2022年3月31日木曜日

去る

年度末の忙しさを表して『一月は行く、二月は逃げる、三月は去る』と言いますが、
正直なところ今の生活では年度末だなんだというのはあまり感じません。
それはそうと、四月は四月で忙しいはずなのに、なにかないのか。
四月は...し...し...消滅?

去ると言われる月の後半は三寒四温で、それに合わせてあちこち行った。

まずあさこさんと太刀岡へ。実は今シーズン2回あまりの寒さに敗退していて、三度目の正直。
地元にいたころも比較的近い岩場だったはずなのに、登るのは今回が初めてだった。
ハッピーバースデー(5.11a)周辺でアップして、カリスマ(5.13a)のOSを狙ってみた。
しばらく前からちょくちょく狙っている13のOS。
残念ながら今回は、いや今回も、OSはできず。最後のボルト手前でスリップして落ちた。
ちょうどクリップしようとしていたので、当然手繰り落ち。久しぶりにやった。
危ないことしたなぁ、と反省しつつムーヴをバラして抜け、2回目でRP。
人工壁のような、と言うと失礼(?)だけれど、中間から最後までずっと同じくらいの強度が続く、
なんだかセッターが作ったような構成の名作だった。
こういうルートこそOSしたかった。残念。
あさこさんのカリスマの合間に、次の目標としてスティングレイ(5.13b)もトライした。
こちらはカリスマと打って変わってかなり明確な核心があるタイプ。
大レストの後に初段のボルダーをこなして11前半を登る、という感じ。
こちらも一応OSを狙ったものの核心であっけなくやられ、3回目でRPした。
ジャンボさんはこれをオールナチュラルで登ったとのこと。流石です。

先週末は天気が微妙で、日曜日だけ野猿谷で登った。
前日が結構な雨だったので、岩はかなり濡れていて、必然的に日向でまったりムード。
エリア5で易しい課題と首提灯(初段)を登って、
行き会った知人夫妻から勧められた蝌蚪(5級)が面白かったので、隙間産業に移行することに。
野猿谷に多い隙間産業、もといハサマリング課題は、これまでなにかと言い訳をして避けていた。
が、そろそろワイドへの苦手意識も克服していきたいし、いい修行ということで。
下流のエリア1にいい課題があるというので夫妻について行くと、
石舞台の上にいかにも乾きが良さそうな隙間があった。
ダイアナ(初段)

ハサマリング課題の多くは、言ってみれば岩の隙間を使ったトラバース。
岩の上に立って見下ろすと、ダイアナの移動距離は両手を広げた長さよりも短い。
が、たったそれだけの距離を移動するために、一度下ったり反転したり、かなりいろいろさせられる。
一撃できるはずもなく、全員であーだこーだとセッション。
これが普通の課題ではありえない異様な盛り上がりを見せた。
自分で「これだ!」と豪語したムーヴでは結局できず、
最後はあさこさんが見つけたムーヴを真似てギリギリ登れた。
かなり苦しめられたが、同時にものすごく勉強になった。
なによりこれは面白い。面白いぞ。早くもハマり気味。
真剣ですが、とにかく低かった

2022年3月17日木曜日

大移動

花粉症がひどくなってきた。毎年この時期は登りに行くのが少し辛くなる。

先週末はよくよく走った。
土曜日に群馬の方へ出かけて登り、夕方から南下して城ケ崎まで行った。日曜日はそのまま城ケ崎。
走りながら途中で「我ながらえらくお金も時間もかかることをしてるな」と思ったが、
こういうのは冷静になってしまってはいけない。

土曜日、単身群馬のボルダーへ。
実は先月、ふらりと岩を見に行ったことがあったが、その時は雪の下だった。
今年は例年よりも遅くまで雪が降っているので、3割くらいは賭けの気持ちで出かけた。
結果、雪は日陰にちょっとある程度だったので一日問題なく登れた。

まず行ったのは榛名。有名な黒岩の下に金剛岩というボルダーがある。
課題の情報はなんとなくだったけれど、とりあえずアップそこそこに千丈直上(初段)。
核心のガストンが思ったよりも悪くハマりかけて、危なっかしく登れた。
続いて金剛(三段)。これは実質三手で結構保持系。
スタートのカチで皮をゴリゴリ削られて即テーピング。
微妙な保持感のホールドで動いていくポジションが分かったらムーヴがバラせて、繋げ数回で登った。
左が金剛、右が千丈

その後呪文(二段)もちょっとハマりつつ登って、最後に無名のハイボール(1級)も登った。
高さにビビらなければ少し易しい気もするけれど、内容は良かった。

これで一先ずここでやりたい課題は終わったので、思い切って赤城へ移動。
下道で1時間半くらい。日が長くなるとこういう大胆な移動もできる。
赤城は以前偵察に来た時に、林道が凍っていて危うく事故りかけた。今回は快適に行き着いた。
ここは比較的小粒なボルダーがごろごろとあるけれど、最初から本題の凹面岩へ。
下地は狭いが、まあなんとかなりそうなので、まず土木(二段)。
これがどうにも難しい。それらしいムーヴすら見つかってこない。
中間部までは解決したものの、そこからリップへ出るあたりが解決できず。
時間も無くなってきたので、途中で切り替えて右上に抜けるオーメン(四段)も触る。
こっちはムーヴが一目瞭然で、潔い遠さのランジが後半に出てくる。
下地のこともあって結構怖かったものの、落下地点が読みやすいのでマットが少なくても大丈夫。
あとは信じて跳ぶのみ。これもそれほど簡単ではなく、指の皮もダレてきた。
ラスト5回と決めて集中してトライすると、最後のトライでランジの飛距離が伸びて止まった。
後は易しいトップアウトをこなして登れた。
金剛と同じか、少し難しいくらいかな。伊舎那天よりは登りやすいかも。
そんなことよりも、これはかなりの名作だった。
びょーん

17時前に撤収して、あとは関越~圏央道をひた走り、夜中に城ケ崎にたどり着いた。
5時間走って流石に疲れた。そう軽い気持ちでやるものじゃない。


日曜日はDJ合成ゴムの誘いでもずがねのスカラップ(5.12d/13a)をやりに行った。
お馴染みOBGの第1回を飾ったルートで、当時の国内最難だった一本。
OBG読者としてはこれを素通りするわけにはいかない。
が、とにかくもうシーズンは終わり。日差しは暑すぎるし、クラックの中はジメジメ。
DJの奮闘を見届けてから一応フラッシュを狙ったものの、これは全くダメ。
そのままちまちまとカムをずらしつつギリギリムーヴを作って抜けた。
これだけで既に体はあちこち痛くてヨレヨレになった。ホタテ貝恐るべし。
この日は先に来ていたパーティーと、DJと僕の二人、さらに遅れて参戦したセカキタさんで計4人の大混雑。
この手のルートに人だかりができるのは珍しい、のだろう。
集まったメンバーであーでもないこーでもないとムーヴを話し合い、大いに盛り上がった。
リードのルートでこれだけセッション(?)が盛り上がったのは初めて。
そのセッション効果と、日が傾いて吹き始めた風のおかげでルートの状態が良くなり、
2回目のトライで一応、ピンクポイントすることができた。
ムーヴのイメージが湧くだけでもここまで違うものか。
短い中にも相当な内容が詰まっていて、難解なムーヴが分かった時の感覚は素晴らしかった。
実際にはかなり必死の形相で登っていたはずだけど。
腹筋運動中のDJ

結局この日はそれ以降、自分にリードのトライする順番は回ってこず、宿題になった。
この手のひっくり返るクライミングの世界に入門できただけでも御の字と思いたいが、
レッドポイントできなかったことは正直言って悔しい。
流石に時期が悪くなってしまったので、これはまた次のシーズンになりそう。
その時は、隣の秘奥義(5.13b)も併せて回収してしまいたいところ。

2日間での移動距離、交通費、それに内容の振れ幅もそこそこあったが、
これはこれで自分らしくて悪くないな、と思う。

2022年3月7日月曜日

5 + 4 =

デイドリームに通ううちに、春がやってきている。

デイドリームの予備日と思って取った有給を持て余すのは勿体ないので、
先週の金曜日は三峰に行ってみた。
高校生のとき以来だったので、実に15年近く経ったことになる。

当日寝坊したり道に迷ったりして、着いたのは昼前。
しかも駐車場で昼食を買い忘れたことに気づき、最寄りのコンビニまで往復。なにやってんだか。
エリアに下りていくと、すでにガンガン日が当たっていて暑い。
デイドリームのアプローチでツララが垂れていたのが嘘のよう。

本題は決めていたので、ひとまずアップで草餅岩周辺の課題を登りなおす。
ペタシにはハマりかけた。岩が傾く前は、いったいどれだけ難しかったのだろうか。
アップの仕上げにとトライしたさかり(二段)はヌメりに泣かされ、
対岸の木立の向こうに日が隠れたころにやっと登れた。
SDの三段は、まあ見なかったことにする。

で、本題の伊舎那天(四段)。
ひも(三段)はあっさりリピートできたので、気をよくしてスタートに座ると、
合流までが思ったよりもずっとハードだと思い知らされた。
1手ずつはそれほど悪くないのに、つなげるとどこかしらで足が滑る。
下部の精度が上がらず、一度だけひもに合流できたものの、核心で案の定やられた。
それからは足が滑り続け、ヨレヨレになって終了。
帰りがけ、苦し紛れに無名の三段もやってみたところ、こっちもできず。

伊舎那天が登れなかったのが妙に悔しかったので、今週も三峰へ。
日が当たるとどうしようもなくなることが分かったので、午前中だけと決めて出発。
8時過ぎに駐車場に着くと、もうかなり埋まっていた。皆さん早起き。
また草餅岩周辺でアップして、さっさと伊舎那天へ。
ひもにトライする人がどんどん増えてきたので、トライのペースはゆっくりに。
少しムーヴを変えたことで下部の精度が格段に上がり、あとは通すだけになったけれど、
もう少しするとひものあたりにも木漏れ日が差してきた。
やばい、これは残り数回だぞ。
繋げるとやはりひもの核心が難しくなる。ここでもまた足が滑り続ける。
よくよく考えて、つま先で乗る位置をきちんと狙うという基本的なことを大事にしたら、
そのトライでひもの核心が止まり、そのまま危なっかしく押し切った。
前回これができていれば理想的だったけれど、これは嬉しいぞ。
ところでひもに生えている灌木が少しずつ育って、クラックが広がっているという噂がある。
真相はどうなのか確認が難しいけれど、自然に変わっていくのならそれはそれでいいか。
何よりあの細い灌木が毎年葉をつけて、成長しているということが驚異。

日が高くなって春の陽気になった。
春と修羅(初段)と無名の三段を首尾よく数回で片づけて、
まだ終わるには少し早かったので、もう一つ気になる課題へ行くことに。
車で少し上流へ移動して、下調べで見つけた橋のたもとを覗くと、あった。
重き流れの中に(初段)は、高さとアプローチの悪さ等々であまり人気がないようだった。
昔Freefanでこの一帯が再度採り上げられたりとか、
そのもっと昔、某誌に載った広告にこの写真が写っていたとか、
そんなこんなで長いこと知ってはいたけれど、来たのは初めてだった。
岩盤の上からマットを投げ落とすと、ドンッと狭い谷の空気が揺れた。

スタートらしきホールドと1手目にだけはチョークがついていたものの、その先はなし。
見上げた感じ、屋根のように突き出た形状の左右それぞれにトップアウトできそうに見える。
ただ、どちらにしても上部のホールドがよく分からない。
あっちへこっちへ場所を変えて眺めまわし、リップ上からも覗き込んで、ラインを決める。
ふと、ネットにあがっている動画を見てラインを確かめようか、という考えが浮かぶ。
高さのある課題で出口のホールドが汚れていないという確証もないし、いるのは自分だけ。
安全に登って帰ることを考えるなら、そうするのが手堅いのかもしれない。
でも、と思ってスマートフォンをしまった。

2手目のホールドはかなりかかりそうに見えるが、とにかく1手目のポケットが悪い。
スタンスを選びきれずに3,4回登って降りてを繰り返した。
それらしい体勢が作れたトライで、思い切って跳んで2手目を止める。
頭の中、考えのスピードが速くなった。
手を出した先のホールドは思ったよりも幾分浅かったけれど、迷いはない。
地面から見上げたときのイメージよりも一手一手が遠いけれど、それでも迷いはない。
リップの上のホールドを押さえて、少し埃っぽいエッジを握ってマントルを返した。
「あー、無事だった」

この課題はとても良いクライミングのできる課題だった。
なぜかと言えば、グレード以上のものを求められたからだ。
ついているグレードは初段で、どう見積もっても二段にはならないだろう。
しかしこの課題を登るためには、初段のムーヴがこなせるだけでは足りなかった。
あの瞬間の自分は、きっと伊舎那天を登った時よりも集中していて、
強い確信を持って動き続けていた。
その確信、あるいは覚悟を持つために、日頃のトレーニングはあるのだろう。

トライ前に動画を見ないで、本当によかった。
個人的に、動画を見て参考にするという行為そのものは悪いことではないと思っている。
誰かとセッションするとか、完登するところを見るとかしても、得られる情報は同じだろう。
だからそれ自体が、完登という出来事の価値を損なうとは言い切れない。
それに僕自身、クライミングの映像作品は大好きだ。
しかし、好きなものだからこそ、オフにする瞬間が必要だとも思う。
自分がその場で見るもの、感じるものだけを頼りにして登るという行為が、
言い換えれば、手持ちのものを信じて進むという姿勢が、
不確かなものを相手にするこの遊びにおいて確かに尊いということ。

信じるものは、自分と国籍や言葉くらいしか似ていない誰かが登る姿か、
それとも生まれてこの方ずっと操縦し続けている自らの心身か。
選ぶのは自由だが、僕はそれが後者だと言えるようにいたい。

2日合わせて丸1日分しか登っていないが、いい時間だった。