2021年12月26日日曜日

寒波

 「数年に一度」というレベルの寒波がたて続けに襲来しているわけですが、
「数年に一度」というのはそれなりに頻発しても一応表現として矛盾はしていないわけで、
なんとも微妙なニュアンスの言葉だな、と思います。

先週末はデイドリームや太刀岡に行きたかったのだけれど、あまりに寒いので断念。
「それでもなんとか外で登りたい」と日曜日だけ某ローカルエリアに行ってみた。
たしかに日当たりはそこそこよかったけれど風ももろに当たるので、晴れているのに結局極寒だった。
アップで登った2級で猫パンチをかましていきなり流血。
垂壁にポケットが散らばる初段と、そのSD(初二段くらい)をそれぞれ一撃して、あとはほぼ登らず。
というか寒くて登れず。
エリアとしては八千穂に似た岩質で、花崗岩とはまた違った感触があって面白い。機会を見てまた。


昨日は単身野猿谷。
MCコミネムと別のローカルエリアで登る予定だったのが、クリスマスイブの夜が雨で山○達郎状態だったので断念。
一人でゆっくり出て、ローカルエリアの課題を下見しに行って、それからかろうじて乾いていそうな野猿谷に移動した。
ちなみにそのローカルエリアの課題は相当に格好良かった。
ここ最近出会った課題の中ではダントツかもしれない。

ただでさえゆっくり出て来ているので、野猿谷に着いたのは昼前。先週と違ってかなり暖かい。
ただし日陰の岩はことごとく濡れている。
まあ仕方ないよねと、乾いていそうなところでアップ。
面白いと噂に聞いたフランソワルトン(1級)はツルツルのスタンスにやられかけて必死で登った。
セッションが盛り上がりそうな課題だった。
アップを終えて、こけ猿の壺(三段)。日当たりがよく完全に乾いていた。
遠目にも分かるスッキリした垂壁。スタンスが乏しいのがしんどいところ。
出来そうで出来ないムーヴをあれこれ試したら良いムーヴが見つかり、思ったよりも早く登れた。
ムーヴが分かれば、という感じで、得意不得意や好みは分かれそうだけれど、個人的には好きなタイプだった。


続いて近くの水際にある空谷(初段)も登った。
丸いリップの奥のホールドを触ったらジメジメで恐ろしかった。
岩の上もそこらじゅうびしょ濡れで下降はさらに恐ろしかった。

奥のエリアは乾きが良さそうだけれど、前回それなりに登ったので、下流に戻ってモンキーガール(三段)をやることに。
下地はドロドロ、リップ周辺のホールドも少し湿っぽいものの、なんとかなりそう。
前回出来なかった核心のムーヴを作り直して、そこそこ出来そうなので繋げてトライ。
繋げると、核心でどうしてもヌメる。
これは厳しいか?と思ったけれどめげずにトライして、ギリギリ核心の一手が止まってそのまま登れた。
よし、宿題回収。

まだ時間があったけれど、他の岩はなかなかに濡れているので、早めに撤収した。

この秋〜冬のシーズンは御座とほうとうをメインにやっていたので、言葉と物以外の成果はほとんどなかった。
しんどいところではあったけれど、それでも実にはなっていたらしい。
昔からずっとやってきたように、なにかしらハードな目標を決めて、それに足を運び続けるというのが、自分には合っている。

2021年12月14日火曜日

リバーナ

皆さんはリバーナというのは何かご存知でしょうか。
僕は全く知らず「遅れてる~ぅ♪」とからかわれました。
そもそも「遅れてる~ぅ♪」という表現も古いような。


この週末はちょっと遠出して、あさこさんとナバリへ行った。
前に行ったのは1年半ほど前。そのときの宿題は回収できるのか。

初日はゆっくりめに到着して、屏風。
岩場に行くとそれなりに人がいたが、どうもこれは少ない方(?)らしい。
アップでブロードバンド(5.10a)を登ったら早速やられかけた。必死で登った。
いや、たしかに動きは10前半くらいな気もするんですけどね...
つづいて前回も登ったマシュマロマン(5.10a)を登って、一応アップ終了。

宿題その1、モスラパワー(5.11c)に取りついたのはもう14時すぎだった。
前回2日目の最後にやって残り数手で燃え尽きてしまったのがこのルート。
下部の狭いコーナーに入るところで、今回もまたもじもじ。OSトライと変わらないぞ。
そのセクションをなんとか越えて、テラスでレストしてから上部の長い核心に突入。
クラック本を読みこんだ後だ、ジャムをどう決めるべきかすべて分かるぞ!
と言いたいところだけれど、それほど甘くないのが岩。かなり必死で押し切ってRP。
ともかく、前回よりは進歩が見られたような気がする。


二日目は明け方に雨が降って、どうなるか微妙だったけれどまた屏風。
クラックの中はしっとりしている(ところどころ濡れている)けれど、案外無事だった。
傾斜はなくても、ここの壁は比較的雨に強い、らしい。
あさこ式アップ法を教えてもらい、エリアの奥の方にある短いルートを3本続けて登った。
最後に登ったサーフライダー(5.10d)はじめじめのフィンガージャムで落ちそうだった。
次にパンドラ(5.11a)をやって、これは気合を入れてOS。
かなり明確な核心があって、なんだか瑞牆のクラックを登っているようだった。

そしてやっとこさ宿題その2、いかさま師(5.12b)にトライした。この時点で15時過ぎ。
前回はハングを越えて核心に入ったところであっという間にやられた。
で、今回もまたハングを越えて核心に入ったところであっという間にやられた。
そもそも2日目の一番最後にやるようなルートでないことは、薄々分かっていたわけで。
それから必死こいてジャムを決め、痛むつま先を捻じ込み、
最後にはボロボロにヨレすぎて手繰り落ちしそうになりながら、形だけはトップアウト。
前回より少しだけ、足が滑らなくなって細切れにムーヴをこなせたこと以外は進展なし。
回収して降りてきたら、時間は16時半を回っていた。あさこさんすまぬ。
終わった直後の感想は、「これが登れる日は来るんだろうか」。
登りながら心の中で「この下手くそォ!!」と何度叫んだことか。
メンタルまでぼこぼこにやられてしまったけれど、このまま終わるのはあまりに情けないので、
必ず回収しに行くぞと決めつつ、這う這うの体でエリアを後にした。

最近ぼんやりと描き始めた次の大きな目標のためには、あのルートは絶対に登っておかなければ。
トライするかしないか、腰が引けてしまうくらいビビっている自分がいたし、
それを誤魔化してトライした結果は笑ってしまうくらい歯が立たなかったわけだけれど、
それでもビビりの壁を格好悪くても這い上って手を出したことそれ自体には価値がある。
そう信じたい。

2021年12月6日月曜日

シーズンの終わりと猿

土曜日は今シーズン最後かもと思いつつ瑞牆へ。
前回行って以降、天気が一気に冬に変わり、小川山も瑞牆も雪が降った。
その時降った雪は融けたものの、寒さは冬本番のそれ。
とはいえ短かった今年の秋シーズン、課題の解決の糸口くらいは掴んでおきたかった。

遅めの時間に行っても駐車場はガラガラ。やっぱり皆さん来なくなりましたね。
皇帝岩でアップするも、とにかく寒すぎる。温度計を見ると4℃。
湿度は低くてパリパリだけれど、寒くてろくに体が動かない。
高き御座は繋げてトライしている人がいて、ちょっと割り込むには気が引けたので、
アップもほどほどにして先にほうとうへ行くことにした。

ほうとうは今回も誰もいない。
今シーズン再登されたことは知っているけれど、それにしては誰にも会ったことがない。
指の皮はベストではないもののそれなりにあるので、下部の解決できていないムーヴから。
やっぱりランジで出るときの引き手がかなり痛いし、十分に引けていない感じ。
それでもいろいろ試しているうちにそれらしい持ち方が分かってきて、
今回はこれまでで一番ランジの距離が出せた。
何度か取り先のホールドに体重が乗ったので、このムーヴはやり込めば止まると感じられた。
結局今回は止まらなかったけど。
持ち方が分かっても流石に指が限界になったので、
ランジを止めたところからマントルまでのムーヴの練習に切り替え、
最後はランジ以降のムーヴが上まで繋がった。
ここからやれば二段か二/三段くらいか。
孤独な戦いはつづく

来シーズンに向けて少しずつ兆しが見えてきた、気がする。
ランジを止められるようになったらあとは繋げる力の問題、という気もする。
ともかくやることの方向性は見えたので、一応の収穫はあった。

寒くてしんどくなってきたけれど、皇帝岩に戻って御座もやった。
こっちは上部の足上げまで何度か行ったものの、毎回スリップして派手に落とされた。
今シーズンは出来るだけ早くスタンドの部分を解決して、と考えていたのに、
結果はスタンド部分も解決できず。
つくづく現実は厳しい。
一手一手の保持感やブラインドでの足上げなど、高き御座はかなり繊細な課題らしい。
かと言って一度感覚を掴んだところでその後ムーヴの再現ができるか、となるとそうでもなさそう。
これはまだまだ繋がるイメージが湧かない。

寒すぎるからか、首筋がガチガチに凝り固まって頭痛がし始めたので、
時間は早かったけれどここまでで撤収した。
ほとんど逃げ帰ったような状態。
ここまで苦いシーズンの終わりはちょっと過去にないぞ。


日曜日はあさこさんと野猿谷へ。
流石に甲府よりで標高が少し低いだけあって、寒さは瑞牆よりもかなりマシだった。
指がボロボロだったので、あまり難しい課題はやらず、のんびり回った。
東橋の近くでアップして、ベルベットモンキー(2級)はびびりながら一撃。
とりあえず入ってみた体勢が案外正解だったらしい。
これはかなりの名作。ロクスノの記事で書かれていただけのことはある。
隣の岩の猿人形(初段)は一撃を逃した。ちょっともったいなかった。
その後上の方にあるゲットワイルドモンキー(1級)とかを登って、
4番のエリアの広場っぽくなっているところでも少し登った。
鏡面ダイク(2級)はサイズで得しているのかかなり楽に登れたけれど、これもかなり面白かった。
下手したらシューズを履かなくても登れるかも、と思ってやったら本当にできた。
とにかく童心に帰れる感じで秀逸。おすすめです。
近くにあった三猿(初段)は指が痛すぎて登れず。
最後に以前来た時にちょっと触ったモンキーガール(三段)をやったら今回もできずに終了。
どうも夕方になると、湿度が一気に上がってくるらしい。
川原特有の現象だろうか。
この日一番盛り上がった課題


2021年11月29日月曜日

冬将軍の鼻息

ついこの前まではちょっと遠くにいたのに、気づいたら鼻息がかかるくらい目の前にいる。
なんだ、将軍と言いつつ忍びなのか。それとも貞子かなにかか。

土曜日はナカイ(a.k.a. おちゃづけ)に誘われてSSK。
デイドリーム以外のクラックを登るチャンスを待っていた節があって、二つ返事で乗った。
行ったのは以前雨の日に偵察だけしてあったアメジスト。
道から割と近いところに、こぢんまりしながらも結構攻めたラインが隠れている。
人が暮らす日常の空気を感じるところにも、岩はあるものだな。

近くに他のルートがほぼないので、体操とハングボードのニギニギだけでアップ終了。
いきなりアメジスト・ライト(5.12-?)をOSトライ。
核心手前までが5.10後半くらいの快適なクラックで、そこからガツンと核心、という内容。
カムのセットなどは凡そイメージどおりにいったのに、パンプして突っ込んだ核心で最後の一手が出ず。
しっかり効いたカムを足下にしてちょっと不安定なムーヴをこなすだけの度胸がなかった。
ワンテンで抜けて、次のトライで安定してRP。
勝負どころが明確だっただけに、悔しさの方が強く残った。

続いてボルトが混じるアメジスト・レフト(5.12+?)をやってみると、
こっちは中間のボルト周辺のセクションがしっかり悪くて一撃は呆気なく逃した。
さらに、ムーヴをばらして上部のフィンガーに差し掛かったところで、
カムを決めようとしたときに足が滑って手繰り落ち。
フィンガージャムがひっかかって残ってしまい、指の皮をごっそり抉られて流血。
うわー、やってしまった。
急いで抜けて、テーピングを巻いて泣きの1トライ。
核心をこなせたのに、またさっきのトライと同じところでスリップ落ちして、
巻いたテーピングがバリバリに破れたのを見てドン引き。
1日で両方登るつもりだったのに、危なっかしい落ち方をして指まで傷つける始末。
アメジスト・ライトが登れてことよりも、至らないところが印象に残る日になってしまった。


日曜日はあさこさんと二子山西岳へ行った。
先々週くらいに一度登りに来て、易しいルートを何本か登ったので、
今回は少し難しいのにも手を出そうか、なんて考えていた。
賑わう祠エリアでシリアル(6c)とセダン(7b+)を登ってアップ。
セダンは人気のラッキーキャットの隣にあって、見るからに不人気そうな短しい系。
かなりしっかりした核心があって、危うくやられかけながらOSした。

ローソク岩の方へ移動すると、ここも賑わっていた。空気は冷たいけどいい天気だもんな。
やってみようかと思っていたルートはどこも人がいる or 日陰で寒いので、
流れ流れて中央稜下部のあたりで登ることになった。
まず緑のビーナス(7a)をやろうかと思ったけれど、
右上に抜けていくNewビーナス(7c+)の方が面白そうなのでそっちをやる。
緑のビーナスの核心を過ぎてから、小核心を挟みつつ最後のハングでパンピーな難しさが待っていた。
これも結構パンプしながら縁の鋭いホールドに助けられてOS。

次に白色矮星Ext.(8a)をやることにした。
なんだか、二子山にしてはやけにスラビーだなと思うような見た目。
垂壁から徐々に傾斜が落ちて、最後は80°くらいのモワッとしたカンテになる。
いやしかし、最近世界では石灰岩のスラブや垂壁の9a+も登られているわけだし、
石灰岩だから強傾斜であるべしというのは幻想だ。好き嫌いを言ってはいかん。
ルートは出だしからなかなか悪く、何度も呼吸が止まるような動きが出てきた。
レストポイントにたどり着いて「この上で落ちたらあの悪い下部をもう一度登るのか」と考える。
必死でこなした下部を再現できる気がしない。だったらこのままOSしたくなった。
上部のオリジナルパートに入るとホールドは一気に細かくなり、スタンスも微妙になった。
でも、案外どれも掛かるし踏めし、傾斜のおかげでパンプしても一応ネバれる。
チョーク跡はほぼなかったけれど、掃除された跡をたよりに手を出していった。
終了点直下までしっかり悪く、最後はパンプしすぎてクリップも危うかったけれど、ギリギリOS。
久しぶりに、純粋で真っ向のOSトライができた。
前日に聞いた、ジャンボさん出演のラジオのおかげかもしれない。

二子山西岳はこれまで自分が持っていた石灰岩のイメージと少し違って、
どちらかといえば花崗岩に近いような要素を持つルートが多いような気がする。
それを考えると今回の7c+、8aのOSは、今後このエリアで楽しむための試金石的なものになったのかもしれない。

2021年11月24日水曜日

前進と勤労

勤労感謝の日が火曜にあって、飛び石になった今週末。
天気は概ねよく、コンディションもまあよいというところだった。

土曜日は瑞牆でボルダー。
今週は、長期目標の五段2本よりも先に、言葉と物(四段)に行くことにした。
先々週、日曜に半日だけ登ったのだけれど、その時に思いがけず感触がよかったので、
これはきちんと回収して次に進もう、という考え。
アップはもはや恒例化している皇帝岩下。花畑とかラフレシアとかを登り直した。
もののついでに、珍しく空いていたスイッチ(初段)も登った。
隣のエクスペリエンスとはえらい違い。
でも、いつ来ても混んでいるのはこっちの課題なわけで、
やっぱり多くの人は登れそうな課題に集まるということなのだろうな。

で、本題の言葉と物へ。体は動くけれど、ヌメるほどではないちょうどいい気温になった。
バラしで核心のランジをやったら1回目で止まった。これはいい感じ。
ということでどんどん繋げてトライするものの、結局ランジで落とされる。
何度か右手がすっぽ抜けて、指の腹に小さい血豆ができてきた。
手数が多いというほどではなくても、一手一手の精度でかなり感触が左右される。
これくらいのグレードの課題は、大体どれにでも言えることか。
ちょっと「これは今日は繋がらないのか?」という空気が漂い始めたころ、
いろいろが噛み合ったトライでランジを止めて、そのまま登れた。

この課題を初めてトライしたのは何年前だっただろう。ロクスノで公開される前だったかもしれない。
実に10年以上も、来るたびにちょっと触って「できないなー」と言い続けていたわけだ。
つまるところ、真剣さが足りなかった、ということなのかもしれない。
その時に全身全霊で通い詰めていれば、もっと早く登れた課題だったのかもしれない。
それでも不思議と、十余年の年月が過ぎていったことを、時間の浪費だとは感じなかった。
なんだ、前進していたんだな、自分。あの頃より強くなったんだな、自分。
感じたことは、ごく単純だった。

続いて、ほうとうへ移動。
コンディションは悪くないし、身体も十分に動くだろう、と思ったけれど、
言葉と物の凶悪カチでやられた指ではスタートのカチを持つのが地獄の苦しみに。
おかげで未だにバラせていない下部が、これまでで一番できなかった。
中間以降のムーヴの練習に切り替えたものの、今度はシューズの選択を間違えて撃沈。
最近VS-Rを使い始めて、それなりに感触は良かったのだけれど、やっぱりこの課題はミウラー案件だった模様。
結局何の成果も得られず、しょんぼりして撤退。先は長い。

やるかどうか迷ったけれど、せっかく来ているので高き御座もやることにした。
こちらもVS-Rではどうもピンとこず、ミウラ―に戻した。
スタンド部分のムーヴの精度は上がらず、一度だけ上部まで行った以外はほぼダメ。
今回はついに掌底に穴が開いて流血。トライできる回数にも限りがあるな。

時間が少し余ったので、最近ノミーがやっているという水蛭子(三段)へ。
これもまた、長年「できないなー」で放置してきた課題。
どうも核心で握るポケットの少し上に別のホールドがあるらしく、触ってみると確かにかかる。
で、こちらのホールドを握って引いてみたら、呆気なく登れてしまった。
あれ、こんなに動けたっけ、この課題。
自分が強くなったのか、それともコンディションがいいだけなのか。
あのホールドは見落とされていただけなのか、それとも何かしらの意思が働いたものなのか。
登れたことはそれとして、一体何が起きて自分が登れたのかが分からず、
喜ぶよりも釈然としない気持ちの方が強く残ってしまった。
贅沢だろうか。それとも傲慢だろうか。

日曜日は、いましさんとペロ氏に付き合って、しじま谷へ。
最近初登されたRが付く類のルートをやろうかとも思ったけれど、指が痛いのでやめた。
ひたすらいまし監督の登りを撮影した。

下を出す監督


月曜日を挟んで、勤労感謝の日。職があることに感謝しつつ、休日を満喫すべく野猿谷へ。
トポも買ったので、前回行かなかった奥のエリアへ行ってみることに。
川沿いのエリアの課題をあれこれ見て回って、それから斜面を上った9番のエリアへ。
斜面に驚くくらいの巨岩が折り重なって迷路のようになっている。
トポに俯瞰図がないので岩と岩の位置関係が掴みにくいけれど、探し出すのもそれはそれで楽しい。
一通り見て回って、まだ痛い指皮を気にしつつ初段~二段くらいであれこれ登った。
さるのこしかけ(初段)
カエサル(初段)FL
シンクロニシティ(初段)
老猿(初段)
遠い猿撃つうるさい音(初段)FL
遠い猿撃つうるさい音SD(二段)
ざっとこんなところ。指皮がやられ過ぎず、ほどよく痛む程度で済んだ。
シンクロニシティはマントル一発で、形状も相まって結構秀逸なムーヴになった。
数年前に重い捻挫をして以来怪しい右足首が逝きかけたものの、ギリギリ誤魔化した。
遠い猿撃つうるさい音は、ジャミングの心得があると易しく感じるけれど、これも良かった。

暗くなる前に駐車場近くまで下って、ヤンガードリアス(初段)とサルポックス(1級)を登って終了。
最後に最後にエクトロメリア(二段)もやってみたけれど、
「このマントルが返る日はくるのか」となったので、ほどほどでやめた。現実は厳しい。



2021年11月5日金曜日

三歩進んで

先週末も、変わらず瑞牆でボルダー。
前回よりも暖かく、秋らしい陽気の中で快適にスタート。
アップは前回同様、まだ馴染みの薄い皇帝岩下で。
トガリネズミ(2Q)でいきなりハマりかけた。小粒で辛い山椒系課題だった。
前から気になっていた雨の弓(1Q)もやって、こっちは一撃できた。これはいい課題。
近くのイノセンスとかも気になったけれど、指に来そうなので見送り。

皇帝岩に移動して、高き御座タイム開始。
とにかくホールド欠損後のスタンドをまずは登らないと始まらない。
ということでひたすらスタンド部分をやったものの、前回よりもできなかった。
なにやらカンテにヒールを掛けるまでの流れがやけに重かった。
暖かい陽気で快適、かと思いきや、五段をやるには暖かすぎるのか。
前回のはハイポイントも進めずに、掌底の皮をおろされて終わった。
特に収穫もなし。

なんだかガックリ来たものの、続いてほうとうタイム。
初めに前回やらなかった上部からマントルまでのムーヴを作った。
リップを取る辺りから始めたら1Qか初段くらいになった。お、これはいいか?
で、単発の強度が一番高い下部に移ると、こちらは今回もできなかった。
足使いが何通りかありそうだが、どれにしても右手の保持力で負けている。
なんとなくこれかもというムーヴは見つかったけれど、それも止まるところまではいかず。
これも結局状態が良くないのか、苦し紛れに下部の核心を止めたところから繋げようとしたら、
来たときにはそれほど気にならなかった猛烈なヌメりで全く繋がらず。
指皮が減っていたのと、単純に暑いのと。湿度も高いのか?
コンディションを掴むために湿度計とか買ってみた方がいいのかな....

時間が余ったので最後に瑞牆ぴょんぴょんにちょっと手を出して、
1手目の一本指を止めるムーヴだけなんとか作って終了。
これはまた面白いくらいに、一本指の保持力が足りない。
ホールディングが特徴的(?)なものは、フラっと来ただけではできないか。


11/3は文化の日。この日はボルダーに少し疲れたので、あさこさんと易しめのマルチを登った。
初めに翼ルート(5.10a 6P)を登って、それから恋するMoment(5.10b 4P)に継続。
翼ルートは「こんなところに!?」という感じでトポを見たときに驚いたが、
実際に十一面をひとつの壁としてを見ると実に自然でいいライン取りだった。
4P目までは快適に登って、左岩壁の上からブッシュを歩いたところで、
日向の暖かさに釣られてルートとは違うところに入り込んでしまい、
ベルジュエールの上部に合流して終わってしまった。
クライミングはオリジナルより遥かに易しくなるものの、こちらはこちらで楽しかった。
続いて登った恋するMomentは、2P目まで比較的普通に登れたものの、
核心の3P目(5.10b PD)で完全にやられた。
いや、ちゃんとOSできたのだけれど、とにかく恐ろしかった。
終始「おい、マジかよ...」と言っていて、最後には気持ちを押し殺すために声が出た。
ムーヴは確かに10bなのだろうけれど、落ちて止まるのかはかなり微妙。
これをグラウンドアップで初登したジャンボ夫妻は本当に凄い。
ラインを見出だす探求心と慧眼、それをよりよいやり方で形にする実力。
こうありたいなと感じさせられるルートだった。


ボルダーメインにシフトしたところで軽くマルチを入れてみてよかった。結果的に軽くはなかったけど...
ボルダーの方は三歩進んで二歩下がるどころか、三歩進んでほぼ三歩下がっているので、
もはやマーチではなく軽いダンス的エクササイズ。
足音ばかりバタバタ響く日々は続きそうです。

2021年10月25日月曜日

突然来るシーズン

先週は雨が降るのと同時にいきなり寒くなった。
南アルプスの稜線も白くなっていたし、下界に近いところにも着々と冬の足音が。
ついこの前まで夏みたいな暑さだったのに。年々秋が短くなっていく。

土曜日は今週も瑞牆でボルダー。天気はいいけれど風が吹いて寒かった。
体感としてはもう12月のそれ。急すぎやしませんか。

混みあう駐車場にギリギリ停めて、アップがてら皇帝岩下エリアに行ってみた。
花畑とかラフレシアを登ったことはあるけれど、その周りの課題はよく知らず。
一通り見て回って、スプリットエッジ(3級)の辺りで登った。
スプリットエッジを登って、エッジオブトゥモロー(1級)も登って、
すぐ近くの葛の葉(初段)も冷え冷えのコンディションに助けられて登れた。
エッジオブトゥモローというのは、オールユーニードイズキルという映画の原題だった気がする。
紅葉と緑が混じる

皇帝岩に移動して、本題の高き御座。
前回できなかったスタンドへの合流の一手は、これもコンディションのおかげで案外すぐにできた。
「こ、これは!」と気を良くしてスタンドをやっていくも、昔のムーヴでは当然できず、
今主流になっているらしいムーヴにするとヒールがちょっとシビアになった。
これは股関節の柔軟性が相当にものを言いそう。
太ももの裏がバキッといいそうになりながら頑張ったら、なんとかムーヴの目処は立った。
これにSDからの数手を足すとなると、出来るイメージはまだ湧かない。
そもそもスタンドもまだ登り直せていないわけだし。
ムーヴは8割がた出来たので、あとはコンディションが良い時にどれだけ通えるか、というところか。

ほどほどに疲れを感じたところで、ほうとうに移動。
皇帝岩は寒かったけれど、こっちは沢沿いに風が抜けてさらに寒かった。
前回細切れにしかできなかったムーヴをそれぞれやっていく。
恐らく単体での強度が一番高い2手目は高速タッチが限界。
足の使い方は何通りかあるものの、どれも十分に飛距離が出せず。
これを解決しないことには可能性が見えてこないな...
ヒールがぶっ壊れた中間の数手は別のシークエンスを見つけてなんとか解決。
なんだかブローのBig Islandが思い出される(トライしてないけど)。
リップを取るところまでバラしたところで日が暮れてきたので撤収した。

最後に山形県エリアにちょっと寄り道して、トラツグミ(3級)と鳥馬(5級)を登った。
どちらもグレードはあまり変わらない気がした。

日曜日はあさこさんに付き合って小川山で屋根岩5峰に行った。
この日は前日と違って日差しが強く、日向はちょっと汗ばむくらい。
それなのに日陰には最近降った初雪が残っていて、なんだか感覚がマヒする。
ビレイの合間にこんにちはおっぱい(5.12c)をやったら見事に落とされた。
コンディションはいいので、これは単純に難しいということじゃないか...?


五段クラスのムーヴが少しずつできるようになってきたこと自体は嬉しいし、収穫だった。
でも問題はここからだよな、きっと。

2021年10月18日月曜日

しとしとした秋のつづき

やっと寒気が流れ込んできて、数日でいきなり秋めいてきた。
秋めいたというか、冬の気配すら感じる寒さ。
つい先週まで日中30度の中で仕事をしていたのに。

土曜日、久しぶりに瑞牆でボルダー。
駐車場で前泊して起きたら、山はガスの中。十一面も見えない。
千日の瑠璃に行く某ペアに出会ったけれど、そちらも行くかどうか迷っていた。
ガスの中ではコンディションが整わないとのこと。
周りが真っ白でもそれなりに登れた弁天のハングは、一体なんだったのだろう。

最初に皇帝岩。なんだか、空気がやっぱりしっとりしている。
アップで数本登って、個人的に最強候補のSD初段もちょっとやった(リピートできず)。
で、状態は良くないけれど高き御座(五段)にちょっとトライ。
スタンドはかなり昔に登ったけれど、SDをやるのは初めて。
昔あった右手のエッジが今は欠けて、気持ち悪いガチャガチャになっている。
ここは今大分違うムーヴになっているらしいので、それを試す。
左手のカンテピンチがヌメりまくって、かなり苦労したものの目処は立った。
SDパートからスタンドへの合流点のランジは、カンテが持てず全く跳べなかった。

そこそこ皮を減らして、次にほうとう(五段)へ移動。
プロジェクトだったころに見たことはあったけれど、これもトライは初めて。
「一手ずつならできるかも」と思ったらそれほど甘くはなく、1手目から悪い。
川原のすぐ上で磨かれたホールドが、ヌメりも相まってより悪い感じに。
ホールド自体はかかるので、1手目はギリギリできて、2手目はできず。
3手目以降はキーとなるヒールのソールがべろんべろん剥がれてこれもできず。
手数で言えば半分くらいバラして、これも今日じゃないなということで昼前に撤退。
五段クラスをトライするコンディションではない、というのは言い訳か。

どこに行くか悩んで、サル左衛門が最近開拓しているエリアを見に行くことにした。
駐車場からそう遠くないのに、どれも登られていなかったらしい。
で、看板課題のあかあかや(三段)のアプローチのチムニーを登ったら、
抜けた出した先にサル左衛門がいてびっくり。
お互いに素っ頓狂な声が出た。後々冷静に考えると、なんだこの兄弟。

新ラインを掃除して登るサル左衛門を横目に、あかあかやにトライ。
ナイスな強傾斜にナイスなエッジとナイスなスタンスが繋がる、ナイスな課題。
手の掛かりはそれなりでも、足が切れると耐えられないタイプ。
見た目はシンプルなものの、繊細なムーヴが詰まっていてかなり難しい。
ここでもまたヌメりに泣かされて、大核心のムーヴができず。
これはちゃんと登りに来たい。
この顔である

新ラインを登るサル左衛門。これもカッコよかった。

最後にすぐ下の穴ぼこフェース(2級くらい)と小さい初段をやって、
穴ぼこフェースのホールドの痛さに半泣きになり(でもいい課題)、
初段はヨレと湿気りにやられて登れず、ぼろぼろで退散した。

先シーズンがリード中心で結局ほとんどボルダーをせずに終わってしまったので、
今シーズンはボルダーでちゃんとした成果を、と思って初めて五段に触った。
最近「五段を登る人たちは普段から五段をトライしているから強いんだ」と、
当たり前のようなそうでもないようなことに思い至ったので、
初日の今回がダメダメでも腐らずやっていきます。

2021年10月11日月曜日

しとしとした秋

ご無沙汰です。
もう9月が過ぎ、もう10月も半ばになろうかというのに、一向に涼しくならない。
それだけならまだしも、天気もあまりよくならない。
思う外でのクライミングができず、フラストレーション溜まり気味です。

9月も一応小川山や瑞牆に行きはしたものの、ほとんど雨かシケシケで、
以前登ったルートのリピートか、そもそも登りに行けずかという有様。
屋根岩5峰でデリウス(5.13a)を登ったりしたけれど、あまり思い出深くはないので割愛。

この週末は、N社長の呼びかけで小川山トポの撮影合宿に参加した。
合宿とは言っても、瑞牆のときと違って基本は現地集合現地解散。
キャンプ場に大きなテントが張ってあって、そこにいろいろなクライマーが出入りしている、
あの頃の合宿スタイルも山岳会出身者としては好きだったのだけど。
この情勢では難しいよな。
当時から今まで続いている縁も少なからずあるだけに、なんだか寂しい。

土曜日は雀卓スラブに行った。さて、雀卓スラブとはどこでしょうか?
場所で言うと、屋根岩2峰の東面(南東面?)。おむすび山スラブの真上あたりにある。
駐車場からの距離のわりにアプローチが少々分かりにくいので、あまり話題にも上らないらしい。
僕もこれまで行ったことがなかった。
初めに行ったおむすび山の下にある短いルート群(おにぎり岩とか言ったような)は、
どれもトポのグレードから2つくらいは上に感じた。
「グレードが辛いこともそれはそれで魅力のひとつ」とか考えていたけれど、
11cとあるルートの出だしに1級くらいのボルダームーヴが出てきたときには、
さすがに考えを改めようかと思ってしまった。
エリアの中でのグレードの整合性は必要、というところでしょうか。

雀卓スラブは全体的に黒々としていて、それなりに長さのあるフェース~スラブの壁だった。
初めに左端の宝さがし(5.11a)をやったら結構悪かった。体感は11b。
上部はチムニーに入って少し登るラインのようで、
カムを持っていかなかったせいで、下のボルトから延々ランナウトして登った。
ゆかりさんが国士夢想(5.11c)を気迫のオンサイトで登り、
「負けてられんぞ」ということで右のほうの子忍者(5.12b)もやりことに。
これはその昔、ユージさんがハマったとか、ハマっていないとか。
他のルートのグレードの辛さから恐る恐る取り付いたらやっぱり悪く、
ボルト2本目のすぐ上で呆気なく落ちてオンサイトはできず。
そのあたりがまず核心でかなりフィンガリーだった。
更にその上もデリケートなスラブが続き、もう1度落とされた。
微妙に湿気を感じるコンディションだったことを抜きにしても、12dくらいありそうだった。
個人的にはマラ岩のブラックホール(5.12c)よりも悪いと思う。
岩は硬く見た目も結構きれいなので、こういうタイプが好きな人にはオススメできるかも。

日曜日は裏烏帽子での撮影になった。
事前に見ていた予報では土曜よりも日曜の方が天気が良さそうだったのに、
直前に変わったのか、この日の方が天気も状態も悪かった。
まず初めに社長とふたりでむささびルート(5.10b 6P)を、調査を兼ねて登った。
以前ロクスノの「たまにはマルチ」でも取り上げられていたらしい。見逃してましたすみません。
ルートの内容はちょうどフリーとアルパインの中間という感じで、
フェースありスラブありクラックあり、藪っぽい歩きもありと、瑞牆のようだった。
5P目の「いたちクラック」(5.10a)は短いもののそれなりに存在感もあってよかった。
昼くらいからガスが下りてきて霧雨が吹き付けるような天気になってしまったが、
そのおかげでルートの頂上からした方にものすごく濃い虹が見えた。
なんだか珍しいものをみて、社長とふたり「ご褒美だ」と喜んだ。

取り付きに戻って、僕のこの日の担当はもうひとつ、軸(5.13a)。
天気が悪く、辺りが薄暗くなってしまったのと、あまりいいアングルがなかったため撮影はナシに。
それでもルートの内容の検証、ということで10年ぶりくらいに触ってみたら、見事にやられた。
100°くらいの前傾クラックに、なかなかカムもジャムも決まらず、
ボルトにクリップしてから始まる最上部のムーヴもこなすのでやっとだった。
アップ不足とかしけしけのコンディションとか悪い要素はいろいろあったけれど、
そもそもこのルート自体が難しいということが分かった。
パリパリに乾いたときにやれば印象も違うのかな?
このトライでの体感は13bだった。
そんな感じで天気がますます怪しくなってきたので、早めに撤収となった。

撮影なりなんなりで普段いかないところに行くのは実際楽しいのだけど、
そろそろ目標を定めて打ち込むクライミングを再開したい。
結構真面目にそう思う。なんだか物足りなくなってきた。
早く天気が安定しないものか...今年何度目だ?

2021年8月30日月曜日

長雨のあと

今年の夏はほぼ全滅だったと言ってもいい。
7月の初めにあおろら徘徊記を登った次の週から毎週雨で、登れたとしても半日が限界。
岩探しに行ってみても駐車場から一番遠いところで雷雨に遭った(成果も特になし)。
というわけでジム通いが加速したわけだが、先日深いヒールフックで足首がバキッとなった。
あまり大事にはならなかったけれど、なんだかいやな感じ。

先週はやっと、やーっとまともな天気になったので、マルチを登りに出かけた。
奥秩父の山の中にいても暑いので、シビアなクライミングはそもそもできんのです。

まずは先週の木曜日に平日切符で、大ザルと鷹見岩南山稜(5.10b 9P)へ。
これは大ザルのリクエストで初めて知った。ロクスノに発表されていたのに見逃していた。
そもそも鷹見岩はどこにあるのか、というと、瑞牆山と金峰山のちょうど間くらい。
瑞牆山荘から入山して富士見平小屋から大日方面に向かうと、展望台のようにある。
岩の上までは道がついていて、ご丁寧に看板もある。
瑞牆山荘から1時間ちょっとで鷹見岩の分岐に着き、そこからアプローチの踏み跡に分かれる。
この踏み跡が岩を北側から南側まで大きく回り込んでいて、なかなか長かった。
道ができるまで時間がかかっただろうな。
1P目のチムニーの出口

2P目は長いクラック~スラブの10b

4P目を登ると現れるヘッドウォール

後半のハイライトとなる5P目10aの大ザル

ヘッドウォールのあとは岩稜歩き

石塔岩方面がよく見える

最後のビレイはこんな感じ

長さも内容もあり、グレードに対してかなり充実感のあるルートだった。
ボルトがしっかり打たれたルートだが、ラインをしっかり読む必要があって、
グレードは10台でも必要な実力は11台、という感じ。
そういうルートこそ素晴らしいと思う。
今年登ったマルチピッチで五本の指に入りそうな名作だった。

大ザルが口にした「全然知らない山に来たなあ」という言葉に、
この日したクライミングの魅力のすべてが詰まっていた気がする。


この週末は長野が生んだタンクトッパーことヲカモトくんと登った。
「と登った」というよりも「を引きずりまわした」という方が正しいか。
土曜日は僕がリクエストしていい日だったので、久しぶりに不動沢クラシック。
今回は〇友ルート(5.10b 3P)→コズミックサーフィン(5.10d 2P)→果てありの岩稜(5.7)の順に継続した。
〇友のスクイズは今回もそれなりに苦しく、それなりに頑張って登った。
コズミックサーフィンは5年以上ぶりで、また自然に還っていた。
どう見てもボルトは生きていないけれどホールドは埃と砂まみれ。
リピートなのに相当ピリピリした。
こういう見直されるべきクラシックをリボルトしたい気もする。
最後に果てありの岩稜をヲカモトくんにリードしてもらって終了。

日に焼かれたスラブはほとんど鉄板のようで、シューズが融けるかと思った。

日曜日はヲカモトくんのリクエストで、十一面周辺へ。
初めにJoyful Moment(4P 5.10a)で、それから蒼天攀路(3P 12a)を2P目まで登って、
テラスを歩いて回り込んで花唄小道(5.8)を登るという継続。
Joyful Momentはツルベで、小ヤスリでは僕がリードで登った。
昨年弁天岩で思いがけずマルチの世界に引きずり込まれてえらい目に遭ったヲカモトくんも、
今回ついにマルチのリードデビューを果たし、勉強になったとのこと。
しかし前日の不動沢スラブの洗礼が効いたのか、気の毒なくらい疲れた顔をしていた。
どうもタンクトッパーは肩を出さないと力も出ないらしい。


ほとんど外で登れないうちにもう9月になってしまうことに、ちょっと焦る。

2021年7月19日月曜日

梅雨明け

梅雨が明けました。ありがたいですね。
しかしその分、「殺す気か」というくらいの暑さ。ありがたくないですね。

梅雨明けを跨ぐような形で、相も変わらず奥秩父に逃げ込んでいる。
先週も今週も、やっと天気が安定して、久しぶりに土日とも外で登れた。

先週土曜は小川山で、乾きのいいゴジラ岩へ。
前日まで雨だったけれど、ここの乾きはさすが小川山イチ。パリパリだった。
火星人のスラブやゴジラのマーチ(5.11b)を快適に登って、
この日の目標にしていたちゃびんば(5.13a)はOSを逃して2回目でゲット。
分かってしまうとムーヴは明瞭だったけれど、さすがにこの岩質でチョーク跡なしはきつい。
ともかく、この短さのわりにパンピーで、満遍なく難しいいいルートだった。

翌日曜日は、「マルチに行きたいね」ということで不動沢の前烏帽子岩へ。
何度目かの新緑荒野(5.11c)を、例によって1P目を脇からショートカットして登った。
メインになるピッチはこのルートが初のあさこさんがリードして、こちらはその合間だけリード。
すっかり気を抜いていたら、上段の10aのワイドで落ちかけた。
こういうクラックは特に、しばらくやらないと一気に分からなくなる。やばいな。
最終ピッチ、頂上にマントルしようとしたらデカい蛇が日光浴していて、目が合った。
数年ぶりに大きな蛇を見た驚きで、1オクターブ高い声が出た、かも。


この週末は、土日とも十一面岩で登った。とにかく二日ともよく晴れ、ひたすら暑かった。
土曜日は「どこに行こうか」と話していて、偶然思いついた、あおろら徘徊記(5.11d 5P)へ。
瑞牆本には載っておらず、関東周辺の岩場(通称、ガメラ本)にちょろっとだけ書いていあったルートで、
自分でもどうしてこのタイミングで思い出したか分からないのだけど、行ってみたくなった。
ルートの所在は十一面岩奥壁、ということになるが、厳密にはその隣に立つ通称ヒメヤスリ岩だ。
十一面正面壁と奥壁の間に立つ小さめのタワー、といえば分かりやすいだろうか。
情報は少ないけれど、なかなかにいいルートだったので、少し詳しく書く。

ルートの取り付きはシロクマのコルの対面。ルンゼ状で、意外と分かりやすかった。
1P目:すごく短いオフウィズス(5.8)。カムは小さいものだけで十分。
2P目:ルート全体の核心となる、スラブ~特徴的なグルーヴの長いピッチ(5.11d)。
ここはグルーヴに入る前がまず結構繊細で、その後のグルーヴもジャムがほぼ効かず悪かった。
初登者のブログには「袈裟固め無限ひざロック」と書かれていた。袈裟固めって、どんなだっけ?
かなりしんどかったけれど、なんとかOS。
3P目:スラブからダイクトラバースで、短いけれど高度感があって爽快(5.9)。
4P目:ボルト2本の、相当みじかしいスラブ(5.11b)。
出だしから2本目のボルトにクリップするまでがとにかく悪い。3級のボルダーくらいか。
しかもボルトの感覚はかなり近い。その後はランナウト。
それだけでもう、最初の数手数歩が悪いことが分かっていただけるでありましょう。
こういう出だしが悪いスラブ系って、他にも何本かあったような...
4.5P目:4P目終了点から5P目取り付きまでの歩き。ヒメヤスリのタワー部分を右へ回り込む。
5P目:ヒメヤスリ北面(北東面?)に切れ込んだ短いクラック(5.9)。
ジャムの効きもカムの効きも良く、傾斜はあるけれどスタンスもあるのでかなり快適。
先にリードしたあさこさん曰く、「ここまで来た人へのご褒美的なピッチ」。
ロワーダウンできるので、交代でパーティー全員リードするのがおすすめ。
地上にあったら人気ルートになりそう。

こんな感じで、知名度は低いものの、「こんなのがまだあったのか」と思わせるルートだった。
写真、ルート詳細は初登者のブログを参照のこと。

日曜日は、前日北アルプスに登ってきたらしいオカモチくんと。
最近下半身強化のためか、スポーツジムに通っているとか、いないとか。
しかし初めて歩く十一面までのアプローチは辛そうだった。がんばれ。
ベルジュエールでも登ろうかと思って行ったけれど、大渋滞が起きていたのでやめ。
なんやかんや予定を変更して、山賊79黄昏ルート(5.10d 4P)を登った。
宴会テラスよりも下の前半部分はあまり登られていないらしく、それも納得の渋さだった。
2P目のスラブ(5.10d)はまたも出だしがやたらと悪い系で、ラインを読み違えて落ちた。
宴会テラスからは快適だった。

十一面岩周辺の賑わい方は、5年前くらいには想像もしなかったくらいのもので、
登りながら辺りを見渡すと、視界に10人くらい入る。
なにやらCRACK CLIMBINGの売れ行きも好調のようだし、時代が変わったということなのだろうか。

2021年7月13日火曜日

CRACK CLIMBING by Pete Whittaker (訳者あとがきにかえて)

2020年春。療養中で、その後の身の振り方もなにも決めていなかった頃、僕は1冊の本を手にした。
ワイドボーイズのひとりであるピート・ウィタカーの『CRACK CLIMBING』。
いつこの本のことを知ったのかは思い出せないが、時間を持て余し気味だった僕は、とにかくこの本を読んでみたくなり、取り寄せた。
あらゆるサイズの最難クラスのクラックを登る世界最高のクラッククライマーであり、
かれこれ10年以上も僕の憧れの人であるピートが書いた本だ。
これが自分の糧にならないはずはない。
念願の本がやっと手もとに届き、ページを興奮気味に捲りながら、ふと思いついた。
「これを翻訳して、日本語版を書けないだろうか」
英国版と北米版があり、僕が買ったのは北米版だった


初めは完全に個人の趣味だった。
いまし監督の映像作品の英語字幕を担当させてもらったときにはやりがいとある種の手ごたえを感じたし、
本職の翻訳家さんには遠く及ばないまでも、クラックの心得がある自分だからこそ、訳してみたい。
そんな妙な自負と自己満足で始めたものの、やはり人間、もう少し欲が出てくる。
「訳すからには、どうにか形にならないだろうか」
決して多いとはいえないツテを頼り、話を聞いてもらったところ、幸運にも山と渓谷社から出版のチャンスをいただくことができた。

ヤマケイ編集部とのつながりができ、一緒に本を作っていただくことが決まっても、世の中はコロナ禍真っ最中。
携わっている他の誰かに実際に会うことはなく、翻訳作業は常に実家の自室で孤独にしていた。
好きな映画のサウンドトラックを聴きながらやっていたので、
もはやそれを聞くと映画のシーンではなく特定のジャムの解説が思い浮かぶ、ような気もする。



この本について、ひとつきっぱりと断っておくことがある。
それは、この本はいわゆる「読み物」ではない、ということだ。
専門的な技術書であり、そのため内容は全体的に硬く、情報量も多い。
訳者としてこう書くべきではないかもしれないが、決して「すらすら読める本」ではないと思う。
しかしそれは、ジャミングというクライマーそれぞれの感覚頼みだった技術を、
理解可能なコトバに落とし込んで伝えるということに著者が真っ向から取り組んだ証だ。
その途方もない挑戦に妥協なしで挑んだ筆者の気持ちが滲む原文を、できるだけ忠実に日本語で伝えるということを、今回は優先したつもりだ。

本文中に書かれたこの本の使い方を、ここで掻い摘んで紹介しておく。
1.ガイドブックとして読む。(自分が必要な内容を探して読む)
2.書かれている内容を真似てみる。(動きの解説を、実際に順を追ってやってみる)
この二つが、ピートからの提案だ。僕としても同感だ。
内容的にすべてに通じる第1章をまず読んで、それから各章の自分が特に必要な部分を選んで読み込むことをオススメする。



ロクスノに掲載された書評のためのインタビューを機に、筆者であるピート本人とのつながりもできた。
まだ出版が決まっていなかった頃、「翻訳版をだせたらいいなと思ってる」とメールを送ると、
「それはいいね、こっちは問題ないから是非やってほしい」との答えが返ってきた。
その後も解説の更に突っ込んだ部分や、細かな言葉遣いなどについて質問をすると、すぐに丁寧な返事をくれた。
面識はなくても、彼の親切で几帳面な性格が伝わってきて、とても嬉しかったのを覚えている。

第一稿を編集部に送った後は、校正が待っていた。
ここではイギリス在住のSさんに非常に大きなお力添えをいただいた。
大小さまざまな誤訳の指摘から細かなニュアンスの調整、内容的な指摘まで、
とにかくビッシリと赤が入った原稿が返ってきて、自分の勉強不足と読み込みの甘さを痛感したものだ。
この本を翻訳して世に出すことにも、とても前向きな励ましの言葉をいただいた。

技術的な考証はある程度自分でやっていったものの、経験の少ないワイド、さらにはルーフクラックについてはお手上げだった。
ということで、これはYさんとM師匠にお願いした。
お二人とも快く引き受けてくださり、僕としては命拾いしたような気持ちだった。
実際、この2章は全体の1/5以上の文量があり、いちばん難しいところだった。
日本を代表する2人のワイドクライマーがここに携わっていることも、お忘れなく。

出版のチャンスをいただくところから今日まで、
山と渓谷社の編集部の方々にはお忙しい中、非常に長い時間をかけてご協力をいただいた。
特にこの企画の始まりからすべての橋渡しをしていただき、
さらに校正では言葉遣いに限らず細かな内容、読みやすさという点に至るまで、
粘り強くご尽力いただいたOさんには、感謝の言葉もない。
今後もこの本が必要とする人のもとに届くまで、引き続きよろしくお願いします。


初めは素人の独りよがりにすぎなかったものが、本当にたくさんの人の協力を得て、こうして形になった。
自分の憧れのクライマーと、本を書くという冒険の一端を共有できたことは本当に光栄だった。
そしてそれを支えていただいた方々には、心から感謝を。
本当にありがとうございました。


ピートは謝辞で「ケーキとドーナッツをご馳走する」と書いていた。
僕はなにをご馳走しようか。ゆっくり考えておくので、どうぞお声がけください。

2021年6月26日土曜日

奥多摩の梅雨

今年の関東地方の梅雨入りは、記録的な遅さなのだとか。
夏本番はまだ先だというのに、晴れれば地元の真夏に近い暑さ。
先が思いやられる。

先週、平日切符を切って、なんと御岳に行った。
前に来た時はたしか高校生だったから、十数年ぶり。
当然梅雨入り後なので前日は雨、当日の天気もそこそこ怪しい。
ということで昼くらいに出てゆっくりエリアへ。
あちこち見て回ったものの、日向⇒灼熱、日陰⇒ジメジメorビショビショ。
乾きが良いという忍者返しの岩にはそもそも行く気がなかったので、
近場でわりとマシだったロッキーボルダーで登ることにした。

高さの割には下地が微妙な課題が多いので、先行者がいたオプティミスト(初段)からやる。
ハングボードをニギニギしただけではアップが足りず、染み出して濡れているホールドもあって結構ハマった。
トップアウトまで行ってヌメりと湿りで挫けて後ろの木に掴まったりもした。
その次のトライでめちゃくちゃチョークアップしながら登った。

続いてエゴイスト(初段)。『in Tokyo!』で初登シーンを見て笑ったのが懐かしい。
最近導入した扇風機で多少周りの空気は動くものの、明らかに淀んでいる。
そこら中にでかいカタツムリも這っている。これが関東の梅雨なのか。
下部のムーヴは何通りかあるらしいけれど、ヌメって仕方ないのでランジで解決。
上部のダレたエッジにビビって何度か飛び降り、使うホールドを変えたらできた。
超エゴイスト(二段)はスタート辺りの湿気が尋常ではなかったのでパスして、次は遥(二段)。
これも中間のスローピーなホールドがこのコンディションでは持てないか、と思いきや、
ハイステップに入ってみるとこれが案外持てることが分かってさっさと登れた。
辛いとの噂があるエゴイストよりも、というかオプティミストよりも簡単に感じる。
そんなはずは・・・と思っていたのだけれど、どうも後半のラインが違ったらしい。
リップ下に明らかに左手で誘われる縦ホールドがあり、それに入っていたのだが、
それは使わず、もっと右のエゴイスト寄りに抜けていくのが正規(?)のラインのよう。
限定なのか別ラインということなのか、どうなんだろう。釈然としない。
グレードはさておきムーヴは面白かったので、まあよしとする。

スタートが遅かったのでだんだん暗くなってきたけれど、最後にin Tokyo!(三段)。
これもかなりの湿気を感じる。というか、ホールド以外はほぼ濡れているように見える。
扇風機の風を当てたりして気持ち程度に乾かしてみてからトライ。
初めのトライでいきなり核心らしい左手のエッジが止まった。が、その次で落ちた。あらー。
上のムーヴを少し確認して、繋げたらその後数回でまた左手のエッジが止まり、そのまま登れた。
もしかしたら経験した中でもワーストかもしれないこのコンディションで、
こういうカチ課題が少ないトライで登れたことにかなりびっくりした。
これは乾いた時期に真面目に一撃を狙うべきだったか。今更仕方ないけど。
短時間でも予想外にいろいろ登れたので結構満足して帰った。

今日も相変わらず、前日は雨⇒当日は曇りの空模様だったので、奥多摩方面のマニアックなエリアを見に行った。
奥日原とか鳩ノ巣とかを見て回ったものの、乾いている岩はなし。当然か。
外のボルダーで成果を期待できる時期はまだかなり先らしい。
やっぱり夏は山奥に引きこもるしかないのか。

2021年6月3日木曜日

Humble

5月30日、弁天岩のプロジェクトを登ることができた。


前回の反省から、ボルダーでの前日アップはやめた。
それでも天気はよく登りには行きたかったので、土曜日は山河微笑(5P 5.10c)だけ登りに行った。
十一面岩でも風は十分に冷たく、翌日のことを少し不安に感じつつ、久々に楽しいマルチだった。

当日の朝、いつもよりも少し早く起きて、泊っているあさこ邸のウォールで体を起こした。
核心のホールドで指の皮がやられることを考えると、アップは岩でないほうが良かったのだろう。
長モノでパンプしたくらいで時間になり、駐車場でいまし監督や泥攀氏らと合流した。

今シーズンで一番の快晴で、気温もそれなりだったはずだけれど、風はやっぱり強かった。
流石にまだダウンジャケット+ダウンパンツがないとツラい。
しかし、吹いてくる風だけで察しがついた。
ユマールしてトップロープを張り、ホールドに触れるとそれは確信に変わった。
今回は前回よりもコンディションが良い。

前回嫌なイメージがついてしまった核心のムーヴも、今回は1回でできた。
しかしそれでは不十分だということを、前回思い知らされた。
ムーヴ単体での感触が良くても、リードで繋げたときにどうなるか。
そう考えると、やたらと不安要素が湧いて出てきた。

中間部から上のリハーサルを終えて、トップロープを抜いた。
前回はしばらく迷ったけれど、今回は迷わなかった。
自信があったわけではなく、リードでトライする以外、今の自分にするべきことはないと思っていた。
恐らく、梅雨入り前にトライできるのは今週で最後だろう。
一週間前の苦い敗退の意味するところを確かめるためにも、自分は今もう一度トライするべきだ。

散歩したりして時間をゆっくり使い、気持ちを切り替えていった。
「頭の中をシンプルにする」という表現がしっくりくる気がする。
日向に座って目を閉じ、一から十までムーヴを静かに思い起こす。
カムのセットや定まり切らない足運びなど、いくつもあった不安要素は、
完全には消えないものの大分小さくなった。
前回のように、トライせずに済ませる言い訳を探すこともしない。
「今度はちゃんと核心に突入してより良いトライにしよう」とだけ考えていた。

日が真上を過ぎていくらか傾いてきたころ、登る準備をした。
ギアを整える僕に、いましさんが「グッドラック」と声をかけ、カメラを担いでユマールしていった。
ビレイは泥攀氏がしてくれた。

ルートの初めは6メートルほど上の木が生えたテラスへ、垂壁+スラブを登る。
テラスに出たらダブルロープを手繰り上げて、壁の正面に垂らし直す。
ビレイヤーの準備ができたところで、テラスに座り込んでシューズを拭き、また目を閉じる。
深呼吸をすると慣れ親しんだ、乾燥した初夏の瑞牆山のにおいがした。

短いフィンガークラック、緩く左上するランぺ状を登り、カンテに出る手前でレスト。
幾分上がってしまった心拍が落ち着くまで待ってから、カンテを越えて前傾フェースに出た。
ダブルロープの一方を捨てて、ここからはシングルで登る。
前回もたついた前半の小核心は、今回はスムーズに越えられた。
すぐにカムを固め取りして、長めのレストに入る。

レスト中、ここまで抑えられていた不安が顔を出し始める。
「この腕の張り具合で核心セクションを越えられるのか」という気持ちが湧いてくる。
呼吸に意識を集中してみても、目を閉じてみても、その疑念は消えない。
「トライをやめるなら今だ」と、そんな考えまで薄っすら影を見せた。
チョークアップした手で太ももを叩き、嫌な思考を打ち消す。
大丈夫、状況は前回と違う。きっと自分自身も違うはずだ。

レストポイントを離れ核心に入ると、ホールドは一気に細かくなる。
嫌でも指に力が入る数手をこなして一度チョークアップし、最大の核心に入る。
何度も試行錯誤して導き出した数メートルのシークエンス。
そこに入る瞬間までは、「これで落ちたらどうなるか」云々と考える自分がいた。
足を上げ、手を出した瞬間、頭の中の雑音が完全に消えた。
一番ハードな一手を完璧に捕らえて、漸く、「もう止まらない」と決めた。
続く遠いデッドも、想定よりも狙いが乱れずにしっかりと止まった。

そのまま上のレストポイントにたどり着き、プロテクションをセット。
ボールナッツの青、更に手前が閉じたスロット状のポケットにスリングをタイオフして使う。
ここは新しく買ってきた6mmのダイニーマが役に立った。
パンプの度合いは想定の範囲内だったけれど、やはりなかなか抜けない。
最後の核心は鋭い極小カチをロックオフしての1手で、
リハーサルで落ちたことはほとんどないものの毎回嫌だ。
固め取りしたプロテクションもそれぞれあまり信用できない。
最後のムーヴで落ちてボールナッツとスリングがはじけ飛ぶ様子がスローモーションで浮かぶ。

「これ以上は無意味だ」と思うくらいまで長くレストして、やっと心が落ち着いた。
最後の核心に入り、問題の極小カチを取ると、少し取る位置を外した感じがした。
でも、一度食い込んだらもうずらせない。あとは祈るような気持ちで握り込んだ。
必死で足を上げ、中継から手を伸ばして次のホールドを取った。
大丈夫だ、まだ落ちていない。
最後のカムを入れるアンダーフレークにハンドジャムをたたき込み、完登を確信した。

終了点にセルフを取って、ヘルメットを脱ぎ、何度も叫んだ。
すぐ下にぶら下がってるいましさんも、カメラが回っているのに珍しく叫んでいた。
少し潰れた喉から絞り出すようにして、ただ感謝した。

1週間前、最大の核心に入れずに敗退したときとは、身も心も大きく違っていた。
当日までの調整の仕方を変えて力が出せるようになった体と、それを信じられる心。
しかしたった1週間で体が大きく変わるはずはない。大きかったのは精神的な変化だ。
「何かを変えなければ」と感じたその「何か」は、精神の方だったわけだ。
どれだけ身体の調子が良くても、そのハンドルは頭の中にある。
トライ前、そしてトライ中も、後ろ向きなことを考えなかったわけではないけれど、
それでも心が乱れることはなく、さざなみが寄せる水辺のように静かだった。
核心の真っただ中でそれがついに凪になったあの瞬間は忘れられない。
それは1週間前の敗退を経験したからできたことだった。
リードしてみて初めて分かることは、やはり多かった。
及び腰になりながらもギリギリでリードすることを決めたあの日の自分に、今の自分は生かされている。


弁天岩のこの壁に初めてぶら下がったのは、今から10年前、19歳のときだった。
当時の僕は「ボルトを打たずにこの壁を登る」という理想を持って掃除を始めた。
その想いで、2年後に二十億光年の孤独を登ったけれど、ただ一つ心残りだったのは、
ルートの途中に2本のハーケンを打って残置したことだ。
それがその時の自分にできた精一杯だったし、間違った選択ではなかった。
その後サル左衛門がターミナルを、大ザルがセンス・オブ・ワンダーを初登して、
僕自身も矢立岩で数本のルートを拓いていく中で、考え方も少しずつ変わっていった。
それは安きに流れる妥協ではなく、成長と言うべき変化だと思う。
そうして意味のある回り道を経て、僕は弁天岩のハングに戻り、
10代の自分が思い描いた理想を形にすることができた。

この1年半で、強く感じたことがある。
自分を卑下することと、慎ましくあることは違うということ。
言葉を変えれば、厳しくあることと、真摯であることは違うということだ。
自分の身の丈を知らず、あるいは忘れてないがしろにしていた僕は、一度壊れてしまった。
ほんの少し何かの判断が違っていれば、クライミングを続けられなくなっていたかもしれない。
運のいいことに僕はどうにか踏みとどまり、また自分の足で立っている。
そして今、やっと10年前の自分が描いた姿に追いつくことができた。

想いが結実するまでの時間として、10年は長いのかもしれない。
しかし不動沢の最奥に通い続けた時間は、たくさんのことを教えてくれた。
敬意をもって学びつづけること、そして情熱をもって作りつづけること。
弁天岩とともにあった20代が終わろうとしている今、ここで経験したことが、
これから始まる新しい10年間を歩いていくための糧になることは、もう分かっている。
そして、自分がひとりのクライマーとして生きる時代が、まだまだ終わらないということも。


2021年5月24日月曜日

狭間

この週末も弁天Pへ。初めてリードでトライした。

弁天岩にはアップにちょうどいいルートがない。
そのため本気トライのためにはどうアップしたものかといろいろ考えて、
前日アップがいいかもということで土曜日に軽くボルダーで流してから行ってみた。
結果から言えば、これをしてよかったことは特になく、むしろ少し指皮を消耗しただけだったように思う。

今回は泥攀氏たちに加えてMonolithic Block撮影班、さらに突然やってきたサル左衛門もいて、過去に例を見ない大所帯になった。
リードでトライすると決めていたからなのか、アプローチのペースは上がり気味だった(いまし監督談)。
1週間つづいた雨のおかげで、不動滝の水も初めて見るくらいの水量があった。

弁天に着くとやっぱり風があって、Pは乾いていた。不動沢では一番雨に強いんじゃないだろうか。
トップロープで核心からムーヴを確認していくと、どうも前回よりも感触が良くない。
緊張なのか、コンディションなのか、調整が上手くいかなかったのか、
とにかく前回1回でできた核心のシークエンスも数回かかってギリギリできた。
これで一気に気持ちが萎縮していってしまった。
登れるかどうかは五分五分、くらいに考えていたのに、リハーサルを終えてからは四分六分くらい、下手したら三分七分くらいに思えた。
指の皮も、数回のムーヴ練習でいきなり削られて痛みだした。
心の奥では、なにかしらトライしない言い訳を探し始めていた。

それでもどうにか気持ちを奮い立たせて、「リードでトライして分かることもあるはず」と、
念入りにギアやシステムを確認して地面を離れた。
隣の二十億光年の孤独と同じくダブルロープで、アプローチをこなしてからロープを垂らし直したりと手間が多い。
システム自体は予想したとおりに機能してくれて、ロープドラッグはほぼなかったものの、
ギアのセットという動作が加わるだけで、一気に動きが鈍くなったように感じた。
気負いも、少なからずあった。

前半の比較的易しいパートをこなしてカムを固め取り、それからかなり長くレスト。
完全には回復しないものの、如何せん長い出来てしまうので、
踏ん切りがつかないまま風に吹かれ、呼吸を整えながら抜けきらないパンプに苛立ちと不安を感じていた。
「これ以上は休んでも仕方ない」と思ったところで核心に突入。
長い核心セクションの前半をこなして、一番悪いシークエンスに入っていくところで完全に心が折れた。
それ以上は肉体的にも精神的にも手を出せず、カムを信じて落ちた。

フィックスを登り返して面倒なギアの回収を終え、車に戻ったときにはさすがに辺りは暗かった。
リードで核心に突入してみたことで分かったことはたしかにあった。
カムはよく効いていて落ちても大丈夫(?)ということは、ひとつ前向きな事実だし、
ギアやシークエンスについて修正が必要な部分があることも分かった。
それでも、分かったことよりも突き付けられたことの重みが、今は頭の中を占めている。

トップロープでムーヴが繋がることと、実際に登ることとの間にあるギャップは、想像よりも大きいらしい。
ムーヴはできているので、いずれ必ず繋がるのだろう。
しかしその「できる」が「完登できる」に変わる境界線は、まだ見えていない。
自分の中に慢心があったのか。それとも、そもそも自分の何かを変えなければならないのか。
来週、それをもう一度確かめに行きたい。




2021年5月16日日曜日

弁天P再開

連休中は当然のように瑞牆にこもった。

ただ今年の連休は天気が例年になく不安定で、かなり空模様に振り回された。


5日瑞牆で登ったうち、3日は弁天に通った。シーズン初めはやっぱり足が重い。

不動滝の滝つぼにはシカと思われる骨が(カモシカという説も)。


弁天岩はとにかく寒く、風が強かった。標高も2000は軽くあるはずなので、当然か。
例年GWの次の周くらいから弁天通いを始めるのだけれど、今年は梅雨入り前に勝負したいので早めのスタートになった。
・・・なったのはいいが、とにかく寒すぎた。
登って手が悴むとかいうレベルではなく、取り付きにいるのもつらいし、
それでも頑張ってなんとかトップロープでトライすると前腕が謎の痺れを起こした。
1日目は掃除してトップロープを張るだけで撤退。
2日目はなんとか1回だけリハーサルしたものの雪が降ってきてまた半泣きで撤退。
3日目にやっとまともにリハーサルができた。
2日目、吹雪の中、なんと2℃

昨年あれだけ苦労した核心は、久しぶりにやってみると1回目でできた。
寒く乾燥したコンディションで結晶が指に食い込む感触があるときは、やっぱり違う。
3日目にはトップロープで初めて下から上まですべて繋げて登ることができた。
プロテクションのセットはそれぞれムーヴにほぼ影響しないので、あとはムーヴの精度、ということになる。

隣で二十億光年の孤独をトライ中の泥くさ登攀氏(以下、泥攀氏)も、長距離運転のしんどさを嘆きつつ、連休を延長して足しげく通っていた。
こちらも感触は上々なようで、あとはリードでトライするのみ、という状態に持ち込んだ。
やはりルートは登られることでそこに在るもの、初登者冥利につきる。

弁天通いの合間に少しだけボルダーもした。といっても、リピートだけ。
久しぶりに美しき日(二段)をやったら、前よりも難しくなった気がした(前にも書いたような)。

木曜日にぽっこりある会社の休みは小川山でN社長の撮影合宿に飛び入りして、今週末はまた弁天。
泥攀氏がいよいよリードでトライ、ということでビレイヤーに指名された。
まあ、ルートの内容を知っている人を選ぶとそうなりますよね。
駐車場を出るときには山にガスがかかっていたものの、不動沢を歩いていくと晴れてきた。
が、弁天について見ると二十億光年の孤独はクラックと上部のコーナーがびしょ濡れ。
1週間気合を入れてきた泥攀氏のリードは次週に延期になった。気の毒に。
自分の方は、残っていたシステムとプロテクションの検証が上手くいって、これで最低限リードでトライできる準備が整った。
とにかく気にかかるのはリードしたときのパンプ、そしてなにより天気。
九州、四国は異例の早さで梅雨入りが発表されたらしい。
昨シーズンの終わりに「来シーズンは梅雨入りまでにケリをつける」と思っていただけに、この展開はちょっと気が気ではない。
焦ってやるものではないけど。

4年越しのこのプロジェクトが形になりそうなことへの期待と、季節が急に変わってしまうことへの焦りと、半々だ。

2021年5月10日月曜日

Throwback 3(2021.1~4)

 〔年末年始西日本ツアー つづき〕

・宮崎、大崩と行縢

大隅最終日を早めに切り上げて、眠い目をこすりながら宮崎の山奥へ移動。

祝子川上流にある大崩山周辺の岩場と延岡近郊の行縢でその後数日登った。


大崩山ではやかん落としのルートを黒ひげさんら開拓チームに紹介してもらった。

看板ルートのBeautiful Mind(5.13+)はさすがに厳しそうなので、

初日はCrossroad(5.11d 5P)、二日目はイザナギ(5.12a 4P)を登った。

どちらも長い核心ピッチが印象的な花崗岩のマルチ。

こういうのには慣れている、とはいえ、どちらもかなり真剣なオンサイトだった。

(実はイザナギは途中でトイレが我慢できなくなって一度降りたのだけど)

特に印象的だったのはイザナギの核心となる2P目と3P目。

40メートルほどのスケールと、変化に富んだ内容。

しかもオールNPなのにジャムの技術だけでは登らせてくれない。

開拓チームの皆様は毎日凄まじく植生の強いブッシュと格闘していたけれど、

やかん落としだけでもまだまだ新しいルートを拓く余地(文字通り、余地)があるし、

谷の対岸にある小積ダキはもっと凄そうだった。

やかん落とし遠景


今年の年始は異例の寒波が来たこともあって例年より寒かったそうで、

正直やかん落としでは寒くてこれ以上登れそうになかったので、標高の低い行縢にも行った。

ここもすごいところだ。延岡の町から見えるところにこんな存在感の壁があるとは。

Googleマップで見るとこんな感じ(中央の谷間)


麓にあるひでじビールの工場もよかった

ここではこみねっちらが初登した空飛ぶたまねぎルート(5.11+ 6P)を登った。
天気も日当たりもよかったけれど、風が強く寒い日で、防寒着を多めに持って登った。
核心の5.11+でスリップ落ちしてしまったけれど、かなりワイルドな魅力あるルートだった。
なんだか穂高や錫杖のルートを思い出した。

空飛ぶ玉ねぎを登った日、同じ壁の左の方では小峰・大木ペアが椿(5.14b 4P)を初登。
後日、ぶら下がりで写真を撮らせてもらったけれど、2人のパフォーマンスに圧倒された。
なにか、大きな衝撃と希望を一度に与えられた気分だった。




この他に宮崎では比叡にも1日だけ出かけたけれど、雪に振られてほとんど登れずに撤退。
なんだか九州なのか本州なのか分からなくなる、寒い毎日だった。

宮崎を出て大分からフェリーで瀬戸内海を渡り、関西に戻った。

・桐生辻、雄鹿が鳴くと雨ずらよ
最終日、帰りがけに滋賀の桐生辻に半日寄り道。
あさこさんが毎年行っているという「雄鹿参り」をして帰ろうということになった。
雄鹿が鳴くと...はかなり前に岩雪のクロニクルで写真を見たことがあり、その後も各所で噂は聞いていた。
5.12aのショートハード系、しかも被っている、というのは実は初めて。
で、気合を入れて取り付いて、離陸からいきなりの核心は越えたものの、手の悴みに負けてテンション。
うーん、決定力不足。
2回目はスタンスが欠けてポロ落ち、3回目でRPした。
あさこさんはこれも逆転サヨナラで登ってしまった。ハートが強いぜ。

ざっとこんなところで、西日本の旅は終わり。
ツアーに出かけてるたびに思うことだけれど、日本はまだ広いし、様々な余地がある。
四国も九州もなかなか行けるところではないのが残念。また行けるだろうか。
それと、どこに行っても食べ物がことごとく美味しいのはいけない。
クライミングツアーなのか喰らいミングツアーなのか分からなくなり、見事に太った。

〔2021.1月~〕
・デイドリーム
年末年始の旅から帰ってからは、3月くらいまでデイドリームに通った。
ルートの存在はかなり前から知っていたものの、実際に見に行ったのは前年の12月が初。
恐ろしく細く、被っていて、綺麗だった。
実際にロープを張ってムーヴをやっていくと、見事にできなかった。
本題はクラックに入ってからリップを取るまでの10手ちょっと。
その中で前半と後半にちゃんと内容の違いがあり、どちらも相当に難しかった。
個人的は前半の繊細なフィンガージャムがつづくセクションが鬼門で、
ここは結局シーズンの終わりまでほとんどつながらなかった。
Stingrayでフィンガージャムの経験はかなり積んだ気でいたけれど、これはその更に上を求められる。甘かった。
春先の寒い時期は案外短く、中途半端な状態でシーズンが終わってしまって残念。
来シーズンはもっと腰を据えてトライしたいところ。

〔2021.2~3月〕
デイドリームと並行、というか合間の楽しみという感じで、恵那にも久しぶりに通った。
恵那はどういうわけか過去にあまり通ったことがなく、勝手に苦手意識ができていたというのが正直なところ。
実際通ってみると、岩質への慣れというのもあるのか、3月にはそれなりに成果もあった。
登った主な課題は、
突沸(二段) FL
ユビサキキ(三段?)
イルガ(三段)
マリモ(三段)
ヤタノカガミ(四段)
本音をいえばあまり好きになれなかった恵那のシャープなカチがそれなりに持てたり、
久しぶりに三段以上のボルダーの成果があったりと、身体の調子がしっかりと戻ってきた実感が持てた。
ヤタノカガミは一日で登れてしまい、かなり驚いた。そしていい課題だった。

〔2021.4月〕
・NINJA
DKに誘われ、小川山でNINJAにトライした。
このルートにトライするのはこれが初めてで、「やっとトライしたか」と自分でも思う。
それだけ、昨年までよほど自分は趣向の偏りに振り回されていたんだな、というところかもしれない。
DKはさすがの登りでさっさとRPしてしまい、僕はさらに1日延長戦もしたが、結果登れず。
これだけ諸々が繊細なルートというのも経験がない。特にフットワーク。
グロヴァッツがトライごとに新品のメガを下した、という逸話も、あながち誇張ではないのかもと思える。
これもデイドリームと並んで来シーズンの宿題になってしまった。
次の秋を待つ楽しみができた、といえば聞こえはいいのだけれど...

2021年5月4日火曜日

Throwback 2(2020.7~2020.12)

 〔2020.7月〕

長梅雨のためほとんどジム。

まぶし壁に目づくりで登った課題を律儀に書き残していったら、

年末くらいに課題ファイルが埋まるという事態が起きた。


〔2020.8月〕

・北アルプス龍王岳

学生のときに2度行ったことがある龍王岳のボルダーに行った。

特になにか成果があったわけではないけれど、久々の山岳ボルダーは純粋に楽しかった。




〔2020.9月〕

・弁天岩プロジェクト

梅雨明けから弁天岩のプロジェクトに通い始めた。

前年は遠征やらなにやらで1日しか行けずに終わっていた。

自分の時間ができたからには、これを進めていくしかない。

前年まで見ていた直登のラインがハードすぎてあまり可能性を感じないので、

改めて壁を見直して、結局中間部から完全に分岐する新しいラインが見つかった。

掃除をしていくと、ブランクかと思っていたセクションにキーとなるエッジを発見。

これでどうにか繋がりそうだったので、ここにラインを定めて終了点を打った。

実際にやってみるとムーヴはこちらも十分に難しく、

核心のセクションは夏の間には解決できず、9月に気温が下がってやっとできた。

プロテクションやロープの流れなども検証して、終了点以外はオールナチュラルで登れることが分かった。

二十億光年の孤独(5.13b)は中間に残置のハーケンがあるが、こちらはなし。

それだけでも、このラインを登る価値がある。

ムーヴの目途が立って、トップロープである程度繋がったところでシーズンアウトした。


〔2020.10月〕

この月は、瑞牆でシングルピッチの13をまとめて登った。

・フリーダム(5.13a)

末端壁に行く機会があったので、数年ぶりにトライ。

何年か前、ソニー・トロッターが来日したときに1回だけトライしたことがあった。

その時の記憶を呼び覚ましながら...と思ったけれど、ほぼ忘れていた。

この日2回目、日没後夕闇が迫る中ギリギリRP。

最大の核心の繊細さ、中間以降のストレニアスなコーナーとランナウトが充実感を増す。


・ファラオ(5.13b)

春にムーヴを作ってから一度足が遠のいていた。

行った日も下部のクラックは湿気っぽかったけれど、核心はパリパリ。

ヴィーナスと共通の出だしから核心前のハンドジャムまでで12前半、

その後に1級程度のボルダームーヴがあって終了、という感じ。

ランナウトはそれほどではないし、プロテクションのセットがシビアなところも特にない。

国内では貴重なクラックの13だけれど、比較的トライしやすいのかもしれない。

トップロープでのリハーサル後、リード1回目でRP。

こういうルートを、リハーサルなしで勝負できるようになりたい。


・神の手(5.13c)

DKがプロジェクトをトライするのに同行しつつ、ちょくちょく触った。

これも瑞牆本の撮影のときに一度トライして以来の、中途半端な宿題。

これはDKがプロジェクトを初登(神のおこぼれ)した後、次に行った日にRP。

12の中間くらいのフェースを登ってレスト、2級か1級くらいのボルダー、という感じ。

同じような展開だけれど、即身仏の方が難しく感じた。


・息吹(5.13b)

エッジのキタ店長に「杉野さんの遺作!」と誘われて二つ返事で便乗した。

植樹祭エリアのダイワハウチュ、石触エレジー(5.11b)右側のフェースを登る。

瑞牆本には載っていないので、存在を知らずにいた。

中間にバンドがあり、それを挟んで前半と後半それぞれに核心がある。

前半の核心は前傾カンテで細かいホールドを繋ぐ、結構ガツンとくるボルダーセクション。

後半は一転してデリケートなスラブフェース(短め)。

ルートの展開としてはエクセレントパワーに似ていなくもない。で、ちょっと難しい。

オンサイトは当然のようにできず、ムーヴをバラしたところで「今日のうちに」と考え始めた。

2回目は核心で指が悴んでしまって落ち、雨雲が迫る中3回目でRP。

このグレードをワンデイで登れると思ったことは、記憶の限りなかった気がする。

エッジの伊那店ができてリードのトレーニングがしやすくなったことも幸いしていた。


〔2020.11月〕

・小川山合宿

N社長の呼びかけで、小川山のルートの撮影合宿に参加。

小川山で連日ルートを登るなんて、それこそ何年振りだろう。

撮影が優先だったので、自分でルートを選んで登ることはなかったわけだけど、

こういうときでないと登れないルートを登ることができた。

その最たるものが、屋根岩本峰の月形半平太(5.12a)。

屋根岩5峰から西側、目の前にそそり立つ本峰スパイヤーが気になった人は僕だけではないだろう。

その中央に1本だけあるこの謎なルートのことが、いつの頃からか気にはなっていた。

今回撮影リストに紛れ込んでいたこのルート、社長からの指名もあり、登る機会に恵まれた。

気になっていたアプローチは、実は案外近く、5峰の下部岩壁から5分くらい。

これなら5峰のガメラ岩まで上がるのとあまり変わらないかも。

ルートの内容はボルトとカムのミックスで、クラックありフェースありの40m。

チョーク跡は当然皆無で、ルートファインディング力全開で登った。

2020年で1,2を争うくらい、非常に印象的なクライミングだった。


・小ヤスリ、小面岩など

この月はこれまで登っていなかったマルチなどをあさこさんと回った。

小ヤスリの山灯火(5.12d)、微笑街道(5.12c)OS、

小面岩の一刀(5.11b 8P)OS、ホケイ岩のサイドワインダー(5.12c 3P)OSなど、

「気になってはいるけど行く機会がなかなか...」というリストを減らすことができた。

特に、サイドワインダーのOSはかなり集中した登りができた。

12台のマルチのオンサイトは初めてで、夏以降のリードの登り込みがここにも効いていたと思う。

それに、この時期でもまだ瑞牆でマルチが登れることも、自分としては発見だった。


〔2020.12月~ 年末年始西日本ツアー〕

もはや恒例となった年末年始ツアー。今回はあさこさんと一緒に、四国から九州へと足を伸ばした。

なかなかに盛りだくさんだったので、エリアごとに。


・高知、大堂海岸

まずは前年も行った大堂海岸。と、そこに行く前にちょっと黒潮ボルダーに寄り道。

松風(1級)を3通りくらいのムーヴで登った。あさこさんも逆転サヨナラでゲット。



大堂海岸ではマルボー師匠ら開拓チームに混ざって、最果てエリア周辺で2日登った。

最果ての最果てでPDがつく10台のフェースを登ったり、

最果てで国内最高(最強?)の10aと名高いラズベリージャム(5.10a)を登ったり。

続けて登ったハートロッカー(5.10b)も合わせて素晴らしかった。

50m以上で1ピッチ、壁に走る摂理を繋いだ合理的かつ贅沢なライン。

しかもこれがグラウンドアップだというのだから、完全に脱帽。師匠、参りました。

それと、今年も山田鮮魚店の魚は素晴らしかった。これからも毎年来たい。


年末の寒波で大荒れの中、フェリーに揺られて酔っぱらいながら九州へ移動。

佐賀関で食べた定食のアジがぴちぴち動いていてびびった。


・鹿児島、大隅半島

CJC終わりの福の神と、さらにチーム長野が合流して、自分としては初めての大隅。

岩の量とロケーションに圧倒される。月並みだけれど、ここは日本なんだろうか。

岸良ではサル左衛門曰く未登らしいラインを片っ端からセッションして登った。



Drink the Seaもやったけど、さっぱりできず

船間漁港にも出かけて、鹿児島チームと紺碧(初段)などなどでセッション。

イサムくんが先陣を切ったトライで指まで切って血だらけになり、一同ドン引き。

実際にやるとそれほどえげつなくはなかった。これも素晴らしい課題。



エリア入り口のシンクラック(5.10bくらい?)もよかった。

ここにはルートが開けそうな魅力的な壁もたくさんある。また来なければ。


ダツが落ちていた

年始につづく