2022年7月19日火曜日

梅雨明けず

梅雨明け宣言が出てから思い出したように雨が続く。
そんなにアピールしなくても、存在を忘れたりしませんって。

北海道から帰った次の週末は、1日だけ瑞牆で登った。
いい加減苦手意識を払拭していきたかったので、摩天岩でワイドを登ることに。
誰かいるかなと思ったら、この日は誰もいなくて貸し切り。
おかげで快適に登れた。

まずは、その昔大ザルに薦められた電光クラック(5.9)を2P繋げて登った。
途中の木で切って2ピッチというのがオリジナルだけれど、繋げてもロープの流れ等は問題なし。
40mの充実したルートになって楽しい。それにそこそこ難しかった。
次にずっと登ってみたかった陽炎(5.10c 3P)の1P目をすごく頑張ってOS。
これは、あの唯一無二な美しい形状のクラックを登れるというだけで、もう名作。
実際の内容も、フィンガーからチムニー登りまであらゆるタイプのジャムが出てきて秀逸。
後日大ザルに「どっち向きで登った?」と確認したら、同じ向きだったのでちょっと安心した。

最後に、摩天岩と言えば誰もが一度は登るだろうかぜひき(5.10a)。
誰もがと書いた割には、実を言うと、僕はこのルートをリードしたことがなかった。
ワイドクラック初体験はこのルートだったが、その時はトップロープ。
その後登った時も大ザルのフォローで、知らぬ間に因縁のルートと化していた。
で、いざ登り始めるとやはり苦しかった。
多少肩で息をしながら抜けて、とりあえず因縁には決着がついた。
昔トップロープで地獄を見た時よりも、体が明らかに入らなかった。
着る服が大きくなったのだということにしよう。


この週末は伊那エッジでしこたま登ってヨレヨレになり、次の日は大ザルの探検に付き合った。
「ピーターパンシンドロームに付き合ってくれ」としばらく前に言われて、「???」となった。
いかにもありそうな名前だが、どこにあるのかさっぱり分からない。
場所を聞くと本峰周辺らしい。
瑞牆本を開いてみると、たしかにルートの名前と図だけは載っていた。
内容やアプローチの解説はおろか、使用ギアも不明。
挙句、1P目のグレードも書いていない。なんじゃこりゃ。

天気はもちそうだったので、瑞牆山荘から登山道を歩いて行ってみることになった。
この道を歩いて登るのは、もしかすると大ヤスリや天鳥岩を開拓したころ以来か。
大ヤスリの直下からトラバースして、鋸岩との間の枯れ沢の手前くらいから上を見てみる。
が、鬱蒼としすぎていて岩がろくに見えない。
瑞牆本のルート図を頼りに探して、なんとかそれらしい岩を発見。
明らかに自然に還っていて心配だったけれど、登ることにした。
取りつき

じゃんけんに勝った大ザルが1P目をリード...と、出だしからいきなり足が滑って落ちた。
苔なのか木の根なのか土なのかよく分からんものが岩を覆っていて、シューズが云々という話ではない。
仕切りなおして、灌木を引っ掴んで「ヤバい!ヤバい!」と言いながらなんとか登っていった。
フォローの僕も、このドロドロの出だしで滑ってあわや落ちかけた。
もはや、フリークライミングではない。

2P目以降は自然に還っているとはいえそこそこきちんとフリークライミングだった。
4P目(とぽの表記では3P目)を登ってピナクルの上に立ち、
上部岸壁に向けてさあ下降だと思ったら、今度は支点になるものが見当たらない。
仕方なく、丸くて大きすぎる岩を巻いてラッペルした。
摩擦がすごくてなかなかロープが動かなかったけれど、2人がかりで何とか抜いた。
5P目でまたドロドロでワイルドなワイドを登り、広くてそこそこ迫力のあるチムニーを抜け、
6P目はボルダーが折り重なったリッジ上をワイドを交えて登り、
最後の7P目がムーヴ的には一番難しかった。
と言っても、5.9の乗越しだったけれど。
とにかく、イワタケに飲み込まれそうなコーナークラックを登って岩の頭に出た。
瑞牆山の山頂とは会話ができそうなくらい近い。でも、初めて見る景色だった。

右端に見えるのは天鳥岩の頭

1ピッチだけラッペルして、少し歩くとすぐに山頂直下の登山道に出た。
あとは登山道を下って荷物のところに戻り、下山。

これまで瑞牆山で登ったうちで5本の指に入るくらいワイルドで泥まみれのクライミングだった。
内容だけ見ればそこそこのルートで、各ピッチの長さもあるし、
近場にあればそれなりの人気ルートになったのかもしれない。
が、あえてもう一度登りに行こうとは思わない。
ただ、諸々を差し引いても、初めての岩に登るのはそれだけで魅力的だ。
それに、この岩峰にあるルートはピーターパンシンドロームだけ。
独り占めと思えば悪くない。

帰りに、登山道から大ヤスリと天鳥岩を眺めて思うことがあった。
「あの頃の自分も、頑張っていたんだな」ということだ。
大ヤスリが13年前、天鳥岩が11年前になる。
あの頃はそれらの岩をフリーで登ったことについて、
「いいルートができた」くらいの感想しか持っていなかった。
今改めてそれらの岩を目の前にしてみて、その真価が分かった気がする。
そこにあるその岩を初めてフリーで登ったということが、果たしてどんな意味を持つのか。
この歳まで続けてきたからこそ、分かったのかもしれない。

あの頃の自分に恥ずかしくないクライミングをしていたいものだと思う。


2022年7月15日金曜日

北海道 その2

6月29日(水) 上川~名寄
前日の夜から警報が出るレベルの雨が降った。雨になっても止まず。
石狩川はまっ茶色だった。
この日はレスト日兼移動日。
上川から比布まで出て、和寒、剣淵、士別、名寄へと北上。
途中、いくつも道の駅に寄った。これも旅の楽しみのひとつ
「絵本の里・けんぶち」
「羊のまち 侍・士別」
「もち米の里☆なよろ」
どれも個性があっていい。
見たことないタイプの顔出しパネル

もち米の里で食べた生大福(しかもバイキング)と、おいなりさんが美味しかった。
洗濯等を済ませた後、温泉に入りに行ったらなんと休館中。
仕方がないのでさらに北の美深まで足を延ばした。
ここはチョウザメの養殖をしているらしく土産物にキャビアが売っていた。
当然、高くて買えず。

名寄に戻り、見晴岩のアプローチを確認しに行った。
と、林道のカーブを曲がったところに巨大な茶色い毛むくじゃらがいた。
道の真ん中に座って何かしていたらしい。
異様に大きなストライドで走って逃げていった。
「本当にいるんやな」と、森に入るのが一気に怖くなった。

6月30日(木) 見晴岩
見晴岩は、日本100岩場の記述によると日本最北端の岩場らしい。
層雲峡が今回の旅のメインだったわけだが、ここにも来てみたかった。
理由は単に、「景色が良さそうだから」。

前日ヒグマを目撃してしまったので、大声で話しながらアプローチ。
林道のゲートの手前から歩いたのでそこそこ距離があった。
アップで森のカバさん(5.10a)、私が好きだ(5.11a)、アンジェラ(5.11c)を登り、
長くて見栄えのするサンピラー(5.12b/c)もOSしていい気分。
前日までの雨の湿気が残り、ところによっては染み出しがあったものの、天気はよかった。
ルートの終了点からの眺めも素晴らしかった(写真は撮れず)。

アップが十分にできたので、本題の月の石(5.12d)。
クラックからの染み出しが少し気になったが、ホールドのかかりは良さそうなのでOSを狙ってみた。
岩場の看板ルートということでチョーク跡はべったり、ヌンチャクも残っていた。
中間までは問題なし、軽くレストしてからどんどん傾斜が増し、
登るにつれて悪くなるホールドとムーヴに追い込まれる典型的持久系ルート。
かなりパンプして核心の最後は危なかったけれど、美味しくOSできた。

あさこさんもオオカミの桃(5.11d/12a)を登って嬉しそうだった。

その後シェ・マリア(5.12b)、モグラの穴(5.11a)を登って、クマが怖いので早めに撤収。
夕飯、和寒の銭湯と寄り道しつつ、上川まで戻った。

7月1日(金) 層雲峡
この日もあさこさんのロングナイトに付き合った。
蝦夷生...をフォローして、あとはトップロープのビレイ。
パートナーが頑張っているとこちらもあれこれと口を出したくなってしまうが、
実際どれだけ口を出していいものか悩ましい。

夕方、早めの時間に撤収して別のエリアにあるベスピュラ(5.11)をやりに行った。
が、ローカルの方に聞いたアプローチの入り口が分からず、
迷って駐車場の周りの藪っぽいところをうろうろしていると、また出会ってしまった。
今度は、10メートルほど向こうの木の陰にいた。
前回よりも近い。そしてこちらは丸腰。
体の毛が逆立つ感じがした。咄嗟に、思っているよりも大きな声を出してしまった。
幸い向こうが先に気づいたようで、のっそりのっそり山の方へ消えていった。
無事なのはよかったが、いざというときに自分がこんなにも取り乱すのかと、かなり決まりが悪かった。
当然ベスピュラは諦めた。

後で調べたところ、出くわしてしまったときに大声を出すのは禁物とのこと。
手を大きく振りながら穏やかに話しかけ、こちらが人間であることをアピールするらしい。


7月2日(土) 層雲峡
クライミングは最終日。この日もあさこさんのロングナイトに付き合った。
トップロープで2トライして、最後は今回のツアーで一番スムーズに繋がっていたが、
ノーテンで抜けることはできず。
またいつぞやのように逆転満塁ホームランを打ってくれると期待していた自分がいた。
いずれまた来るときのために、できることをしようとも思った。

紅葉谷へ移動して龍樹(5.11d)などを登りたかったけれど、行ってみるとびしょ濡れ。
それなら仕方がないので、早めに下山して旭川まで戻った。

7月3日(日) 旭川→札幌→千歳→成田
帰る日。
飛行機は夕方の便なので、下道でゆっくり札幌方面へ。
旅の途中で買ったボンゴ豆なるおつまみがとにかくウマいので、
セイコーマートを見つけるたびに立ち寄って買い占めた。
札幌では秀岳荘に寄ったり海鮮丼を食べたりして、
道の駅にもあちこち寄って千歳を目指した。
これまた妙な顔出しパネル(なぜそこに顔を出すのか)

レンタカーを返し、空港でまた預入荷物の超過料金をたんまり取られて、フライト。
成田に着くと、空気が違った。こちらはやっぱり日本の夏だった。
眠気をこらえつつ、家まで帰り着いた。お疲れさまでした。

北海道 その1

6月の終わりに、1週間ほど北海道へ行ってきました。
帰ってきたら本州はすでに梅雨明け、そして猛暑。
初めて北の大地へ行ったわけですが、やはり気候が違う。

6月25日 成田→千歳→旭川→上川
朝4時に自宅を出て、車で成田へ。
空港周りに停めると高いので、京成成田駅に車を置いて電車で空港へ。
そういえば国内線に乗るのは初めてだった。
預入れの荷物は当然のごとく超過料金。2人で10000円超え。チーン。

新千歳空港に着き、レンタカーを借りて一路旭川方面へ。
旭川で買い物をしつつ、さらに北上して大雪山系を眺めつつ上川、層雲峡を目指した。
層雲峡に着いてしばらくアプローチを探してウロウロ。
無事に入り口を見つけて、目当ての天狗の挽き臼を偵察に行った。
対岸からも例のコーナーが見える

取りつきにアートな木が

ぬかるみ気味なアプローチとフィックスを登った先に、
蝦夷生艶気蒲焼(5.10a)とロングナイトがあった。

あとは上川に戻って買い出しと風呂。
夕食で入ったあさひ食堂の味噌ラーメンが非常に美味。
ここしばらく食べたうちで断トツ一位の味噌。

6月26日 層雲峡
朝1時間寝坊しつつ、天狗の挽き臼へ。
来る人は少ないかと勝手に思っていたら、先客がいた。
ということでスタートはゆっくりになった。
先に来ていた二人組は地元の方だったようで、層雲峡の情報をいろいろともらった。
ありがとうございます。
蝦夷生...はじゃんけんに勝ったあさこさんが先にOSして、交代して僕も一撃。
35メートルの充実したルートだった。これがもっと近くにあればいいのに。

昼を挟んで先客二人組が帰っていった頃、旅のメインであるロングナイトにトライ。
中間部のレストポイントまで、まずは安定して抜けた。ここまでで5.11-くらい。
その上がいかにも嫌なサイズで、かなり長く見えた。
どう考えてもここからの数メートルが核心だろう。
しかしここ最近のリードでの追い込みが功を奏したのか、あまり躊躇うことなく突入。
イマイチなフィンガーロックでだましだまし、そこまでの半分くらいのペースでゆっくり登った。
一手ずつジャムの効きが悪くなり、パンプの度合いも増してくる。
それでも、気持ちはただ上へと向かっていて、クリップがギリギリになっても挫けることはなかった。
核心の終わりで決めたマスターカムは少し開き気味だったけれど、それも気にならない。
最上部でクラックが細くなり、ジャムの効きも良くなって、
しかしいつ落ちてもおかしくないくらいにパンプしていた。
少し声が漏れ出すと、あとは叫ぶしかなかった。叫びに叫んで、最後のガバまで逃げ切った。
これまでのクライミング歴でも指折りの、会心のオンサイトだった。

杉野さんには長くお世話になったようで、実際にお会いできたのは数回だけだった。
瑞牆本の撮影で何度かロープを結ぶことになるまで、岩場ですれ違う程度だったと思う。
初めて一緒に登ったのは、初登以降トライした噂すら聞かない自由登攀旅行だった。
あの日、3ピッチ目で僕がどうにかこうにかムーヴをこなして抜けた後に、
杉野さんは「やってみていい?」とだけ聞いてロープを引き抜いた。
そして、3ピッチ目を一撃してしまった。
ピッチの後半は、ビレイしている僕からは見えなくなってしまったけれど、
直前にトライしてその難しさを思い知らされた僕は、唖然とするしかなかった。
さらに翌日は、バベルの塔での撮影。
僕がロプロスを登り肩で息をしているのを横目に、杉野さんはポセイドン、ロプロス、ロデムをすべて一撃して、
「午後は仕事があるから」と言って颯爽と帰っていってしまった。

終了点にクリップして、「ウソだろ!?」と繰り返した。
まさかオンサイトできるとは。狙う気持ちは当然あったとはいえ、本当にできてしまった。
杉野さんはどこかで笑っていたのだろうか。

Old But Goldに大いに影響を受けて育ってきた僕としては、このルートは特別だった。
特別ではあったけれど、遠くにありすぎて登りに行こうと考えたこともなかった。
しかしそれはそれでもよかったのかもしれない。
クラックをそれなりに登れるようになった今、こうして勝負することができたのだから。


6月27日 旭川
雨のため、旭川方面で観光など。
道の駅をめぐり、アイヌの資料館へも行った。
「北海道といえばスープカレー」と言って入ったお店で、2人とも頼んだのはルーカレーだった。
午後は神居古潭で神居岩を見学。
国内最初の5.14であるシュピネイターはここにある。
短く、被っていて、悪そうだった。湿気も凄かった。

6月28日(火) 層雲峡
日曜日に出会ったローカルの方にもらった情報を頼りに、紅葉谷のエリアを見に行ってから挽臼へ。
この日の天気は下り坂だった。
蝦夷生...を登ってロングナイトにトップロープを張り、あさこさんがトライ。
こちらはビレイに徹した。
2回トライしたところで小雨が降りだして撤収。