2025年1月29日水曜日

大堂での年越し その2

1月3日 レスト
前日までで調査・撮影のスケジュールが消化されたので、この日はレストになった。
洗濯などをして、あさこさんと海亀エリアへ散歩がてら気になる壁の偵察に出かけた。


大堂海岸の新トポの写真を見て気になっていたフェースのライン等々を眺めまわしてみた。
最初にぶら下がってみたラインは、両脇にある別のクラックが近い上に中間部で節理が途切れていてイマイチ。
もうひとつ、アニサキス周辺で降りてみたフェースは、切れぎれのクラックが絶妙に繋がっていて可能性がありそうだった。
ラペルしながら近くに寄ると、どのようにやったものか悩むくらいのグレードに見えた。
リハーサルをするか、一切なしでグラウンドアップにするか。
ウンウンと迷っていると、あさこさんが一言。
「そもそも、もうグラウンドアップではないやん」
たしかにそのとおり。それならこのラインは、もうリハーサルありきになったということだ。
上から回らないと偵察しにくいラインだったとはいえ、ぶら下がって偵察した時点でグラウンドアップではないわけだ。
完全なグラウンドアップでできるか否かの境界線は測りにくく、
そして一度「できない」と決めてしまえばその先の道筋は不可逆だ。
その一線を思いがけず越えてしまっていたことが、口惜しくなった。

足下の海には海亀が浮いていた


1月4日(土) 超最果てエリア
N社長主催の合宿はこれにて終了、社長とYabu夫妻は徳島方面へと移動していった。
天気予報の、特に風向と風速をジーッと見て、この日は超最果てへ出かけた。
刺身丼伝説(5.8)のラインから下降して、まずはアップで宝船(5.10b)をワイドを迂回するバリエーションから登った。
次にあさこさんが漁民俱楽部(5.11b)をやったものの、抜けない疲労が酷いらしく下りてきた。
晴れ予報だったのにずっと曇って肌寒い日だったので、なんだか自分だけたくさん登らせてもらうことに負い目があった。
それでも「登ってくださいな」と言ってもらえるので、登ることにした。

エリアの中で一際存在感を放っているジパングDirect(5.11a)がこの日のメイン。
右に抜けていくジパングが5.10なので、つまり分かれた後が悪いんだよな、と思っていると、
分かれるまでのセクションもなかなかドキッとするムーヴが続いた。
そして当然、分かれてからのセクションがムーヴもプロテクションもスリリングで、かなり行きつ戻りつした。
最後は覚悟を決めてムーヴを繰り出し、無事OS。ナッツを固め取りしてからの核心は相当緊張した。
それから最後に漁民倶楽部も登って、ザックを荷上げして撤収。
なんと2人ともヘッドランプの電池が切れてしまい、残り少ないバッテリーのスマートフォンの灯りで帰ることに。
なんだかヨセミテでも似たようなことをしたな。
この日からマルボーさんらの宿に厄介になり、ヘッドランプの件を話すと、
「あんたら何年クライミングしとるのよ」と笑われた。
ぐぬぬ。


1月5日(日) 海亀エリア
2年前に宿題になってしまった白鯨(5.13b)を回収するべく、海亀エリアへ。
エリアの看板であるアニサキス(5.10d)は前に登っているので、
バッタ先生に薦められた東面にあるジョバンニ(5.11a)もやってみることにした。
グレード的に、まずジョバンニから。
アニサキス等の取り付きのレッジからもう一段下の平らな磯まで降りて、波打ち際をトラバース。
ここから登る波しぶき(5.7)をあさこさんがリードして、僕がフォロー。
壁の中段にあるテラスから始まるジョバンニは僕がリードで登った。
ホールドがじゃりじゃりするフェースの核心で力が入ったものの、OS。お薦めのとおり良いルートだった。
それからまた下へラペルして、白鯨。
「意識を高く持たねばいかんぜよ」と、まずはリードでトライした。
が、核心になるルーフが解決できない。ムーヴの糸口が見つからない。
エイドで抜けられるような極小サイズのカムも持っていなかったので、
泣く泣くアニサキスを登ってルーフの上に回り、トップロープに切り替えた。
それでもムーヴはなかなか解決せず、雲行きが怪しくなってきた。
最初にやっていた右手を送っていくムーヴではまるで出来ないので、
発想を丸っきり変えて左手を送るムーヴにしてみると、試行錯誤した末にどうにか出来た。
不思議なもので、一度できるとどんどんムーヴの再現性が上がる。
日はかなり傾いていて、帰り道のことを考えるとあまり時間はなかった。
絶対にできるというほどの自信はまだなかったけれど、もう一回だけリードでトライすることにした。
パンプするような内容ではないので、レストもそこそこにギアを用意して登りだす。
ルーフ下からカムを固め取りして、オフセットしたルーフクラックに手を捻じ込んで核心に入る。
トップロープでトライしていたときは体が温まりすぎて手がヌメっていたけれど、
一度体を落ち着けて臨んだこのトライは、粗い粒子をしっかりと感じることができた。
ほとんどブラインドのデッドで左手のフィンガージャムを叩き込み、ルーフを乗越してRP。
初めは「本当に13bなのか?」と思っていたけれど、登れてみるとそれくらいだろう。
2年前からの心残りが回収できて、すっきりした。

あさこさんにフォローでの回収を頼んだものの、ルーフ越えがかなり厄介だったようで、苦労して抜けてきた。
多少時間はかかっても、ロワーダウンで回収できるようにギアを用意して登るべきだった。
RPできても、ここは残置支点のない大堂。考えなければいけないことは、きちんとある。

2025年1月25日土曜日

大堂での年越し その1

あけましておめでとうございます。と書いたところで既に1月も終わりかけています。

ヨセミテから帰ってからはツアー前に故障していた肩の痛みが再発するなどなど、あまり調子は上がらず。
N社長に呼ばれて弾丸で小豆島へ行ったり、瑞牆と野猿谷で独りボルダーをしたりした。
小豆島では吉田の瀬戸内プレゼント(5.13a)と赤嶽のエル・カミノ(5.13a)をOS。
一応、13aのOSは初めてのことで、最高グレードの更新だったのだけれど、
慣れ親しんできた小川山・瑞牆周辺とのグレードに比べると易しく感じる。
グレードはあくまでも目安なので素直に喜べばいいのだけれど、
個人的にはまだまだ最高のOSをしたとは言えないような気もしている。

ここからは、年末年始の話。
新年をほぼ毎年海辺で迎えている我が家ですが、今年も例にもれず大堂海岸での年越しになりました。
今回はN社長の取材チームに呼ばれ、あさこさんは先に出発。
僕は仕事納めをしてからゆっくりと合流した。
今年は曜日のめぐりが良かったので、有休を大量につぎ込み、成人の日の週末まで繋げた大型連休にできた。


1月28日~29日 移動日
27日の夜中に山梨まで移動し、28日はゆっくり出発して四国を目指した。
思えば、一人で四国まで運転するのは久しぶりだった。疲れるけれど、こういう一人旅も案外嫌いではない。
明石海峡→淡路島→徳島へと渡り、山間の吉野川SAまで走って車中泊。
29日は再び走って、昼過ぎまでかけて宿毛、大月にたどり着いた。
先発組は洞窟エリアにいるとのことだったので、午後遅い時間に合流。
さあかすのざう(5.11d)の左のチムニー(5.8)だけ登って終了。
チムニーに挟まるあさこさん、すごい体勢のタケミちゃん

エリアの奥には洞窟があった

帰り際、やはりN社長に呼ばれて合宿に参加しているYabuくんと、洞窟エリアの気になるラインを見上げた。
「ここ登れそうだよね」「そうよなぁ」
そう言ってフェースに走るヘアラインクラックを見ている後ろでは、
奥様方が「まーたそんな細いやつ見て...」と笑っていた。
こういう岩場で食指の動く人間とその家庭は、だいたいこんな感じなのだろうか。


12月30日 白いエリア
この日は白いエリアへ。柏島への橋を渡ったところに車を止めて、「田中さんの畑」と書かれた防災看板を目印にアプローチ。
そういえば前に来た時は、福の神こと福ちゃんと一緒だった気がする。
エリアに下りていくと、他に2パーティいて賑やかだった。
アップでブラックニッカ(5.10a)を登り、We Will Rock You(5.11a)をOS。
見た目どおり前傾フィストが核心だったけれど、手のサイズのおかげでほぼワイドハンドだった。
かなりじゃりじゃりしたけれど、シーズン初めはこういうものらしい。
前日まで2日移動してきたのであまりペースは上げず、もう一本モスキート(5.11a)をOS。
こちらはルーフに頭を押さえられる辺りから多少苦しくなり、湿気も籠っていたので緊張した。
N社長が「モンキーエリアでもう一度登って検証したいルートがあるから付き合って」と言うので、
他のメンバーとあさこさんを残して一足先に上がった。
夕暮れのモンキーエリアに移動し、N社長が手早く1本だけ登って終了。


12月31日 レスト
大晦日。先発メンバーはこれまで5連登だったそうで、この日はレストになった。
「各自ご自由に」とのことだったが、あさこさんがお疲れの様子だったので無理はせず、
宿毛市街へドライブがてら昼食を食べに出かけた以外はのんびりと過ごした。

道の駅大月にある長い滑り台(ローラーがついているやつ)を滑ってみたら、それから妙に尻がヒリヒリとしていた。
風呂上がりに触ってみると、火傷したようだった。あさこさんには盛大に笑われる始末。
大人が子供用の遊具で変に羽目を外してはいけません。


1月1日 東のエリア
元旦。N社長の経済力により、なんと渡船で岩場へ行くことになった。
先人がせっせと歩いて岩を、というか壁を見つけ出した岩場なので気が咎めるけれど、
船からの景色もそう見られるものではないので、乗ってみることに。
古満目の港から船に乗り、岬をいくつか回り込むと、大堂海岸の全容が見えてきた。
手前の大きな壁が最果てエリア

興味津々

この日は東のエリアへ。大堂のパイオニアの一人でもあるバッタ先生(トポ発売おめでとうございます)もご一緒していただいた。
エリアに着いてまず天国の扉(5.9)でアップ。5.9は5.9だけれど、ここは大堂なので当然のようにカムのセットには気を使った。
そんなことをしている間に、バッタ先生はソロで5.11台をガンガン登っていた。ハートが強くていらっしゃる。
それを見てしまってはこちらも生ぬるい登りはできないと、New Old Line(5.12a)に撮影を兼ねてトライ。
出だしからスモールカムとナッツを固め取りして「やっぱり大堂のルートだなぁ」と感じたけれど、
ルートの内容はどちらかというとフェース要素が強く、心地よいパンプを感じながらOSした。
プロテクションの効きは全体的に良いけれど場所が限られ、それを足下にしての核心はなかなか痺れた。
バッタ先生(初登者)がNew Old Lineを登るのをビレイしたりしているうちに日が傾き、
前に来た時に登った夢幻の壁(5.11a)を西日を浴びながらリピートして、渡船が迎えに来たので終了。
この日、Yabuくんが柿羊羹(5.10d)と暗中模索(5.11d)の間にあるラインを目の前で初登していた。
「ここが登れそう」と感じていたラインが目の前で初登されるのを見て、悔しいという気持ちは不思議となかった。
むしろ純粋な刺激として、胸に残った。


1月2日 帰れずエリア
また古満目から渡船で岩場へ。
この日行った帰れずエリアは、初めて大堂に来た時にモンキーエリアと間違えて迷い込んだ覚えがある。
100岩の記述を曲解して、気づくとボロボロのロープにひしゃげたアルミ梯子がぶら下がった道を下っていた。
そのときはモンキーエリアへと波打ち際を移動したので、ここで登るのは初めてだ。
まずあさこさんが熱風セレナーデ(5.10a)を登り、僕も続いて登った。
要所要所にレッジがあるのが玉に瑕だが、このグレードでこの長さ、ジャムのサイズも多彩でなんとも名作の香りがする。
次に、この日のメインのモンゴ・サンタマリア(5.11b/c)。
発表当時は1P目が5.11a、2Pが5.11dだったそうだが、今はこのグレード。
1P目の中間にはボルトが2本あったらしい。今は微かに跡が残る程度だ。
トライしてみると日差しが相当暑く感じた。このエリアは壁際にくると途端に風がやんでしまう。
クラックの縁がかなり温もっていて、ヌメりで危うく落ちそうになりながらOSした。
正直なところ、前日のNew Old Lineよりも悪く感じた。まあそれはコンディションのせいだろう。
モンゴ・サンタマリア

最後にあさこさんと右のほうにあるトップロープ課題の5.11c/dで遊んでみた。
と、これがとにかく難しかった。
先にトライしたあさこさんが悪そうにしているので、選手交代してやってみたところ、
落ちずに登れたもののかなりギリギリ、これも落ちるかと思った。
体感は5.12ノーマル。
比較的グレードは辛めだと思っていたが、大堂海岸恐るべし。

2024年12月27日金曜日

Yosemite 24 その5

11月5日 レスト
ゆっくりと起きてシャワー、午後にあさこさんと歩いてYosemite Villageに出かけた。
図書館、ビジターセンター、Ansel Adamsのギャラリーに寄り道して、実家の祖母にポストカードを書いた。


11月6日 Above the Cookies
レスト明け、まずはTales of Powerへ。

朝イチでFive and Dimeに寄ってアップ。
エリア名にもなっているFive and Dime(5.10d)はちょうどいい長さと傾斜で良いクラックだった。
これを登っただけでそこそこいい時間になったので、急いでTalesに移動。
先客はなく、ゆったりとトライ出来た。
じゃんけんで勝ったあさこさんが先にトライして、見事にRP。
本人は「サイズで得した」と謙遜するけれど、それにしたって強い。
そして、こちらとしては当然プレッシャーが強まる。

続いてトライした僕は、核心のシンハンドを相当ギリギリのところで耐えながら危なっかしくRPした。
あさこさん曰く「5.13を登ってるみたいだった」ということで、体感もそれくらいだった気がする。
苦手の詰まったこのルート、来年もう一度登りに来ようかな。


11月7日 Chapel Wall
買い出しもあったので、この日は車で出かけた。
前日は実質2トライ(2本)しか登っていないので、疲れは感じなかった。
あさこさんが「リードで2回やりたい」とのことだったので、1回目のトライの後でまたトップロープでアップさせてもらった。
指にテープを巻いた関係で変更したムーヴを、また少し微調整した。
レストを挟んで、リードでトライ。
下部から足が抜けたりして力が入ってしまったけれど、最後の#0.3のセクションを気合で押し切ってRPした。
パンプもヨレも相当なものだった。

とにかく、登れないままになっていた宿題が片付いてすっきり。
それに、5.13のクラックを登るのはかなり久しぶりだ。忘れていたものが返ってくる感覚があった。
暗くなる中、あさこさんがもう一便リードして、翌日にもう一度トライするためにロープをフィックスして、下山した。
夕飯を食べたのに「もっと食いたい」とバナナを焼き始めるガチオ・コミネム


11月8日 Chapel Wall
あさこさんのCosmic Debrisに付き合った。僕はレスト。
あさこさんは、今回はトップロープでムーヴを練習し、最後は3分割にまでまとめていた。
これにて今年のCosmic Debrisは終了。
来年があるのか、それは本人にしか分からないけれど、この人にはこのクラックを登ってほしい。
そしてそれを見てみたいと、勝手ながらに願ってしまう。
夕方、Curry Villageに寄るとHalf Domeが焼けていた


11月9日 Cookies
あさこ・ガチオペアが最終日なので、あさこさんの希望でCookiesのNabisco Wallをやりに行くことに。
Red Zingerなどの一段下からバンドをトラバースして、そこから5.11台のクラックを3ピッチ継続で登るのがこのNabisco Wall。
まず1P目のWavely Wafer(5.11a)はあさこさんがリードで、見事にOS。
フォローのこちらは、荷物を背負っていったこともあり、核心で危うく落ちるかと思った。
ワイドかと思いきや、その出口が#0.75~0.5のサイズって、そりゃ悪いよ。
Wavely Wafer

2P目のButter Balls(5.11c)も、あさこさんがじゃんけんでOS権をもぎ取った。
いつものことだけれど、OSがかかったじゃんけんは異常に強い(僕が弱いだけなのか?)。
が、かなり疲れている様子だったので、間をつなぐのも兼ねて、右にあるWheat Thin(5.10c)を登らせてもらった。
少しだけ悪い出だしをこなせば、特大かつ極薄のフレークで豪快なレイバックが続く。楽しい!
試しに拳で叩いてみると、巨大な和太鼓のような音がした。
あさこさんと、居合わせたイシダ塾長、かつらくんが「うわー...」と退いていた。
その後あさこさんがButter Ballsにトライしたものの、連登の疲れと予想外の寒さからかテン山に。
あまりにしんどそうだったので、上へは行かず下りることにした。
キャンプ4に帰ると、あさこさんは風邪のような症状でダウン。
最後の夜が思いがけず病床になってしまい、気の毒だった。


11月10日 Royal Arch
クライミング最終日。
ロサンゼルスへ向かうあさこ・ガチオペアにお別れをして、コミネムとRoyal Archへ。
途中、Awaneeのボルダーで軽く登ってアップ。V5くらいまでの低い課題を何本か登った。

それから歩いてRoyal Archへ。初めてのエリアだったので、若干迷った。
この日の本題はHang Dog Flyer(5.12c)だったけれど、すぐ右の1096(5.10d)が綺麗だったので、コミネムがトライ。
これが見るからに恐ろしげな下向きのフレアードチムニーで、初登がJim BridwellとJohn Longとのことで一層身が縮む。
実際相当手ごわいワイドだったらしく、テン山で抜けたコミネムが「これを先にやらない方がいい!」と忠告してきた。
左がHang Dog Flyer、右の太いのが1096

そういうことなら、と本題のHang Dog Flyerにトライ。
有名な天井レイバックを思い切って駆け抜け、続くオフフィンガー気味のセクションも越えて、レストポイント。
足下に小レッジがあるので、しっかり休める。
ということは、この先もまだ悪いということなんじゃないか?そう思うとレストが長くなった。
最後のセクションはクラックが閉じ、フットホールドも微妙になって、予想どおり苦しかった。
ムーヴが読み切れず落とされかけたものの、一か八か気合のデッドでフィンガージャムを叩き込み、OSできた。
クラックのOSグレードを更新。最終日に思わぬボーナスが待っていた。
これですっかり満足して、1096はトライせず。
最後にコミネムがHang Dog Flyerをフォロー回収して、早めに撤収した。

最後の夜は、Salathe Wallをオールフリーで登り切ったカッシー・ノミーペアとCurry Villageでピザ。
2年前、Free Riderを登った後の彼らに、僕はこっそり嫉妬していた。
今回は嫉妬よりも、自分たちもやってやるんだという前向きなエネルギーをもらえた気がしている。
慣れない自撮りに、顔がおかしくなる


11月11日→12日 帰国日
朝7時にカッシー・ノミーに見送られてYosemiteを後にした。
運転を交代しつつ、一路サンフランシスコを目指した。
途中のWalmartで土産を買いつつ走って行くと、タイミングよく雨になった。
思えば今年は悪天に巻き込まれる前に帰ることができて、ラッキーだった。
車を返却して、返却スポットのスタッフに急かされながら慌ただしくパッキング。
それからウンウン言いながらすべて担いで運び、荷物の預け入れ。
なんと、大きい方のホールバッグは30kgぴったり。カウンターのおばちゃんが一瞬笑ったのを僕は見逃さなかった。
もはや金銭感覚がおかしくなっていて、搭乗前に食べたランチも、ZIPAIRの機内販売も、
数十ドルと恐ろしく割高だったのに軽く出してしまった。
いかんいかん、節約しなきゃなのに。


帰りの飛行機もあまり眠れず、ひたすらに映画を観ていた。
成田には夜に着き、そこからコミネムの車をピックアップして、それぞれの家に帰った。

ちなみに帰国直後の体重は今年もしっかり減っていて、66kgだった。

Yosemite 24 その4

10月31日 Salathe Wall day6 (Head Wall ~ Long Ledge)
5:30起き。が、寒さと疲れでなかなか動き出せず。
朝イチのトイレは、これまでになくエクストリームだった。
Head Wallは1P目(5.13a)からシビアで、あわよくばという期待は一瞬で粉々になった。
これまで見たことがないくらい巨大にフレアしたクラックが、最奥で極細になっているといえばいいのか。
また拙いエイドでやっとこさ越えたものの、相当に厳しかった。
フリーでのムーヴも頭の隅で組み立ててはいたが、100%は解決できず。
Head Wall 1P目

ポータレッジは畳まずそのまま荷上げして、中に収まって一休み。
2P目(5.13a)はコミネムに譲った。本当ならこのピッチが一番長くおいしいところだったけれど、相方にも登ってほしかった。
コミネムは流石のジャミング技術で半分くらいはOS、そこから始まる核心はテン山ながらエイドなしで抜けていった。
体はすでに悲鳴を上げ始めていたけれど、心強かった。
Head Wall 2P目(フィックスは別パーティーの残置)



強風に煽られぐらぐら揺れるポータレッジでまた休み、気持ちを入れなおして3P目(5.13b)。
いきなり出だしでテンションしたが、中間部の大穴レストポイントまでは入り込んだ。
が、その上の核心パートはプロテクションが細かすぎた。
多くのクライマーが使っている残置ナッツはワイヤーが切れ、波平の髪のように壁から突き出している始末。
墜落に耐えるほどのプロテクションをセットできる気がせず、フリーは諦めてまたエイド。
震えながら、三度拙いエイドで抜けた。心の底にくるクライミングだった。
しかしどうにかルート全体の核心であるHead Wallは突破。まずはそれに安心している。

宙を舞うポータレッジ

Long Ledgeに荷物を広げ、ポータレッジに収まると、先ほどまでの怖さが嘘のように平和だった。
明日はもう3ピッチ登ってトップアウト。
長かったこの壁も、いよいよ終わる。


11月1日 Salathe Wall day7 (Long Ledge ~ summit)
5:30起きで荷物をまとめる。足下にレッジがあるというだけで、ずっと楽に感じた。

アップなしで28P目のバリエーション(5.11d)を登るのは緊張したけれど、
ホールドが人工壁かのように明瞭、かつ大きく、ランナウトも適度で大丈夫だった。
かなりパンプしながら、無事にOS。
28P目

次の29P目(5.10d)はコミネムがリードして、ルーフ下トラバースのボルダームーヴでハマったらしく、エイドで抜けた。
突き出たダイクに荷物が何度も引っかかるので、途中からフリーでのフォローは諦めてユマールでのサポートに切り替えた。
ここまで登ると突然壁の傾斜が落ち、最終ピッチの5.6はほとんど歩きだった。
さっさと登り、アンカーを作り、岩のフリクションで重くなった荷上げも済ませてトップアウト。

解放感、安堵、喜びと悔しさがあった。まずはパートナーと抱き合った。
このアンカーに、もう少し違う気持ちで触れることが出来たら、という想いがずっとある。
ともあれ、長いクライミングは終わり、概ね晴れやかな気持ちで荷物を整理してパッキング。
重い重いホールバッグを担いで長い下山にかかった。
何ピッチも続くフィックスのラペルが心配だったけれど、荷物を分解してぶら下げるなどしたら大して問題なし。
こういうことも、事前に瑞牆で練習しておいてよかった。
暗くなり、Noseをワンデイで登ったという身軽なパーティに追い抜かれたりしながら、無事にピクニックエリアに下山。
荷物は一旦デポして、El Cap Meadowまで歩いて車を回収。
キャンプ4を一度回ってから荷物を回収に戻り、再びキャンプ4へ。
シャワーはひとまず諦め、あさこ・ガチオチームに夕食をごちそうになって、倒れるように寝た。


11月2日 レスト
El Capの壁の中は寒かったが、キャンプ4の朝も寒かった。
この日はレストで、シャワーを長めに浴びてからSonoraの街へ出かけた。
ピザとサラダバーが食べたかった。
その念願が叶って、第2回サラダバー選手権が開催された。Mike's Pizza最高。
誰が一番上手く盛るか、という競技だったらしい

洗濯、買い出しも済ませて、夜の帰り道の車内は誰からともなくカラオケ大会になった。


11月3日 Above the Cookies
前日降った雨の湿気を感じつつ、あさこさんと2人でTales of Powerをやりに行った。
Reed's PinnacleでLunatic Fringeを登ってアップし、Stone Grooveは先客がいたのでやめ、Talesへ移動。
ロープをフィックスして下りていくと、日本語ペラペラのハイテンションなお兄さんがいて、
Separate Realityをトライ中の仲間にやんややんやと声援を送っていた。
あさこさんが聞いた話では、神戸にいたのだとのこと。
TalesはあさこさんがOSトライをしたものの、下部のオフウィズスで行き詰って下りてきた。
選手交代して取りつくと、クラックの中はジメジメ。
ジャムがあまりにも効かないので、核心はカムエイドで抜けるしかなかった。
おまけに出口のチムニーの中は砂でじゃりじゃり。どうも雨が降ると流水溝になってしまうらしい。
アンカーに這い上がると、先ほどのハイテンションお兄さんがユマールで帰っていくところだった。
"How was it?"と聞かれ、"IT'S WET!!"と答えると、"OF COURSE!!!"と笑っていた。
知ってるなら教えてくれーい。
その後あさこさんがトップロープでするするとTalesを登っていき、僕がユマールで回収。
ビッグウォール後のアクティブレストとしては、こんなところだろうか。

11月4日 Chapel Wall
Heaven(5.12d)へ行くガチオ・コミネムペアを見送り、こちらはゆっくり歩いてChapel Wall。
森の中はまだ湿気が漂っていたけれど、Cosmic Debrisは乾いていた。
「最初はトップロープでやりたいやろ」というあさこさんの言葉に甘えて、リードしてもらう。
テンションをかけながらやってみると、右人差し指はまだテープを巻いているし、
指はジャムの感触を忘れているしで、なかなかハードに感じた。
が、すぐに指と体が温まってきて、クラックに馴染み、ムーヴが確認できた。
あさこさんのトップロープでのワークを挟んで、もう一度トップロープでやると、今度はノーフォールで抜けられた。
El Capから下山して、中2日でこの感触なら上々。
次回はリードでトライすることにして、あさこさんがもう一度トライして終了。
最後は真っ暗になり、2人ともヘッドランプを下にデポした荷物に置いてきてしまったので、スマホのライトを頼りにラペル。
明るいので怖くはないけれど、ひどく不便だった。反省。

Yosemite 24 その3

10月26日 Salathe Wall day1 (~Lung Ledge)
3:00に起床。前日に作っておいたベーグルを車中で食べ、取りつきへ。
4:45にFreeblastスタート。この日はすべて僕がリードした。
もう3年目ともなると慣れたもの、かと思いきやそうでもなく、2P目のトラバースで落ちるかと思った。
ここを落ち着いて越えて、体がほぐれ、4P目の11b/cのスラブ、5P目の11aと快調に通過。
Half Dollarもこなして、Mammoth Terraceに上がった。
11b/cのスラブをフォローしてくるコミネム

Heart Ledgeへのダウンクライムのピッチはラインを間違えて登り返したりしたが、落ちずに下った。
決して速いペースではないけれど、暑くなりすぎる前にここまで抜けたから上々。
とはいえ流石にカンカン照りだったので、テラスで2時間ほど昼寝して、
日が傾いてきた頃に次の10P目の11cを登り、Lung Ledgeへ。
このピッチの核心は、3度目でもやっぱり悪かった。
それから一気に重くなった荷上げを2人でどうにかこなして、さらに11P目を登ってロープをフィックス。
大きい方のホールバッグのみを上のこのアンカーまで荷上げして、Lung Ledgeで泊。
初日でHollow Flakeを越えられたら理想的だったけれど、日向での行動時間が長いと水も体力も消耗する。
これはこれで、まともな判断だったのかも。
デキる男に紫外線は大敵

10P目

10月27日 Salathe Wall day2 (Lung Ledge ~ the Alcove)
また3:00に起床。ビバーク装備のパッキング、荷上げとやっていたら、下からやたらと速い2人組が登ってきた。
Jacob CookとTayler Karowだった。
Golden Gateを極力フリーで(核心だけ?)ワンデイで登るとのことで、
Jacob曰く「French Golden Gate、さしずめエッフェルタワーってとこかな」とのこと。
2人には抜いていってもらい、こちらも日が昇る前にHollow Flakeを僕がリードで登った。
最後のスクイズはやっぱりドキドキしたけれど、問題なし。
が、ここの荷上げは案の定時間がかかり、そうしているうちに下からも上からも次々にパーティが来た。
順番を譲ったり待ったりしていると、時間はどんどんと過ぎていった。
渋滞中

13P目(5.7)と14P目(5.10a)をリンクして、且つスタティックロープを引っ張って登ってみたものの、
ギアとロープの重さでやられそうになったので、次からは従来のタグラインを引っ張るやり方に戻した。
ギアも持ちすぎないようにして登るに限る。
この間も他のパーティとのバッティングで終始渋滞が続いた。
それにしても、下から上がってくる人らは皆、身軽だった。ワンデイで行けるだけ行って、地面まで戻るらしい。
律儀に地面から大荷物を上げているパーティーはほとんどいなかった。タイミングの問題?
そしてThe Ear(14P目、5.7+)を抜ける頃には壁の傾斜が増し、荷上げが軽くなってきた。

傾いた日差しの中、Monster Offwidthではなく右のSalathe Original(15P目、C1)に取りつく。
前半の10dのフィストが結構悪かったものの、ここは落ちずにフリーで越え、
それが一気に細く閉じたところからエイドに切り替えた。
2回カムがすっぽ抜けて吹っ飛ばされたものの怪我はなく、慣れないエイドながら徐々に要領を掴んで、
終盤は手持ちのギアで抜けられるのかというヒリヒリした感覚を覚えながら、なんとか登り切った。
ボルトラダーではないエイドは、思えば初めて。新鮮な経験だった。
薄暗くなる中、もう1ピッチ短いワイドを登り、the Alcoveに到着。
荷上げも含めてまた20:00近くまでかかってしまったけれど、完全に貸し切りで快適。
丸1日ユマールとビレイに徹してくれたコミネムに感謝。
荷上げが終わり、まだルートの中間だけれど「いやあ、とりあえずお疲れ!」と握手した。


10月28日 Salathe Wall day3 (the Alcoveにほぼ停滞)
7:00にゆっくり目覚めると、ポータレッジのフライに雨の当たる音。昨夜はこれまでよりも寒かった。
雨は時折みぞれ、あられになって、軽く積もるくらい降った。

雨が止むのと日が当たるを待って、Salathe Originalに上からぶら下がってワークしてみた。
中間部以降のピンスカーはどれも細く、レストポイント直後からずっと悪い。
細切れにムーヴをバラすのにもかなり苦労した。
思えば、疲れと空腹もあったのかもしれない。
最上部まではなんとかムーヴを解決したものの、最後の数メートルは解決できず。
そうこうしているうちにまたみぞれが降り出したので、諦めてユマールでthe Alcoveまで戻った。

ポータレッジの中でみぞれを1時間ほどやり過ごし、また日が当たってきたので、
El Cap Spireよりも上へ2ピッチ分ロープを伸ばした。
El Cap Spireに上がる17P目(5.10a)とその先2ピッチは、ついにコミネムがリード。
Yosemite初リードが、Spire上の11cのシンハンドなんて、羨ましいぞ。
疲れは見えたけれど、スピーディーにOSしていった。流石です。
こちらはフォローで登りたい気持ちをぐっと抑え、明日以降に備えるつもりでユマールとビレイに徹した。
Salathe Originalが登れなかったので、これで今回のゴーアップでのオールフリーの完登はなくなった。
しかし天候などに左右されるじれったさも、今は充実感の方が大きく、悔しさは滲んでこない。
むしろ明日へ向けて燃える気持ちが、静かに大きくなってきた。


10月29日 Salathe Wall day4 (The Alcove ~ Sous le Toit)
5:30起床。パッキングしてポータレッジを畳み、前日に張ったロープをユマールして荷上げ。
Teflon Conerの下に着くころには、南西壁にも日が差し込み始めた。
まずBoulder Problemへのアプローチ的な20P目(5.11c R)を登る。アップなしでかなり緊張したが、ここは問題なし。
それからいよいよ、Boulder Problem(21P目、5.13a)。
壁は日向だったけれどまだ岩は冷たく、若干悴みを覚えるくらいだった。
おかげでホールドはよく持てた。
ビッグウォールの真っただ中とは思えないほど短いピッチで、11前半くらいの導入の後、いきなり核心が来る。
有名な核心のムーヴは、ダブルダイノか「Karate Kick」にするか、現場で決めることにしていた。
少し足が滑ったりしつつキーとなるホールドを持って左を見ると、キックする壁は遥か遠くに見えた。
一瞬でムーヴを決め、コミネムに「跳ぶ!」と一声かけて、次の瞬間にはダブルダイノを止めていた。
そのまま最後の短いフェースを登って、アンカーに這い上がった。なんとFLできた。
5.13のOSもFLも初めてのことで、ここでその時がくるとは、とびっくりした。
ひとしきり興奮した後、ロープをフィックスしてTelfonの下のレッジまで戻り、荷上げ。
続くthe Sower(22P目、5.10d)をコミネムが登って、the Blockに上がった。
the Sower

ここで小休止して、次の23P目(5.10c)もコミネムがリード。
このピッチはルートファインディングが難しく、叩くと嫌な音がするフレークを微妙なプロテクションで登っていった。
悪そうにしているので、「ライン合ってるー?」と声をかけると、「残念ながら合ってるみたい!」と返ってきた。
一部エイドも交えつつ、コミネムがSous le Toitまで抜け、僕がフォローして、荷上げ。
今日は暗くなる前に行動を終わった。
Sous le Toitは狭く、ポータレッジを建てるのに四苦八苦したものの、建ててしまえば快適。
つくづく、このポータレッジをクロヒゲさんから借りられて助かっている。
明日はついに、ヘッドウォールに上がる。
憧れてきた壁と対面する怖さもあるが、まだ折れるわけにはいかない。



10月30日 Salathe Wall day4 (Sous le Toit ~ Head Wall下)
5:30起きで準備をしていると、まだ日が当たる前のHead Wallを、ヨドガワ・ヨシダペアが下降してきた。
荒天を挟んで貸し切りだった壁で、最初に会うのが日本人の知り合いという。ここは瑞牆か。
しばらく談笑した後、2人はBoulder Problemを目指して下りていった。
しかし寒さで固まった体は思うように動かず、Enduro Cornerの前半(24P目、5.11c)をコミネム、後半(25P目、5.12b)で僕がそれぞれやられた。
お互いにテン山になりながらどうにかムーヴを解決して、やっと抜けた。
ムーヴはできても、それを繋げる力が出せなかった。

the Roof(26P目、5.12a)の下にポータレッジを組んだまま持ち上げ、しばらく中で休んでいると、
体が冷えたからか動くのが億劫になり、弱気を起こしそうになってきた。
そこでコミネムが「the Roof、やっていい?」と言うので、危うく譲りかけた。実際「いいよー」と言ったかもしれない。
そうは言いつつ疲れと不安がコミネムにもあったようで、結局は予定どおり僕がリードすることになった。
空元気と少し差した日光で温まった体でエンジンを回して登り、ヨレを感じつつギリギリOS。
緊張したけれど、とにかく登れてよかった。


あとはルーフの縁まですべての荷物を持ち上げて、Head Wallを見上げながらここで泊。
ポータレッジの下は、完全に空間だった。
Head Wallは美しい。しかし、どうにも寒すぎる。
暑すぎる日から一転して、寒すぎる風の強い日がやってきて、体はダメージを確実に受けていた。
明日、Head Wallのクラックに手を、指を入れて、何が感じられるか。
体力的にも寒さ的にも、正念場だ。