2023年6月21日水曜日

懐かしい場所

梅雨の晴れ間になんとか登っている。今年はまだ比較的マシな天気で、結構登れている。

先々週は、1日だけの晴れ間にあさこさんとカンマンボロンへ。
あさこさんが最近トライを始めたA Wish(5.13b)をやりに行った。
前にノミーが「指切れるかと思いました!」と話していたCelebrating Spring(5.10c)を登ってアップ。うん、確かに痛い。相当痛い。
天気は悪くなく、そうかと思えば突然降ってきそうな微妙な雲行きなので、他のルートには手を出さず、本題のA Wishにトライ。
取りつきが狭く後ろに下がれないし、中間のハングの上はもうほぼ見えない。ヌンチャクも掛かっていないのでマスター。
下部から慎重に登りすぎて、ハングを越えた先の小核心をこなしたところで既にパンパン。
レストしつつ、『ハングの前後に核心が』とトポに書いてあったしな~、とか一抹の期待を持ったのも束の間、
レストポイントを離れてすぐに一番の核心が出てきて、呆気なく落とされた。
その後しばらくハングドッグでいろいろ試してやっとムーヴが見つかったので、OSトライはあまり惜しくなかったようだ。
花崗岩での5.13のOSはまだ遠い。
その日2回目のトライで危なっかしくRP。瑞牆のこのグレードにしては珍しく(?)かなり持久系のルートだった。
午前中は晴れていたのに午後になるとどんどん空が曇り、ガスが出てきて、夕方には小雨になった。
このコンディションでも5.13が数トライで登れたことは、素直に驚きだったし嬉しい成果だった。

先週の土曜日は、1年半ぶりくらいに不動沢の弁天岩へ。
新しい瑞牆本の撮影で、いつものごとく監督直々の指名でセンス・オブ・ワンダーを登ることになった。これは緊張する。
3P目にあたる風穴クラック(5.10a)もしっかり撮りたい、ということだったけれど、風穴は午前中しか日が当たらないので、そちらを先に撮ることに。
残氷ルート(5.9)を登って岩の肩まで上がり、風穴ピナクルに向けてラペル、濡れた短いコーナーを上がってやっと取りつき。
何度やってきてもすっきりしないアプローチだが、それもこのクラックの良さのひとつかもしれない。
風穴クラックはあさこさんがリードし、僕はフォローのみ。ピナクルの上は気持ちのいい風が吹いていた。

風穴クラックの取りつきからセンスオブワンダーのラインへとラペルし、とりあえず大ザルが残した捨て縄を新しいものに交換。
もともとあった捨て縄は10年ほど前のもので、苔だかなんだかわからないもので真っ黒だった。
ちなみに風穴クラックのテラスからセンスオブワンダー1P目の終了点へ行かずにまっすぐ下りると、70mロープ1本でちょうどラペルできます。参考までに。
流石に残氷ルートと風穴クラックだけではアップが足りないので、ハングボードをニギニギして、軽く前腕をパンプさせてから本題の1P目にトライ。
やはりアップが足りていないのか、シルクロードのパートで動きがかなり硬かった。
縁が鋭くて痛い核心のシンハンド~フィンガーを越えて、ダイクを掴んでレスト。
この先は見ただけで、触ったことのないオリジナルパートが待っている。
あまり落ちたくないサイズのカムを突っ込んで、最初のセクションに入ると、ホールドの悪さに面食らった。
ここ、こんなに悪いんか。大ザルの登りが一瞬よぎる。
行きつ戻りつして、結局は初登者と同じようなムーヴで抜けた。
シルクロードのクラックが閉じて溝になるところにカムを固め取りして、件のフレークを見やる。
手で触れてみると、薄い。数年前、ファインダー越しに見たときの印象よりも、もっと薄い気がする。
大ザルよりも体重がある自分が思い切り引いたら、縁が呆気なく欠けるんじゃないか、と少し心配になった。
ここまででかなりパンプしてしまったけれど、この後のレイバックを走り切れるだろうか。
でも、兎にも角にもやってみるしかない。
意を決してフレークに入っていくと、最初のプロテクションを決めるところでレスト出来ることが分かった。
フレークは薄く微妙に動く(らしい)けれど、思っていたより掛かりも良かった。
一瞬乱れた気持ちがみるみる落ち着き、怪しいプロテクションで誤魔化しつつ、自分で設置した捨て縄まで登り切った。

このピッチについて、僕が今更語るのはいささか憚られる。
ひとつ言えるのは、素晴らしいピッチだったということだ。
自分が贔屓目に見てしまうということは大いに認めるが、瑞牆の5.12でも屈指の名作だと思う。
僕は前半のシルクロード(5.11c)を、大ザルがこのピッチをトライしている頃に一度登っている。
そのうえ、何を隠そう大ザルの初登シーンを撮影したのは僕なので、ムーヴも一から十まで見てしまっている。
OSでもなければFLですらないのだけれど、リスク云々を一切抜きにして、登るなら絶対に1回で登りたかった。
そう思って取り付き、それを叶えられた充足感以上のものを与えてくれるピッチだった。


弁天での撮影が終わり、矢立岩に移動。
ここでは我に返るとき(5.13a)にトライした。
事前に監督から「矢立で撮るならどのルートがいいかな」と聞かれて、恥ずかしながら自薦したのだけれど、久々に行ってみると少し自然に還り始めていた。
初登したときに大した怖さを感じなかったので、今回は結構軽い気持ちで取りついた。結果、自薦したことを後悔した。
「こんなにランナウトしたっけ...」
「こんなにボルト遠かったっけ...」
「こんなに悪かったっけ...」
当時は、当然掃除からムーヴの検証、ボルト打ちまで全部やった後でリードしているので、そりゃあ怖いはずがない。
大して今回は、ムーヴもほとんど覚えていない状態でリハーサルなしのグラウンドアップ。
あちゃー、しまったなと思いつつ、それでも「これがグラウンドアップで抜けられなくてなにがビッグウォールだ」と奮い立たせて、
テンションをかけながら意地でムーヴをひねり出し、現場処理でなんとか抜けた。
8年前、ここにボルトを打った自分は何を思っていたのだろう。
リハーサルをして「ここならクリップできるか」という位置を選んで打ったとはいえ、
当時の自分はそれなりに尖っていたのかもしれない。
しかし、今の自分はそのもう少しだけ先に進んでいることも実感できた。

不動沢の最奥部は、自分が青春時代に足しげく通った場所だった。
今一度行ってみると、今だからこそ気づくこともまたある。
良い一日だった。

2023年6月8日木曜日

測るⅢ

5月の快適なシーズンはあっという間に過ぎ去り、梅雨がやってきてしまいました。
その間、大面岩のコスモスをやりに行ったりしていましたが、その話はまた別の機会に。

5月27日、ふと思い立って瑞牆山のボルダーでサーキットをしてみた。

サーキットと一口に言っても、いろいろなやり方がある。
本家フォンテーヌブローのサーキットは、エリアごとに易しいものから難しいものまで、それこそ山ほどある。
だいたい30本くらいの長さが多かったような記憶(曖昧)があるが、中には7台の課題がバンバン出てくる極難サーキットもあるらしい。
1日に初段とか二段を30本も登るのかと思うと気が遠くなったりもするけれど。

さてそれでは、今回瑞牆ではどうしたのかというと、夢は大きく100本のプランを作った。
これは直前に見た、ブローで1日に7aを100本登って回ったという記録(しかも移動は自転車)に影響されている。ただのミーハーである。
グレードは7級から二段まで。当然ひとつのエリアでは課題が足りないので、複数のエリアを巡る形にした。
当初は移動もすべて歩きにしようかと思ったが、さすがに初めてでいろいろと予測がつかないので今回はやめておいた。
課題を登りながら「次はどれにしようか」と考える時間が勿体なかったので、回る順番を厳密に決めてリストを作った。
さらに、このサーキットはより多く登り続けることが目的なので、トライは最大10回まで。
それで登れなければ敗退、次の課題へ進む、というルールに決めた。

では実際にどうなったのか。当日リストにメモした時間とともに記録として書いておく。

ウォームアップをしてクライミングスタート(6:15)
1. ため息 3級 2トライ
2. 夏への扉 1級 1トライ
3. 日暮れの道 1級 1トライ

〈車で移動〉

4. 指人形 初段 3トライ

〈車で移動〉

5. 水晶の舟 3級 1トライ
6. スプリットエッジ 3級 1トライ
7. エッジオブトゥモロー 1級 5トライ
8. 羽蟻 4級 1トライ
9. 羽音 2級 1トライ
10. 瑞雨 4級 2トライ
11. 雨と花 3級 1トライ
12. 花畑 1級 1トライ
13. ラフレシア 初段 5トライ
14. トガリネズミ 2級 10トライで敗退
15. 雨の弓 1級 3トライ
16. バックトラック 4級 2トライ (8:55)

17. ダブルカンテ 1級 2トライ
18. 言葉 初段 4トライ
19. 物 1級 1トライ

20. 鏡 6級 1トライ
21. 剣 4級 1トライ
22. 玉 2級 1トライ
23. 御門 4級 2トライ
24. ロイヤルポケット 5級 1トライ
25. VOCK 初段 7トライ

26. トラツグミ 3級 1トライ (10:15)
27. ミトラ 3級 2トライ
28. 背伸び運動 3級 2トライ
29. スケルトンSD 1級 7トライ
30. チップクラック 2級 2トライ
31. デールクラック 3級 1トライ
32. シマリス 5級 1トライ
33. ウッドマントル 3級 1トライ (11:37)
34. インドラ 二段 10トライで敗退
35. 阿修羅 初段 2トライ
36. ナーガ 2トライ
37. 穴契約社員 3級 1トライ
38. 小藪の細道 6級 1トライ (13:24)

39. 村祭り 5級 1トライ
40. 祭の花 1級 1トライ
41. ガリガリ君 1級 3トライ
42. リッチくん 5級 1トライ
43. ガリ子ちゃんSD 3級 1トライ 
44. シャリシャリ君SD 3級 1トライ
45. ガリガリトラバース 2級 1トライ
46. 夏木立 1級 1トライ
47. 日暮右 3級 1トライ
48. 日暮左 2級 1トライ
49. エンラッド 5級 1トライ
50. インタシン 3級 1トライ
51. カルカド 3級 1トライ
52. まずまずの日 4級 1トライ
53. 普通の日 初段 4トライ
54. 日々の暮らし 1級 5トライ
55. コールドスリープ 1級 2トライ (16:33)
56. 桃源左 5級 1トライ
57. 桃源右 6級 1トライ
58. 瑞牆レイバック 3級 1トライ
59. スーパークーロワール 7級 1トライ
60. 夜を待ちながら 2級 1トライ
61. 一本桜 3級 1トライ
62. 桜餅 2級 1トライ
63. 百里眼 1級 1トライ
64. カラクリ 1級 1トライ
65. 眠った風 初段 8トライ
66. 冬の来訪者 3級 1トライ
67. 冬の動物 3級 1トライ
68. クリネズミ 4級 2トライ 

クライミング終了 (18:59)

終盤はもう吐きそうなくらいにボロボロで、眠った風は諦めかけながらも死ぬ気で登った。
結果として、100本中68本トライし、登れたのは66本。
計画を立てた段階では「8割くらいはなんとか回れるかな~」なんて呑気に構えていた気がするが、実際にやってみると100本という数字が果てしなく思えてくる。
もともとの計画では、このあと初段が1本、1級が6本入っているので、ここで弱音を吐いていては1日で回り切るのは到底無理、ということかもしれない。
日が長い時期にやってみてこの結果なので、おそらくスタートをあと2時間繰り上げたところで、10本多く回る程度に終わるような気がする。
かといって、コンディションが良い時期を選ぶと日が短くなる。
オリジナルのプランを忠実に完走しようとすると、もっと考えなければいけない要素があることがよく分かった。

そもそもこのサーキットは、長くハードなクライミングのためのトレーニングとしてやってみることにした。
ボルダー1本を3メートルとして考えると、100本登っても登攀距離は300メートルにしかならない。この数字はちょっと少ない気がする。
が、数日前にコミネム先輩に話したところ「そんなに核心が続くことなんてないでしょ」と言われた。たしかにそうなのかもしれない。
それと、「最初に限界になるのは、指皮か、足の痛みか、体力か、それとも時間か」と思って試してみたら、答えは体力だった。
指皮は相当減っていたし、最後はシューズを見たくもないくらい足も痛かったが、完全にバテて終わったという感じがしている。
もっと自分に厳しくなる必要があるな、これは。