2021年7月19日月曜日

梅雨明け

梅雨が明けました。ありがたいですね。
しかしその分、「殺す気か」というくらいの暑さ。ありがたくないですね。

梅雨明けを跨ぐような形で、相も変わらず奥秩父に逃げ込んでいる。
先週も今週も、やっと天気が安定して、久しぶりに土日とも外で登れた。

先週土曜は小川山で、乾きのいいゴジラ岩へ。
前日まで雨だったけれど、ここの乾きはさすが小川山イチ。パリパリだった。
火星人のスラブやゴジラのマーチ(5.11b)を快適に登って、
この日の目標にしていたちゃびんば(5.13a)はOSを逃して2回目でゲット。
分かってしまうとムーヴは明瞭だったけれど、さすがにこの岩質でチョーク跡なしはきつい。
ともかく、この短さのわりにパンピーで、満遍なく難しいいいルートだった。

翌日曜日は、「マルチに行きたいね」ということで不動沢の前烏帽子岩へ。
何度目かの新緑荒野(5.11c)を、例によって1P目を脇からショートカットして登った。
メインになるピッチはこのルートが初のあさこさんがリードして、こちらはその合間だけリード。
すっかり気を抜いていたら、上段の10aのワイドで落ちかけた。
こういうクラックは特に、しばらくやらないと一気に分からなくなる。やばいな。
最終ピッチ、頂上にマントルしようとしたらデカい蛇が日光浴していて、目が合った。
数年ぶりに大きな蛇を見た驚きで、1オクターブ高い声が出た、かも。


この週末は、土日とも十一面岩で登った。とにかく二日ともよく晴れ、ひたすら暑かった。
土曜日は「どこに行こうか」と話していて、偶然思いついた、あおろら徘徊記(5.11d 5P)へ。
瑞牆本には載っておらず、関東周辺の岩場(通称、ガメラ本)にちょろっとだけ書いていあったルートで、
自分でもどうしてこのタイミングで思い出したか分からないのだけど、行ってみたくなった。
ルートの所在は十一面岩奥壁、ということになるが、厳密にはその隣に立つ通称ヒメヤスリ岩だ。
十一面正面壁と奥壁の間に立つ小さめのタワー、といえば分かりやすいだろうか。
情報は少ないけれど、なかなかにいいルートだったので、少し詳しく書く。

ルートの取り付きはシロクマのコルの対面。ルンゼ状で、意外と分かりやすかった。
1P目:すごく短いオフウィズス(5.8)。カムは小さいものだけで十分。
2P目:ルート全体の核心となる、スラブ~特徴的なグルーヴの長いピッチ(5.11d)。
ここはグルーヴに入る前がまず結構繊細で、その後のグルーヴもジャムがほぼ効かず悪かった。
初登者のブログには「袈裟固め無限ひざロック」と書かれていた。袈裟固めって、どんなだっけ?
かなりしんどかったけれど、なんとかOS。
3P目:スラブからダイクトラバースで、短いけれど高度感があって爽快(5.9)。
4P目:ボルト2本の、相当みじかしいスラブ(5.11b)。
出だしから2本目のボルトにクリップするまでがとにかく悪い。3級のボルダーくらいか。
しかもボルトの感覚はかなり近い。その後はランナウト。
それだけでもう、最初の数手数歩が悪いことが分かっていただけるでありましょう。
こういう出だしが悪いスラブ系って、他にも何本かあったような...
4.5P目:4P目終了点から5P目取り付きまでの歩き。ヒメヤスリのタワー部分を右へ回り込む。
5P目:ヒメヤスリ北面(北東面?)に切れ込んだ短いクラック(5.9)。
ジャムの効きもカムの効きも良く、傾斜はあるけれどスタンスもあるのでかなり快適。
先にリードしたあさこさん曰く、「ここまで来た人へのご褒美的なピッチ」。
ロワーダウンできるので、交代でパーティー全員リードするのがおすすめ。
地上にあったら人気ルートになりそう。

こんな感じで、知名度は低いものの、「こんなのがまだあったのか」と思わせるルートだった。
写真、ルート詳細は初登者のブログを参照のこと。

日曜日は、前日北アルプスに登ってきたらしいオカモチくんと。
最近下半身強化のためか、スポーツジムに通っているとか、いないとか。
しかし初めて歩く十一面までのアプローチは辛そうだった。がんばれ。
ベルジュエールでも登ろうかと思って行ったけれど、大渋滞が起きていたのでやめ。
なんやかんや予定を変更して、山賊79黄昏ルート(5.10d 4P)を登った。
宴会テラスよりも下の前半部分はあまり登られていないらしく、それも納得の渋さだった。
2P目のスラブ(5.10d)はまたも出だしがやたらと悪い系で、ラインを読み違えて落ちた。
宴会テラスからは快適だった。

十一面岩周辺の賑わい方は、5年前くらいには想像もしなかったくらいのもので、
登りながら辺りを見渡すと、視界に10人くらい入る。
なにやらCRACK CLIMBINGの売れ行きも好調のようだし、時代が変わったということなのだろうか。

2021年7月13日火曜日

CRACK CLIMBING by Pete Whittaker (訳者あとがきにかえて)

2020年春。療養中で、その後の身の振り方もなにも決めていなかった頃、僕は1冊の本を手にした。
ワイドボーイズのひとりであるピート・ウィタカーの『CRACK CLIMBING』。
いつこの本のことを知ったのかは思い出せないが、時間を持て余し気味だった僕は、とにかくこの本を読んでみたくなり、取り寄せた。
あらゆるサイズの最難クラスのクラックを登る世界最高のクラッククライマーであり、
かれこれ10年以上も僕の憧れの人であるピートが書いた本だ。
これが自分の糧にならないはずはない。
念願の本がやっと手もとに届き、ページを興奮気味に捲りながら、ふと思いついた。
「これを翻訳して、日本語版を書けないだろうか」
英国版と北米版があり、僕が買ったのは北米版だった


初めは完全に個人の趣味だった。
いまし監督の映像作品の英語字幕を担当させてもらったときにはやりがいとある種の手ごたえを感じたし、
本職の翻訳家さんには遠く及ばないまでも、クラックの心得がある自分だからこそ、訳してみたい。
そんな妙な自負と自己満足で始めたものの、やはり人間、もう少し欲が出てくる。
「訳すからには、どうにか形にならないだろうか」
決して多いとはいえないツテを頼り、話を聞いてもらったところ、幸運にも山と渓谷社から出版のチャンスをいただくことができた。

ヤマケイ編集部とのつながりができ、一緒に本を作っていただくことが決まっても、世の中はコロナ禍真っ最中。
携わっている他の誰かに実際に会うことはなく、翻訳作業は常に実家の自室で孤独にしていた。
好きな映画のサウンドトラックを聴きながらやっていたので、
もはやそれを聞くと映画のシーンではなく特定のジャムの解説が思い浮かぶ、ような気もする。



この本について、ひとつきっぱりと断っておくことがある。
それは、この本はいわゆる「読み物」ではない、ということだ。
専門的な技術書であり、そのため内容は全体的に硬く、情報量も多い。
訳者としてこう書くべきではないかもしれないが、決して「すらすら読める本」ではないと思う。
しかしそれは、ジャミングというクライマーそれぞれの感覚頼みだった技術を、
理解可能なコトバに落とし込んで伝えるということに著者が真っ向から取り組んだ証だ。
その途方もない挑戦に妥協なしで挑んだ筆者の気持ちが滲む原文を、できるだけ忠実に日本語で伝えるということを、今回は優先したつもりだ。

本文中に書かれたこの本の使い方を、ここで掻い摘んで紹介しておく。
1.ガイドブックとして読む。(自分が必要な内容を探して読む)
2.書かれている内容を真似てみる。(動きの解説を、実際に順を追ってやってみる)
この二つが、ピートからの提案だ。僕としても同感だ。
内容的にすべてに通じる第1章をまず読んで、それから各章の自分が特に必要な部分を選んで読み込むことをオススメする。



ロクスノに掲載された書評のためのインタビューを機に、筆者であるピート本人とのつながりもできた。
まだ出版が決まっていなかった頃、「翻訳版をだせたらいいなと思ってる」とメールを送ると、
「それはいいね、こっちは問題ないから是非やってほしい」との答えが返ってきた。
その後も解説の更に突っ込んだ部分や、細かな言葉遣いなどについて質問をすると、すぐに丁寧な返事をくれた。
面識はなくても、彼の親切で几帳面な性格が伝わってきて、とても嬉しかったのを覚えている。

第一稿を編集部に送った後は、校正が待っていた。
ここではイギリス在住のSさんに非常に大きなお力添えをいただいた。
大小さまざまな誤訳の指摘から細かなニュアンスの調整、内容的な指摘まで、
とにかくビッシリと赤が入った原稿が返ってきて、自分の勉強不足と読み込みの甘さを痛感したものだ。
この本を翻訳して世に出すことにも、とても前向きな励ましの言葉をいただいた。

技術的な考証はある程度自分でやっていったものの、経験の少ないワイド、さらにはルーフクラックについてはお手上げだった。
ということで、これはYさんとM師匠にお願いした。
お二人とも快く引き受けてくださり、僕としては命拾いしたような気持ちだった。
実際、この2章は全体の1/5以上の文量があり、いちばん難しいところだった。
日本を代表する2人のワイドクライマーがここに携わっていることも、お忘れなく。

出版のチャンスをいただくところから今日まで、
山と渓谷社の編集部の方々にはお忙しい中、非常に長い時間をかけてご協力をいただいた。
特にこの企画の始まりからすべての橋渡しをしていただき、
さらに校正では言葉遣いに限らず細かな内容、読みやすさという点に至るまで、
粘り強くご尽力いただいたOさんには、感謝の言葉もない。
今後もこの本が必要とする人のもとに届くまで、引き続きよろしくお願いします。


初めは素人の独りよがりにすぎなかったものが、本当にたくさんの人の協力を得て、こうして形になった。
自分の憧れのクライマーと、本を書くという冒険の一端を共有できたことは本当に光栄だった。
そしてそれを支えていただいた方々には、心から感謝を。
本当にありがとうございました。


ピートは謝辞で「ケーキとドーナッツをご馳走する」と書いていた。
僕はなにをご馳走しようか。ゆっくり考えておくので、どうぞお声がけください。