお父さんに会いに行った。
そういえば、この時期のカサメリ沢に来るのは随分久しぶり。
夏から秋にかけてくることが多かったせいか、空気の乾いたカサメリ沢はなんだか新鮮だった。

コロッセオでrhimくんがダークスター(5.13d)をやるというので、とりあえず観戦。
僕もパートナーがいなかったのでお父さんのビレイでアップさせてもらう。
と、rhimくんが2回目のトライでダークスターを片付けてしまった。仕事が速すぎる。
後から参戦させてもらおうかと思っていたのに、あてが外れた。
泣き言を言わずに食らいつかなくては、と思い直して、僕もヌンチャクを掛けつつダークスター。
核心のムーヴの強度は思っていたより高かった。ただ、手数は意外に少ないし、案外得意系。
「これはいいかも」とムーヴがバラせてからしばらくレスト。
お父さんのナイトディジィダンスのビレイなどなどして、2回目のトライ。
核心の前半を安定してこなし、クリップを挟んで、後半の数手でかなり声が出た。
正直、叫びすぎてしまった。「このトライで登る」という気持ちが前に出ていた気がする。
トップガンに合流して長めに休み、続くランジ2発はこれまでにないくらい緊張したけれど無事に止まって、RP。
このグレードが2トライで登れるとは思っていなかったのでびっくり。
ホールドのタイプやひんやりしたコンディションが諸々噛み合っていた。

rhimくんが「次は鳳凰」というので、オランジュ岩へ移動。こちらは一転して暑かった。
鳳凰(5.13b)は日に焼かれてかなりヌメりそう。
オンサイトを狙っていったrhimくんが核心を抜けられずに降りてきたので、
「どれどれ、拙僧が見てやろう」と残りのヌンチャクを借りて手を出してみた。
核心までは調子よく登っていったものの、じわじわしたムーヴの連続に耐えきれずフォール。岩がかなり熱かった。
「やっぱりフラッシュ出来るほど易しくはないか」と思ってホールドを探ったところ、見落としていたキーホールドをひとつ発見。
これでムーヴを考えて試してみたら、結構すんなり核心を解決。その後も数テンションで抜けた。
その後、チョーク跡を頼りにrhimくんが2回目でRP。またも仕事が速い。
そこそこの時間になっていたので、僕は遠慮しておいた。次回マスターで勝負してみようか。
鳳凰(ダークスターの写真は撮り忘れた)

いい加減、オンサイトないしフラッシュを狙える5.13が少なくなってきた。
ホームエリアゆえに、それはまあ仕方のないことなのだけれど、そろそろ本気で狙っていかないといけない気がしている。

2025年5月7日水曜日

カチを握りに

野猿谷のシーズンが終わってしまい、一気に気温が上がった。
まだ乾燥した春の気候とはいえ、汁手もといヌメり手の僕には悲しい季節になってくる。
ところで、汁手という言葉をほぼ聞かなくなったけれど、死語なのだろうか。

4月10日、所用があり平日休みを取ったものの、昼からなので朝活でなんとなく名栗へ。
このところ週末ごとに雨だったり、長野県大会(手伝い)があったりでなかなか登れず、とにかく岩を触りたかった。
若干寝坊して、盆栽ボルダーと呼ばれている岩に着くと、既に空気が生暖かかった。
ともあれ朝の空気だからかそこそこ気持ちよかった。
よく分からない課題を1本だけ登り、噂では「奥多摩イチ面白い初段」だというカンテの課題をやったらハマりかけた。
この課題、名前はクラスターというらしい。なんだかそんな言葉もあったな、という印象。
ガチャついたカチの保持が結構痛く、目が覚めた。
すでにホールドはヌメり始めていたものの、数回で登った。マントルまで気が抜けず、名作の香り。
次に本題の四段。ピューマとか、ピューマLowと呼ばれているらしい。
Lowの方はとりあえず後回しで、立ちスタートをやったら出来そうでできないトライを連発。
これは実質ランジ一発。
スタートの持ち方と、距離が出せるフットホールドの選択が噛み合ったら、ランジが止まって登れた。
それでLowもやってみると、スタートからもろに苦手系。
両手縦気味のアンダーからオーバーヘッドで1手。これは高速離陸→高速タッチが限界だった。
アンダーからの強度の高いムーヴへの苦手意識がもろに出てしまった。
最後に裏面にある三/四段も少しだけやってみたけれど、これも実質3手のうち1手しかバラせず。
なんだか、花崗岩以外の保持の感覚を忘れている気もする。
そして、体の左右差を埋めていくためにも、全体的な筋力アップをはかるタイミングなのかもしれない。

4月12日、この日は予定外の出来事が重なり、弾丸で小川山へ突撃した。
午前中にバタバタとトラブルがあったため、動けるのは午後の数時間のみ。
うーん、どうするかと考えて、「それでもせめて」と小川山へハンドルを切った。
移動時間を含めると、登れる時間は実質1時間とちょっと。
駐車場に着いてダッシュで林の中へ。ウイスキーボトルに直行。
どうせ時間が短いなら指にくる課題をやろう、と冬の日(四段)をやることにした。
かなり昔、それこそ高校生とか大学生の頃からたまにトライはしていたけれど、カチがろくに持てず登れていない。
この冬のトレーニングの成果を今こそ!と意気込んだわけではなく、今どれくらいできるようになったのかを確かめてみたかった。
ストレッチもそこそこに、ウイスキーボトルの2級くらいまでの課題でアップして、急いでトライ。
日向はTシャツでも暑いくらいだったけれど、ここは日陰で風もあり、ほどよいコンディション。
やはり核心の2つのガストンが、それこそ泣きたくなるくらい痛い。指の収まりもイマイチ良くない。
いろいろ試して、結局は最初にやっていた左トウフックを採用。
両手ガストンまでは割とすぐにできたものの、そこからのフックの解除はやはり負荷が高く、指皮がガンガン抉れる。
そろそろ穴が開くぞ、というところで解除がこれまでになくスムーズにいき、
続くハイステップがやっとこさ上がって、そのまま跳んだらランジが止まった。
なんと、15年来くらいの宿題が思いの外短時間で登れてしまった。
フックを解除するときの上体を、上げるのか下げるのか、その加減が絶妙。
出来た時は、なんだか不思議な感覚だった。
極小エッジを握ることに耐性がついたのだろうか、それとも単にコンディションに恵まれただけなのだろうか。
ともあれ、進歩は進歩だ。

4月16日、また朝活。この日は仕事前に御岳へ行ってみた。
4月中は微妙な忙しさがあったので、とにかく岩に触りたい欲も強かった。
絶対に誰もいないだろうと踏んでいったら、in Tokyo!に先客がいてびっくり。
川の方の面で適当にアップして、チョー遥(三/四段)を触ってみたら1手目が止まらず。
どうもこの1手目で取るサイドが欠けたようで、残ったエッジもカチャカチャと動く。
これはあまり触らない方がいいか、と断念。
黙々とやっている先客さんに「お邪魔します」と頭を下げて、in Tokyo!直上(三段)をやることに。
右のフレークを使う方は数年前に登ったので、今さらFLもなにもないのだけれど、1回目から気合を入れてやってみる。
流石に一撃はできず、それでも感触は意外に悪くない。ヌメりもそれほど気にならない。
核心になる3手目と、それを止めた状態からリップまでをバラして、
「さてやるぞ」と改めて繋げたら、1トライで登れてしまった。
御岳の三段では一番難しかった、という評価も聞いたことがあるが、得意にはまったのかやけに易しく感じた。
まあそれについては深く考えない。
冬の日に続き、現地到着から撤収までほぼ1時間。
呆気なさすぎるくらいだけれど、気分はよかった。


4月19日、今シーズン初の瑞牆で単身ボルダーを回った。しかしこの日は暑すぎた。
天鳥川南沢周辺で登ることにして、橋の下からあれこれ触る。
アップで何本かやったものの、午前中の時点で既に夏のように暑く、1級以上の保持がまるで出来ない。
先行きが怪しいなと思いつつ、ずっと宿題になっているほうとう(五段)にも久しぶりにトライ。
が、あっという間に人差し指の爪の際が裂けて強制終了。ヌメるときに握りすぎるとこうなる。
やはり寒くないと何もさせてもらえなかった。

次に、左岸のちょっと奥にある女王蜂に行ってみた。独立したハイボルダーで見栄えよし。
易しい課題を登って上部のスラブに積もった枯葉をどかして、蜂の巣城(二段)をやったらOSできてしまった。
ポケットの保持とか高い位置での立ち込みとか、悪さはあるものの体感はもはや2級。
なんだかよく分からないけれど、良い課題ではあった。
蜂の巣城

すぐ左にある女王蜂(二段)は、やはり暑すぎてまるで持てずダメ。

更に上流へと移動して、以前室井さんから勧められたオラクル(三段)へ。
ランディングが斜めでちょっと嫌な感じだったけれど、トライするとあまり気にならない。
が、これも結局ヌメりが止まらず、勝負させてもらえなかった。
オラクル

暑さでなんだか朦朧としてきたけれど、ここから大移動してシシガミの森まで行ってみた。
原生林の中で日陰が多いことを期待したものの、暑さはあまり変わらなかった。残念。
ダイダラボッチに通っていたときに見て気になった、淡き星影(三段)をやってみたものの、
これは清々しいくらいに真っ向の保持課題で、冬の日よりも鋭いカチに数トライで指皮を裂かれて撃沈。
淡き星影

その代償

最後、苦し紛れに感謝のランジ(1級)をやって、これは登れた。
ただ、マントルで一度盛大にズリ落ちて危なかった。


いい加減、ボルダーはシーズンオフで、ルートに移行する時期だろうか。
思いがけない成果もあったけれど、もうひと粘りしたかった気もして、手放しには喜べないなと思ってしまう。

2025年4月6日日曜日

野猿谷での冬 ③

 3月15日(土)

昼過ぎから下り坂、という予報だったけれど、野猿谷に行ってみた。
とにかくどんより、空気もしっとり。それでも雪が残る小川山とかよりはマシだったのかもしれない。

この日は04のエリアで、ハヌマーン(四段)を掃除してみた。
安間くんが登った以外にトライした話を聞かない。予想どおり、かなり苔が生えていた。
1時間くらいかけてせっせと掃除して、「さてどうかな」と温湿度計を見てみたら、なんと湿度は70%近くあった。
そんな状態でできるんかいなと思いつつ、近くの課題でアップ。
ずっと前に敗退した三猿(初段)を回収したり、猿ゴルファープロ(1級)を登ったりした。
ついでにCandy Crush(四段)も少しやってみて、スローパーがヌメりすぎるのでやめ。


それから本題のハヌマーン。既に空模様は怪しい。
離陸していきなり2手キャンパスでフリクションの乏しいスローパーを叩きにいく。
これは案外すぐに止まり、やたら悪いマッチもできるようになった。
が、当然というか、本題はここから。
リップにギリギリ足が上がるのに、そこからさっぱり腰を入れられない。
もう少し手で引けるか、足が踏めるかしたら進展する気がする。

あれこれ試行錯誤しているうちに雨が降り始め、半日での撤退となった。


3月23日(日)

気温が一気に上がり、完全に春の陽気になった。むしろ春を通り越して、甲府では夏日だった。
快適な春シーズンはどこへ行ってしまったのだろうか。

すこし遅めの時間にエリアへ行くと、地元の知り合いが大勢来ていた。なんだかエッジに帰った気分。
ワイワイとアップを済ませた一団が05エリア方面へ移動していくのを見送り、こちらはアップ後にまたハヌマーン。
湿度は前回よりも遥かに低く、岩の結晶を感じられる。が、暖かい。暖かすぎる。
リップに足は上がるものの、あれこれ使うフットホールドを変えても、どうにも腰が乗り切らず。
問題のスローパーの持ちどころが少し分かり、前回より10センチくらい上まで体が上がった以外に成果はなし。
それと、この課題でもまた胸を擦った。
何度目かの胸擦りで「アイタっ」と思ってシャツを捲ってみると、左胸から流血。
Cross Loveで半分もげてその後くっついていたホクロが、今度は完全になくなっていた。
ああ、長年の相棒との別れが突然やってきてしまった。
(今は傷口が塞がり、黒く平らなタイプのホクロになっています)

ハヌマーンのスローパーに日が当たり始めてしまったので今回は諦めて、
しばらく放置しているエリア51をダメもとでやったものの、やっぱり暖かすぎた。
リップを叩いても、スローパーがホカホカしている。こりゃ駄目だ。
さらにまだ登っていなかったファンキーモンキー(初段)もやってみた。
こちらはあまり暑さは関係ないかと思ったけれど、単純に難しくて腕がボロボロに。
チキンウィングとアームバーのやりすぎで二の腕をすり下ろされ、半泣きで敗退。

あまりにボロボロになってきたので、難しいのは諦めて、以前から少し気になっていたラインを掃除することにした。
05エリアの入り口近く、13の岩のすぐ上にある大岩の山側を向いているフェース。
比較的大きめの岩で下地も悪くないのに、トポには載ってすらいない。
見上げてみると、程よい高さに顕著なホールドがひとつあったので、ロープを張って掃除。
結果、当初想定したラインは中間部以降にほとんどホールドがなく、見た目にできる気がしなかった。
「どうにかならんかな」と左右に振ってみると、左のカンテを使うラインでホールドが繋がっているのを発見。
こちらでやってみることにして、掃除を終えた。
既に結構疲れていたけれど、どうにかムーヴはバラせた。
ただ、流石にこの日は暖かすぎて、繋げると核心がどうにもできず。
シーズン最後かなと思っていたので、少し後ろ髪をひかれる思いで終了した。

3月30日(日)

本当は別のところで登るつもりだったが、前日の雪が日差しで溶けてどこもびしょびしょ。
林道もぬかるんで車がスタックしそうだったので、諦めて野猿谷へ転戦した。
マウントピア黒平までの道にも雪が残っていたので、「これは誰もいないだろう」と思っていたら、
最近毎週のように行き会うKムロ夫妻だけはやっぱり来ていた。

ハヌマーンを見に行ったらどうしようもないくらいびしょびしょだったので、前回敗退した新ラインからやることにした。
アップで光と崖(3級)をやったら、やけに悪かった。どうもホールドが欠けたらしい。
その後に登った猿豆(1級)の方が簡単に感じた。
とはいえ光と崖のおかげで結構温まったので、本数少な目で新ラインにトライ。
左カンテに寄り添うように別の岩があり、これのせいで下地が悪いように思えるのだが、
実際やってみると意外にこの岩には接触しないし、むしろ上に立ってムーヴを練習できたり、なかなかありがたい。
核心を練習して、コンディションが前回より良いことを確認。
猫パンチで流血したりしつつ、繋げて数回のトライで登れた。
1手1手がかなり遠く、リーチや身長で体感がまるで変わってしまいそうだけれど、二段くらいだろうか。
隣にある岩にちなんで、バイスタンダーと命名しておいた。
バイスタンダー

一先ず目当ての課題は終わったので、09エリアに上がる。
インスタント猿(三段)とエレクトリック猿(三段)をやってみることにした。
インスタント猿は見た目には結構登りやすそうなのに、いざやると足下が繊細。
ムーヴが出来そうになったところで、大きく突き出ていたキーになる結晶がひとつ欠けてしまった。
別のフットホールドでなんとかできそうで、結局なんとかできず。
エレクトリック猿はスタートからの1手目が、こちらもなんとかできそうで、できず。
身近に登った人がいるのだが、「ムーヴが分かれば」と言っていたらしい。
ムーヴか...いろいろ試したんだけどな...

三段2本に敗退して、最後にまた包囲された城へ。
核心のシークエンスを確認すると、ヌメらないけれど感触もあまり良くない。疲れている気がする。
1手、2手くらいでひたすら落ちていても、案外疲労は溜まってくるものだな。
スタートから繋げて何度か核心のムーヴに入れたものの、アンダーがすっぽ抜けたり足が滑ったり、
最後にはバラしでもムーヴがこなせなくなり、ぼろぼろで終了した。
これも因縁の課題になりつつある。いや、優先順位を上げて一日の初めにやれという話なのだけど。


という感じで、いい加減今年の野猿谷通いは終了。
最後の失速感は否めなかったものの、これまでよりも成果の多いシーズンだった。
渋い課題の多いエリアなので、やることが明確な高難度課題が恋しくなったりもするが、
いろいろな意味で掴みどころのない課題たちからしか摂取できないものもある、と信じている。
花崗岩好きのクライマーとは、大なり小なりそういう生き物なのかもしれない。

2025年3月12日水曜日

野猿谷での冬 ②

 3月2日(日)

ストーンモンキー(四段)を目的に野猿谷。この日は春の陽気だった。
示し合わせたわけでもないのに、ノミーにマウントピア黒平でばったり会った。
一緒に10のエリアの課題を見に行ったりしてから、橋周辺でアップ。
くるみSD(初段)のスタートホールドがよく分からず、とりあえず右手カンテ、左手フェースのカチで離陸して登ってみた。
後でトポを見たら、どうもスタートホールドは違っていたらしい。下地が変化したとか?

それから掃除とホールドのチョークアップをして、ストーンモンキー。
日記を見返すと、前にトライしたのは23年の年末だった。
ムーヴは覚えていたので、数回のトライでリップまでは行けるようになった。
むしろ中間までの感触は前よりも良くなったのだけれど、結局はマントルが厳しい。
あれこれ試行錯誤するフリをして、踏ん切りがつかず飛び降りる、というのを繰り返した。
リップにヒールを上げてはみたものの、そこから乗り込んでいくイメージが湧かない。
リップがあまりにもダレていてビビっている。
写真を撮ってくれたノミーに「全然マントルしないじゃないっすか」と茶々を入れられた(気がする)けれど、
結局この日はリップまでのムーヴが固まった以外に収穫はなかった。
マントルをしている風

流石にちょっと暖かすぎたので、ストーンモンキーを諦めてキュリアスジョージ(三段)。
シーズン初めに見に行ったときは、上に木が倒れ掛かっていてトライできなかった。
この日はノコギリを持ってきたので、倒れた木やら絡まるツタやらをせっせと切って退ける。
しばらく働いて、トライできるようになった。
ここでもカチトレの成果か、前は浮くのがやっとだった離陸が少しだけ楽になっていた。
が、当然離陸は序の口でそこからが問題。
時間をかけてあれこれ試し、どうやらそれらしいムーヴを発見。
が、スラブに上がったところから動けず。

上の方へ移動しつつ、ノミーがやっていたアイスエイジ(初段)に寄り道。
これは2トライで登れた。良い課題。
アイスエイジ

最後に、宿題になっている包囲された城(二段)。
前回バラしたムーヴを少し練習して、繋げてみたものの、核心のデッドが止められず。
つくづく、両手アンダーからの遠い一手というのが苦手だ。
足の微妙さもあって、繋げると良いポジションまで入れない。
苦手な自覚があるだけに、これはどうにか登っておきたいところ。

3月9日(日)

前日雪が降ったので遅めに出発。が、着いてみると、そんな必要はなかったと思うくらいに乾いていた。
ストーンモンキーが最優先だったけれど、下地に湿気が籠っていそうだったので、07のエリアへ。
トライした話すら聞かないイルミネーション・ゴースト(四段)にロープを張って掃除してみた。
これはこれでかっこいいのだけれど、間近で見てもあまり可能性を感じないスラブで、トライはせず。
少し下ってリフトバレー(1級)を登り、すぐ下のライトピラー(二段)もやってみた。
これもかなり苔むしてきているが、これが結構面白く、30分くらいで登れた。幸先が良いぞ。
ライトピラー

それから橋に戻り、ストーンモンキー。
数回でリップまで行き、ヒールを上げて、4割くらい腹を括って乗り込んでみると、見事に抜けた。
足から落ちられたので無事だったけれど、若干背中落ちになってまたビビる。
やっぱりあのヒールは抜けるのか。少し嫌なイメージがついてしまった。
しかしやっているうちに、リップのホールドが胸の前まで引きつけられることが分かった。
それから改めてヒールを上げてマントルに入ってみると、いくらか腰が入る感触があった。
両手を胸より下へ引き下ろせそうなところまで上がって、怖さが勝ったので一度飛び降りた。
返せはしなかったものの、これでマントルの感触は掴めた。
しばらくレストを挟み、次のトライで再びリップへ。
今度はしっかり腹を括り、ヒールを上げてマントル。両手を引きつけたところからゆっくり粘って這い上がった。
リップのホールドをプッシュに変えられたら、後は必死で足を上げて、スラブを駆け上がった。
登った瞬間は「嬉しい」よりも「びっくりした」の方が強かった。
手の掛かりの良さで足の悪さを誤魔化す類のマントルもある、ということを学んだ。
先シーズン、初めてリップを取ったトライで「こんなもんできるかー」と諦めて飛び降りて以来、
この日までずっと返せるイメージが湧かなかったマントルだった。
仮にこれが地面から届く位置にあれば、初段もないのだろうと思う。
が、これが高いところにあるのだから難しいわけで、ロープにぶら下がって練習することも何度か考えた。
が、先日トニーさんに「課題への思い入れがなくなったら、ぶら下がったらいいんじゃない」と言われ、我に返った。
僕はマットを何枚も敷いて登ったので、マットなしで初登した室井さんには遠く及ばないが、
それでもこの課題でのことは大事な経験だったと思っている。

その後少しレストして、キュリアスジョージもやった。
前回よりもヨレていないおかげか、左手のカチはしっかりと引けた。
指皮が多少柔くなっているのか、トライするごとにゴリゴリ減っていった。
ただ、前回でムーヴの目処が立ったことが大きく、数回のトライでスラブにへばりついて足を上げ、ふらつきながら登った。
これも猿の手と同じく、シューズ選びが重要な課題だった。
キュリアスジョージ

登ったトライで左の人差し指が裂けて流血したので、早めに終了した。

保持力トレーニングが奏功したのか、それとも状態の良い日を捕らえられただけなのか。
何が要因かはよく分からないが、とにかく今シーズンはいい具合に宿題を回収できている。
春の気配がいよいよはっきりしてきたが、もう一押し、欲張りたい。

2025年3月11日火曜日

野猿谷での冬 ①

この冬も、気づけば野猿谷通いが続いている。
昨年の年の瀬に一度行って、年末年始で間が空き、先月からはいきなり毎週末になった。
今シーズンは成果も出ているので、春の気配がしてきたこの辺でまとめておく。

12月21日(土)

秋に痛めた肩の調子が良くなってきたので、久しぶりにボルダーにシフト。
一度寒波が来た後で気温が上がったのと、当日の小雨交じりのコンディションとで、登りはイマイチだった。
いくつか気になる課題がある01のエリアに行ってみた。
と、その気になる課題のいくつかは既に自然に還っていた。回転寿司の緑茶の粉をまぶしたみたいになっている。
ワイヤーブラシを持ってこなかったので、ひとまず登られていそうな課題を回ることにした。
軽くアップしてからやったロディ(初段)で少しハマったものの、数回で登り、
続いてやったモンキーシャイン(初段)も数回で登った。
この日の本題のひとつだったモンキーシャインSD(三段)は全くできず。
フリクションがないスローパーと、2本指のカチがまるで持てていない。
次にやってみた青行燈(初段)は、同じように保持負け気味だったので、リーチでねじ伏せて登った。
青行燈

02のエリアに移動。トライしている人を見たことがないCross Love(二段)をやってみる。
ホールドが埃っぽいが、磨けば何とかなる程度だった。
1トライ目でバルジを抱えた状態から派手に落ち、「あいたたた」と起き上がると、左の腹に冷たい感触が。
驚いてTシャツをまくり上げると、左胸にあるホクロが半分もげて大出血していた。
ホクロって取れるのか。
とはいえ長年連れ添ってきた相棒を千切り取るのは忍びないので、そっと圧迫して止血。
Cross Loveはその後2、3トライで登れた。かなり易しく感じたけれど、良い課題。
Cross Love

それから04のエリアに移動して因縁の猿芝居(初段)をやったものの、まるで進展なし。
百匹目の猿(1級)とかジャンプ51(1級)を登ってお茶を濁し、
最後にやった06エリアの盃(初段)でマット外に落ちて怖気づき、撤退。
もう少しでいいから、コンディションも高さもねじ伏せられる強さが欲しい。

この日の反省から、この冬は保持力トレーニングを見直すことに決めた。


2月15日(土)

ノミーと誘い合わせて野猿谷。結構間が空いてしまった。
猿芝居にやられすぎてしばらく放置しているストーンモンキー(四段)をやりたかったが、
久しぶりに覗いてみるとリップ上が自然に還りかけている。
ということで、しばらくロープを張って掃除。苔の下の部分が凍り付いていた。
苔は落としたものの、全体的にしっとりしているので、この日はトライせず。

最近やっと4mmのエッジで1秒くらい浮けるようになり、ノミーに「だったら猿の手やったらいいですよ」と勧められたので、やってみる。
05のエリアの易しい課題でアップ。やったことのなかった一つ目小僧(1級)と、室井さんの新作らしい邪眼(初段)も登った。
それから本題の猿の手(三段)。
ここを通りかかるたびにトライしていたものの、以前はまるで離陸できなかった。
今年は、カチトレと寒波のおかげか、ムーヴができるようになっていた。
スタートは相変わらず「これかよ...」というエッジだが、なんとかなるもんだ。
1手目が一番悪く、そこを止めた状態からはなんとなくスラブに這い上がれることだけ確認して、あとは繋げ。
昼を挟んでトライしたものの、なかなか1手目が止まらず。
ふと「これは足がしっかり踏めていないのでは?」と硬いエッジングシューズに変えてみたら、これが当たり。
が、1手目が止まってスラブに這い上がったのに、上部でスリップ落ち。
このトライで重要な右の人差し指を裂いてしまい、この日は敗退。

ノミーはkazahanaの小さいマットだけで独舞台(初段)を登ってハートの強さをアピールしていた。
ハートは強いのに、その後アプローチの川で滑って服を濡らすという茶目っ気も忘れない。
この男、できる男である。
ダウンすら濡らしたできる男

その後は04のエリア51(二段)をやってみた。これも登ったという話をまるで聞かない。
かなり頑張ってリップは止まるようになったが、これがマッチできずに終わった。
テープを巻いて登れるほど易しくない模様。
これはまだ離陸したばかり


2月22日(土)

空を覆う雪雲に怯えつつ、野猿谷。ノミーと、サンチェ親方も来ていた。
この年代としてはそれこそ世界一元気なのではないか、というくらいに元気。流石は親方。
この日は初めから猿の手を登るつもりだったので、アップしてすぐにトライ。
指皮が育って硬くなっているので、ホールドの痛みやヌメりには強いけれど、
保持感が馴染んでくるのには結構時間がかかった。
「あれー、できない」とか言いつつニギニギしているうちに、腰が入って1手目が止まり、上部へ。
前回足が抜けて落ちた最後の一歩も慎重に乗り込んで、無事に登れた。


この課題では、4mmのエッジにぶら下がる力はやはり武器になる、ということと、
フットホールドの形状やムーヴでシューズ選びを見直すべき、ということが分かった。
僕のように重量級のクライマーは、特にその辺を考えた方がいいのかもしれない。
一先ず、宿題が片付いて安心。
ノミーと親方はこけ猿の壺(三段)をやっていた。
雪が舞っているというのに、脱ぐ

その後は下に下って、一人で猿芝居をやってみたものの、やっぱり登れず。
年末にノミーがついにこの課題を登り、野猿谷謎課題被害者の会(仮)の暫定トップに躍り出た。
そのノミーにムーヴを聞いて試しても、まるでできなかった。うーん、悲しい。
最後に06エリアの空者(二段)を掃除してやってみたけれど、これも「???」だった。

2月23日(日)

野猿谷で連登。この日は一人だった。
前日の雪は積もらなかったらしく、朝からいい天気で状態も良かった。

この日は09のエリアで登った。
室井さんが最近(?)追加したらしい深宇宙(二段)をやり、周りにある登っていない初~二段を回収して回るつもりだった。
が、まずアップでやったボイジャー(2級)で猫パン。流血して、爪も数か所割れた。
いきなり先行きが怪しくなる。敗退の二文字がよぎったけれど、ボイジャーはなんとか登った。
次に隣のペイルブルードット(初段)。高いスラブで緊張する。
これは3トライで危なっかしく登った。独特の粒々に立ちこんでいく後半の核心は痺れた。
ペイルブルードット

続いて深宇宙。ホールドに蜘蛛の巣が張っていたので、しばらくトライされていないらしい。
そもそもアプローチが一番遠いところにあるし、無理もないか。
薄被りの豪快なレイバックから、いかにも丸っこいリップへ出ていくラインで、そこそこ高い。
見た目にもそそられるので結構頑張ったが、リップ周辺が解決できず。
ああいうスローパーはどうしたら持てるのだろうか。

少し下って、1年前くらいに敗退したモンキーウエディング(初段)。
これは微妙なカチを本気で保持してギリギリ登った。それこそ猿の手並みに握った。
モンキーウエディング

少し下の青銅の蛇(初段)に、お金を食う怪獣、もといK原さんがいたので、一緒にやってみる。
これはこれで指に結晶を突き刺して持つ類の課題で、トライの度に悶絶。
みるみる右人差し指に穴が開いてきたので、ほどほどでやめておいた。
そして結局、次にトライした包囲された城(二段)でここに完全に穴が開いて流血。
包囲された城はムーヴをバラしただけで敗退。

指から血が出たまま、最後にエリアの隅にあるサイケデリック(初段)へ。
2日目の最後でいい加減ヨレてきたのか、サイケデリックは保持系でもないのにしばらくハマった。
前傾カンテをガシガシ登るのかと思いきや、核心はなかなかに繊細だった。
ついでに同じ岩の平行世界(初段)も登っておいた。
こちらはスタートからほぼ垂直跳びのランジで、身長で得をした気がする。

こういう、グレードを下げて数を登る日も楽しいのだけれど、それならもう何段かきちんと稼ぎたいなと思う。

2025年3月9日日曜日

アリとナシ、是と非

Dawn Wallのレポートを訳したりしている間に2月が終わってしまった。
自分のクライミングはできているので、少しずつ書いていこうと思う。

この一か月で、2本のルートを初登した。
どちらも地元の非公開エリアで、大ザルが数年前から足繫く通っている岩場だ。
その初登と前後し重なる形で、いろいろと考えたことを書いておきたい。



「必要」という言葉は、扱いが難しい言葉だ。
重要なようで、正しいようで、だからこその危うさも秘めていると、僕は思っている。

しばらく前に、とある岩場(岩場A)でこんな話を聞いた。
「あの5.11の周りにアップできるルートが必要だと思ったから、新しく5.10くらいのルートを作った」
その5.11は僕も前に登ったことがあったので、この話には少し驚いた。
というのは、5.11の取り付きから50メートルも歩けば、易しいルートが既に沢山あったからだ。
新しくできたその5.10を僕は登っていないし、もしかすると登れば面白いルートなのかもしれない。
しかし、僕はこの「必要だと思ったから」という話に違和感を覚えた。
この岩場はホールドが割と豊富な岩質なので、掃除してボルトを打てば、まだいくらでもルートを作ることはできる。
ただし「いくらでも」というのは、あくまで物理的な話だ。
以来、「必要」という言葉が、僕の中でずっと引っかかっている。

また2月のある日、別のとある岩場(岩場B)に出かけた。
特に目標は決めず、トポを見ながら5.11~5.12のルートをあれこれとオンサイトトライした。
その中でトライした5.12後半で、核心のムーヴを読み間違えてフォール。
「あー、これは後でもう一回だな」と思いながらムーヴをバラして抜けていくと、
終了点直下のホールドを持った時に、指先に妙な感触があった。
明らかに岩ではない何かに触っている。かといって、シッカーでもない。
ムニュッと柔らかいその感触に何かと思って覗き込むと、
フレーク状のホールドにコーキング材のようなものが塗られているのだと分かった。
このルートは過去にもキーホールドが欠けたことがあるらしく、
問題のフレークもそのうち剥がれてしまいそうな見た目をしていた。
ホールドが無くなることを危惧した誰かが、補強のためにと塗ったのかもしれない。
もしそうだとすれば、その心情自体は理解できる。
しかし明らかに樹脂を触っているその手触りの違和感と共に、僕がそのルートにトライする意欲は完全に消えてしまった。
そこにあるのがルートではなく、工業製品のように見えてしまったのだ。
ヌンチャクを回収し、ロープを引き抜き、僕は岩場を後にした。
今後僕があのルートをトライすることは、もうないだろう。



話は戻って2月某日、大ザルの非公開エリアへ登りに出かけた。

ここは1年前の春に一度だけ来て、目を付けたラインを1本だけ掃除したきりだった。
とにかくこの岩場は掃除が大変だ。
苔はもちろんのこと、クラックにもホールドにも土や埃が詰まっていることが多いし、
壁の上の方にはブッシュだけでなく巨大なイワヒバの塊がくっついていたりする。
しかし一方で、ところによっては明確な節理があり、プロテクションは十分に取ることができる。
その節理を上手く辿れば、グラウンドアップで登れるのではないか、という考えがあった。

この日、僕はそのアイディアを実行に移そうと、グラウンドアップで登れそうなラインを探して回った。
そして、岩場の入り口からほど近い場所にある前傾コーナーを登ってみることに決めた。
クラックは地面から壁の上まで伸び、ブッシュに吞まれるように消えている。
上部はイワヒバと苔に覆われているように見えたけれど、多分なんとかなるだろう。
地面から見える範囲で1時間以上眺めまわし、意を決してトライすることにした。

出だしからクラック内の埃が酷く、どれだけチョークアップしても嫌なヌメり方をする。
フットホールドが沢山あって助かるが、傾斜は見た目よりも強く感じた。
気づけばコーナーの奥に体を突っ込んでチムニーのように登っていた。
下り気味にトラバースしたり、ロープドラッグをなくすためにランナーを長くしたりと、
なんだか城ケ崎で登っているような気分になった。
核心と思しきパートで怖さから声が漏れたものの、ホールドの埃を払っては掴み、払っては掴みを繰り返して、ルーフを越えた。
最後はイワヒバの塊にマントルを返し、ブッシュを掴んで壁の上まで抜けた。
思っていたよりも易しかったが、グラウンドアップの初登はやっぱり怖さが違う。

年末年始に登った大堂海岸のような、海岸線の硬い花崗岩ではなく、
苔も土も埃も木もある汚い山の岩でグラウンドアップの初登ができるのか。
その可能性を確認できたことが、最大の収穫だった。
もちろんそうするには岩の節理ありきなので、その分対象はかなり絞られるが、確実に存在するということが分かった。


3月の初め、再び大ザルの非公開エリアへ。
何をやるか迷ったが、1年前に掃除したきり登っていないフェースのラインをやってみることにした。
荒々しく掃除する大ザル

大ザルが掃除中のラインと格闘して埃まみれになっている間に、
こちらは改めて自分のラインの様子をラペルで確認する。
1年経ってまた汚れてしまったかなと思ったが、意外に綺麗なままだった。
ホールドに溜まった埃を軽く掃除して、プロテクションを再確認し、必要なギアを把握。
ムーヴは特に練習しなかった。ホールドを掃除しただけで十分だと判断した。
大ザルの手が空いたところで、リードでトライ。
下部からプロテクションが細かい上に、浅い水平クラックに捻じ込んでいるので、結構心許ない。
アップもラジオ体操とハングボード以外はしていないので、どんどんパンプしてきた。
長居は無用、と思い切って核心に入っていき、落ち着いてムーヴをこなして、薄被りのフェースを抜けた。
春の訪れを感じさせる暖かい日差しを浴びながら、壁の上の木で支点を取って終わりにした。

ギアを回収して取りつきに戻ると、「呆気なく登ったな」と大ザル。
なんだか以前どこかのルートでもそう言われた気がする。


前傾コーナーは、判官贔屓(はんがんびいき)5.10c、
フェースは、豊穣 5.11a PD とした。

今回の2本のルートはどちらもボルトを打たず、オールナチュラルで登った。
それはこの岩場の開拓方針に沿ってのことなのだが、単純に僕がそういう登り方が好きだというのもある。
しかし、2本のルートでは登り方が明確に異なるものになった。
判官贔屓はラペルでの掃除やプロテクションの確認をまったくせず、グラウンドアップで登った。
豊穣はラペルで掃除し、プロテクションを確かめ、ムーヴなどのリハーサルはせずに登った。
言ってみれば、「何をアリとして、何をナシにするか」の境界が異なっているわけだ。

自身を更新し、克服のプロセスを重ねていくところに、僕はクライミングの魅力を感じている。
その意味で、グレードを更新することにも、リスクの伴うクライミングを乗り切ることにも、同じように面白さを見出してきた。
そして今、肉体的な更新に加えて、精神的、あるいは価値観そのものの更新というものがあることが段々と分かってきた。
判官贔屓は、決してハードなルートではないし、綺麗に掃除されれば危ないこともない。
しかしその初登のプロセスには、この遊びを続けていく上で重要な意味があった。

一方、豊穣は判官贔屓に比べて、スタイル的にはあまり突っ込んだことはしていない。
掃除などの必要な準備を整えてから登るというやり方は、これまで瑞牆でやってきたことと何も変わらない。
しかし、たとえラペルで掃除し、プロテクションやムーヴを確認することが妥協に違いないとしても、
こうしてナチュラルプロテクションでフェースを登るクライミングの持つ価値が、僕の中で減ることはない。
それは、ひとつには、「手間をかけてもより良く登りたい」という願いをずっと持っているからだ。
だから僕は、判官贔屓と豊穣、どちらのルートも自分の中では結構気に入っている。

豊穣を登った後、荷物を片付けながら大ザルと話した。
「この開拓の仕方は、1本を登るのに時間がかかるね。でもその分、長く楽しめるとも言えるかもしれない」
大ザルは一言、「そうだね」と言った。
「ボルトを打って開拓すると、すぐに終わってしまう。ある人はそうしてクライミングを辞めていった」とも言っていた。

今回登った2本のルートが、「必要なルート」かどうかは、正直なところ分からない。
そもそも「必要なルート」というもの自体があるのかどうかも、僕には疑問だ。
ただ、はっきりと分かることは、僕が登りたいのは工業製品のように量産されるものではない。
自然の中での偶発性を享受し、自身の中に芽生える何かを温められる、そういうものだ。
スピードを上げることは、必ずしも美徳ではない。
ゆっくりと登ることで見えてくる景色もあるのだろう。

2025年2月19日水曜日

Dawn Wall 2025 - Process and Story introduction

Sebastein Bertheというクライマーをご存じだろうか。

Sebastienはベルギーの若手クライマー(といっても30代)で、
ヨセミテでのビッグウォールやスポートでの8c+のフラッシュ、
James Pearson初登のVon Voyage(E12)の再登などで有名なクライマーだ。

2月7日、そのSebastienがヨセミテでDawn Wallを登ったというニュースが飛び込んできた。
2年前に彼が同じくベルギーのSiebe Vanheeとトライしたことは知っていたので、
「ついに登ったのか!」という気持ちで彼のInstagramを見ていた。
彼はプロクライマーとして活躍する一方、環境問題や社会問題にもアンテナが高く、
海外への渡航に飛行機を使わず、船で何週間もかけて海を渡るなど、積極的な活動を続ける人物でもある。
その彼がDawn Wallの完登を報告する2月7日の投稿には、クライミングとはまた異なる強いメッセージが書かれていた。

以前、El Capitanに中腹にあるテラスから、パレスチナ人道危機に抗議する横断幕を掲げたクライマーがいた、という話題を目にしたことがある。
それもまたInstagramに流れていた投稿のひとつだった。
その投稿に対して、「クライミングに政治を持ち込むな」という批判的なコメントが寄せられていたことが、今も記憶に残っている。

僕自身も、クライミング中に突然政治的な話題を投げかけられたら、面食らうかもしれないと思う。
「楽しく登っているのに、どうしてここでシリアスな話を」と感じてしまうかもしれない。
さらには、自ら積極的にそうした話ができるほど知識や情報を持っているわけでもないし、
そこに切り込んでいく聡明さや勇気も、残念ながら持ち合わせてこなかった。
つまりは、そういう人間だったということだろう。

しかしこのSebastienの投稿を読んだとき、「これはもっと多くの人が読むべきものだ」と直感した。
これは、「〇月×日、Sebastien BertheがDawn Wallを第3登した」という単純すぎるニュースとして処理されるべきものではない。
プロとしての立場も顧みず、むしろその立場すら利用して、世界に訴えかけようとしている彼の熱意が、
ただの数字の羅列に矮小化されてしまうのはあまりにも悲しいことだ。
そこでSebastienに直接連絡をし、「この投稿を翻訳してシェアしてもいいか」と頼んでみた。
すると彼は、面識もなにもない日本人の申し出を快く受け入れてくれた。
それどころか、10ページの記事まで送ってくれた。「これも使ってくれていいよ」という。

これはもう、やるしかない。


ということで、Sebastienが送ってくれた記事を翻訳してみました。
そもそもこんな個人のブログに載せたところで、どれだけの人の目に留まるのかは分からない。
それでも、何かひとつでもポジティブなものが残れば、と願っている。

《注意》
・全文、僕の拙訳のため、誤訳や読みにくい個所があるかもしれませんが、ご了承ください。
・文中のグレードはすべてデシマルのみに統一しています。
・個人名とルート名、ピッチの名前については、カタカナで表記するのが困難なものもあるため、アルファベット表記のみとしました。
・写真はないので、Part 1、Part 2それぞれの冒頭にあるリンクからUKClimbingに掲載されている記事(英文)をご覧ください。