2015年12月21日月曜日

鬼退治のはじまり

暖冬だ、暖冬だと言っていたのに、「今週末は冬将軍が・・・」とかなんとか、
一体どっちなんだと言いたくなるような気象情報が続いているわけですが、
この土日はしっかり冷え込んで、どうやら冬将軍襲来の話は本当だったようです。
そんな土曜日、うえきゅうさんに乗せてもらって湯川に行ってきました。

朝起きたら、長野市内はうっすら積雪有り。おーっと、これは大丈夫なのか?
そう思いながら湯川に向かうと、案の定林道は凍りかけているし、
霜柱が立っているし、対岸には未発達ながらも氷が垂れていた。
そして晴れという予報だったのが裏切られ、空は曇り。寒い。

来るのが久しぶりだったので、トポと岩を見比べながら端から端まで歩いて、
右壁から易しめのルートをどんどん登っていった。
「デゲンナー」(5.8)、「台湾坊主」(5.9)、「北風小僧」(5.9)を登って、
いちいち登ると指の感覚がなくなるのに閉口。
さらに「フォーサイト」(5.10a/b)も登って、フィンガージャムの感覚を確かめる。
個人的にはこの「フォーサイト」、痛いくらいのフィンガーロックが続いて、いいルートだと思う。
僕がリードしてトップロープを張り、うえきゅうさんがトップロープで登る。
そんな感じで出来る限り本数を登ろうとやっていたのだけど、まあ如何せん寒い。
一度登って指の感覚がなくなって、それが回復したら、次のトライは悴まない、
というのが冬場のルートではお決まりのパターンだった気がするのに、
今回は何本登ってもそのたびに指の感覚がなくなってヒーヒーだった。
寒波が来た真冬の八ヶ岳山麓なんて、そんなものだろうけど。

右壁のルートは一通り登ったので、正面に戻ってきて、「山案山子」(5.10b)を登って、
そろそろ本題に入った方がいいか、ということで、「白髪鬼」(5.13d)にトップロープを張る。
すぐ右のワイドを登ると速いのだけど、完全に自然に還っていて怖かった。
「白髪鬼」はサル左衛門がレッドポイントするときだけ上から写真をとりつつ見ていたけど、
こうして降りてクラックに指を入れるのは初めて。
最近誰かが触ったようで、中間部から下はチョークが着いていた。
トップロープでやってみる人はそれなりにいるのかな。
例の観音開きセクションにはあまり着いていないのを見ると、やっぱり悪いんだな、と思う。
まずは下からムーヴをやりつつ、プロテクションも何が入るのか探っていく。
下部はジャミングこそしないものの、クラックがまだ開いているので簡単。
中間部からクラックが閉じ、スタンスも減って、一気に難しくなる。
プロテクションはカムもナッツも意外に入るのだけれど、サイズは小さい。
これでは落ちたくないなあ、という感じ。
それはまた追々詰めていくことにして、核心を何とかすべくムーヴに集中。
クラックの縁が鋭いので、どこでも持とうと思えば持てるけど、
どこを持っても細かいのに加えてスタンスが微妙なので、ちゃんと手順があるようだった。
ある程度バラしてからつなげてみると、あまりやったことのない動きで、ヨレヨレになった。

疲れたので一度降りてレストして、今度はプロテクションのことはとりあえず無視して繋げ。
怪しい部分が何か所かあったものの、ムーヴだけなら結構繋がって、最後の1手でフォール。
なるほど、確かにトップロープだと13aくらいなのかも。
それからムーヴを多少修正して、もうちょっとイメージが良くなってから降りた。

最後に「北京の秋」(5.10b)を登って、終了。
本当はもっと本数を稼ぎたかったけど、それはまた次回ということで。
日中に日が差したりして、霜が融けて地面がどろどろになっていたけど、
帰るころにはまた固まっていた。

寒すぎるコンディションで、とりあえずムーヴは繋がりそうな程度にバラせて、
1回目としては悪くないな、と思ったのだけれど、
ムーヴをこなしながらどこでどうプロテクションをセットするか、ということを考えないといけない。
あまりランナウトしないようなので、グラウンドの危険は少ないけれど、
その代りに一連の厳しい流れの中で、止まって作業をしないといけない、というのが厄介。
ただでさえ、ホールディングもスタンスも微妙なルートで、
ひとつでもミスをするとリカバリーはほとんどきかないだろうな、という感じ。
それにプロテクションという要素が加わって、パズルが何倍も複雑になる。
クラックは最終的にギアをセットしながら登らないといけないので、
どんなルートでも同じことが言えるのだけど、このルートはそのことをより強く意識させる。
でも僕は、そういう複雑になったクライミングが好きなので、
このルートではいいクライミングが出来そうだ、出来たらいいな、と感じたわけです。

犬猿雉はいないし、日本一のきび団子もないけど、鬼退治は面白くなりそうです。

2015年12月14日月曜日

試運転 2回目

先週末はまた、八ヶ岳に行ってきました。
今回はE川さんと1泊2日、バリエーションを継続して登るのが目的。
金曜の夜に松本のBOXへ行って、準備して前泊。
夜中にネズミが騒がしく走り回る音で起こされ、ゾッとした。
現役たちよ、ネズミ対策を急がないと危険だぞ。

土曜日、暗いうちに松本を出て、美野戸へ。
既に車が何台も停まっていた。当然だけど、皆さん早いですねー。
この日は行者小屋にベースを構えて、赤岳から硫黄岳まで一周するだけの予定だったので、
美濃戸山荘からまっすぐ行者小屋方面へ。
1泊するだけなのに、なぜかやたらと荷物が多くて「おかしいな」となる。
そんなに要らんものを持ってきた覚えないんだけどな。
とにかく行者小屋でテントを張って、アタック装備だけで出発。
文三郎を登って、赤岳までは思っていたよりも速かった。
山頂から見下ろしたら、ブロッケン

それから相変わらず雪の少ない稜線を硫黄岳方面へ北上。
天気がいいので快適だけど、それにしたって暖かすぎる。
風もほとんどないし、日差しが暑いくらいだし、硫黄岳まで行ったらもはや春山状態。
あれ、今って12月(しかももう半ば)じゃないのか??
申し訳程度に雪が載ってたけど

あとは赤岳鉱泉に下って、中山乗越を越えて行者小屋にもどった。
赤岳鉱泉のアイスキャンディはオープンを延期したらしい。気の毒。

という感じで、初日は主にE川さんの足慣らしで終了。
ついでにあちこちの尾根やルートを観察したけど、当然どこも黒々としていた。
「草付きが固まっていなくて、むしろ今登る方が怖いんじゃないか」とか、
いろいろと考えることがあったので、翌日の作戦会議をしてから就寝。

日曜日は4時前に起床。と、外は雪。
晴れを期待していたんだけど、がっかり。
天気が崩れてきている中で無理をしても仕方ないので、
準備が出来てからしばらく待機して、予定よりも遅めに出発。
一本目は、E川さん因縁の中山尾根。
荷物が軽いのをいいことに樹林帯をそれなりのペースで登っていったら、
「ペース速い、暑い」とE川さんに文句を言われた。
最初の岩場の取り付きについても真っ暗だったので、また少し時間をつぶして、
少しばかり明るくなってきたところでクライミングスタート。
1P目はE川さんがリード。復帰戦ということで慎重に慎重に登っていった。
草付き手前の短い2P目は僕がリード。雪がなさすぎるせいか、えらく悪く感じた。
その後は木と岩の混じる草付きをロープなしでどんどん登る。
入山前は暖かすぎるコンディションを心配していたけれど、
雪が降る程度には冷え込んだので、草付きが締まっていて快調に飛ばせた。
核心の上部岩壁は僕がリードして、
続くミックス壁も60メートルのザイルで長く稼いだ。
目の前に立つチキンヘッドは眺めるだけにして、右へバンドをトラバースして登山道へ。
変な動きをしてたら写真を撮られた

あわよくば3本継続して登るつもりだったけど、どんどん冬らしくなってくる天気と、
1本目で結構時間を食ったことを考慮して、2本で終わることにする。
ということで、赤岳を越えて文三郎を下り、赤岳主稜へ。
雪がなさすぎて取り付きへ下るところからちょっと微妙。先行パーティーはロープを出したらしい。
1P目は僕、2P目は感覚を思い出してきたE川さんがリード。
そこからのパートは、中山尾根と違ってほとんど木や草がないので、雪が少ないとほぼ岩稜。
でも岩壁以外は傾斜がなく易しいので、ロープを出さなくていい部分は出さずに登った。
核心の上部岩壁は僕がリードして、またロープなしで飛ばして稜線に出た。
一応、赤岳の山頂をもう一度踏んだ

あとは地蔵尾根を下って行者小屋のベースを撤収して、美野戸に下山。
夜中に降った雨が雪となり、それが凍って、登山道がツルツルでひどく歩きにくかった。

コンディションはイレギュラーだったけど、2回目の試運転はこんな感じだった。
赤岳主稜でロープを出さずに登った部分は、普通はロープを出すべき箇所もいくつかあった。
ただ、可能なら、省けるものは思い切って省いてしまった方がいいと思うし、
スピードも速いに越したことはない。
あとは個々人の登攀能力でカバー、というのは、個人的に好きです。
でも、これはイギリスでやったようなフリークライミングでのソロとは区別しないといけないし、
図に乗って飛ばし過ぎればカバーしきれなくなるだろうなと思う。

いろいろと思うことがあったクライミングだったけど、とにかく感触は悪くない。

2015年12月5日土曜日

足踏み

今週も、大ザルと遠山川へ行った。
木・金と天気が崩れたので、山の上は前よりも白くなっていたし、
矢筈トンネルを越えた向こうは家の屋根にも雪が載っていた。

今回はオブジェ横の壁でアップ。
大ザル曰く、「ここの課題は指が痛くなくていい」

実はこの壁で登るのは初めて。いつも素通りしてしまっているんだよな、これが。
トポにどう書いてあったか忘れてしまったのだけど、
とりあえず右のラインと真ん中のラインを気持ちよく登って、
右から左へのトラバースをやってみて、まあたしかに指が痛くない。
カチのアップにはあまりならないけど、いい感じ。
ついでにオブジェの「単細胞」(3級)も凄く久しぶりにやってみたら、何度か落ちた。
変則的な土下座マントルは、初見ではなかなか出てきません。

軽めのアップが終わったところでアンバマイカに移動して、「天照」の下の土木工事の続きをやる。
前回埋めた範囲よりもさらに横に広げるのにはあと2日くらいかかりそうなので、
とりあえずトライできるようにとせっせと石を運んで、運んで、運んで、
相変わらずギリギリだけど適当な下地が完成。
after

リップのホールドがどうなのか気になるので、「アンバマイカ」を登って岩の上へ。
どこもスローパーだし、3手目以降で落ちると確実に水没するみたい。
2手目を止めたらあとは気合だなー、ということで納得して、下からトライ。
スタートの右手のカチは相変わらずいまいち持てないけど、離陸は前より楽になった。
でも、結局1手目を出すと足が抜ける。抜ける抜けるまた抜ける。
抜けるー

そうこうしているうちに右手の指がカチに喰われてズタズタになってきた。
人差し指と中指が掛かっている部分がヤスリみたいで痛い。だから持ててるんだけど。
足が抜けると止まらないし、でも足が抜けるし、悩ましい。
この1手だけでもう「百鬼夜行」より難しいんじゃないかと思う。
そろそろ指が終わりそう、というところで、やっと1手目が止まった。
一瞬足を上げようかと考えたものの、そうすると右手が耐えられそうになかったので、
えーいままよ、と2手目のランジを出したら、ホールドは少し触ったもののほぼ空振り。
幸い(?)振られにも入れなかったので、マットの上に落ちた。
距離は足りそうだけど、止められるような動きじゃなかったな。
で、指を見たら中指がざっくり掘れていたので、これにて終了。
くそー、今回登りたかったんだけどなぁ。

大ザルは核心までつなげられるものの、ヨレてしまってダメらしい。
「腰が痛かったわりにはよくできた」とか言ってたけど。
二人そろって指が終わったので、時間は早いけど帰ることにした。

帰りにエッジでReel Rock 10を買って、実家で鑑賞。
ダニエルがThe Processのために研究した呼吸法というのが、気になる。

2015年12月2日水曜日

試運転

月曜日、先輩のしょーへーさんから突然のお誘いがあり、
「行きます行きます!」と返事して、今日は八ヶ岳へバリエーションを登りに行ってきた。
この冬からアルパインを徐々に再開していくつもりなので、
そのためのリハビリ、足慣らしということで、
そう考えると八ヶ岳は実にいろんなことが出来てちょうどいいフィールドだと思う。

始発に乗って松本に向かい、松本駅からしょーへーさんの車で八ヶ岳へ。
遠くから見て、明らかに山が黒々としていることに不安を感じる。
「雪なさすぎだろ」
「氷、ちゃんと張ってるんですかね」
そんなことを話しながら、それでもなんとかなるでしょうと、美濃戸を出発。
赤岳鉱泉のアイスキャンディはまだ半分も出来上がっていない様子。
それにそもそも、日差しが暖かい。12月・・・ですよね?
ちょっと道を間違えながら、裏同心ルンゼに入り、詰めていくと、
まだ薄いながらも問題なく登れそうなF1が見えてきた。
とりあえず、一安心。
水流が透けて見える

雪が少ないとはいえ久しぶりの冬山、さらに久しぶりの氷で緊張したけど、
じゃんけんで勝ったしょーへーさんがリードすることになったので、
こちらはフォローで感覚を取り戻すのに徹することができた。
裏同心ルンゼはアイス初心者にちょうどいいルートだとのことで、
たしかに滝のひとつひとつは小さく、傾斜も緩く、
氷の状態が微妙なことを除けば快適なクライミングだった。
比較的長いF2を越えて、F3も越えて、
シャーベットみたいな軟らかい氷も、水をまとっている氷も越えて、
最後のF5だかF6だけリードさせてもらった。
F5だかF6

登ること自体はアックスの打ち込みと足元の蹴り込みを意識していれば、あとは何とでもなるけど、
やっぱり緊張するのはスクリューをねじ込んでいくとき。
その瞬間になると突然、手元も足元も「抜けやしないか」と不安に思えてくる。
指やつま先が直接壁面に触れていないからかな。
この感覚を磨くのにはまだ当分時間がかかりそうです。

ともあれ、最後の滝を越えて、大同心の下をトラバースして、小同心へ。
ここの岩は、雪や氷が着いていないと、石の混じった特大の泥団子にしか見えない。
小さいほうの泥団子

小同心は2年生の12月に来たけど、その時はもっと寒くて、雪もあったような・・・
エルニーニョの影響なんですかね。
とにかく、ギアを一度整理して、「小同心クラック」に取りつく。
1P目を登っていくしょーへーさん

人気ルートなだけあって、岩は割と安定しているし、ホールドは特大。
アックスは端からザックに入れてしまって、
グローブをしてアイゼンを履いて乾いた岩を登っていく。なんだか変な感覚。
ここはフリークライミングのゲレンデ?なんてことはさすがに思わないけど。
ザイルを長くのばして、2ピッチで小同心の頭に抜けた。
なぜか真剣な顔をしてみせるしょーへーさん

あとはリッジを少し歩いて、稜線直下の短い岩場を登って、横岳の山頂に出た。
「てっぺんに突き上げるって、やっぱりいいよな」という意見はふたりで一致した。
山頂で一息ついて、赤岳方面に向かい、地蔵尾根を下って行者小屋へ。
下っていくごとに雪がなくなり、最後にはほとんど夏山みたいな道を歩いて美濃戸に帰った。

ここ一カ月ほどでいろいろ揃えた装備と、それに自分自身の試運転を兼ねた今回。
暖かかったのでウェア類はあまり出番がなかったけど、
アイゼンの感触は良好、アックスは慣れが必要という印象だった。
それと自分自身は、もうちょっと経たないと分からない部分が多いけれど、
とにかく裏同心ルンゼの氷や小同心クラックを前にしたとき、
「あ、自分はまだこういうものにもワクワクできる」と実感した。
しばらくアルパインから離れていて、乾いた岩ばかり登っていて、
いざ帰ってきたときにどんな感覚がするのかな、と思っていた。少し不安でもあった。
でも結局、自分はこういうクライミングも好きなんだよな、と思う。

どうせなら、欲張らないとね。