2017年1月23日月曜日

break through

先週、論文を一時提出したので、やっとクライミングに復帰しました。
土曜日にエッジで2か月ぶりに登って、勿論調子は最悪だったわけだけれど、
ちょっとしたことで呼吸が荒れるのも、指がどんどん痛くなるのも、
「これはいいこと!これはいいこと!」と引きつった笑いで誤魔化したりなんかして。
あと3週間たらずで体をオーバーホールしなくてはいけないので、ちょっと焦ります。

昨日は最近下地が荒れているらしい遠山川へ。
メンバーは高校生3人組と、とやさんと、大ザル、僕。
あまり日が差さなくて、寒い一日だった。
河原の岩は、寒すぎると逆にヌメるような感覚があるのだけれど、これは何なのだろう。
黒のれお、赤のりんたろう、緑のゆーき

中流対岸で一通りアップして、不調ながらも1級くらいまでは登って、アンバマイカに移動。
なるほど、確かに下地が荒れている。
下降路だったところの下地が完全になくなって、完全に流れの中。
石が転がったか、岩盤が崩れたか。どっちにしてもここからの下降は無理。
アンバマイカのリップまでクライムダウンして、飛び降りるしかないです。
下流側の下地も狭くなってしまったので、人手を活かしてせっせと土木工事。
おかげでなんとかアンバマイカだけはトライできるようになった。

ということで、アンバマイカのトライが始まった。僕はもっぱら観戦。
りんたろうがあっさり一撃して、ゆーきとれおが続く。
ゆーきは下降でびびりまくって、10分くらい岩の上で立ち往生していた。
少年よ、キミはトラッドクライミングとかには向いていないようだ。

そして、ついに大ザルがアンバマイカを登った。

1回目のトライでマントルまで繋がったものの、スリップして派手に落ちてきた。
2回目は中間部でぽろっと落ちてしまった。
「次のトライで登れなかったら、今日は無理だろう」「次で決めなきゃだめだね」
そう言って、いつもより短いインターバルの後、3回目のトライ。
昨シーズンまで「ここはどうやっても足が切れる」と言っていた核心も、
淡々と足を切らずに止めて、一切乱れることなくリップ下のポケットを捉えた。
マントル前の数手で、少しばかり精彩を欠いて、足が切れた。
こちらまで力が入って、つい「集中!」と一発声をかけていた。
クライミングの師に喝を入れるなんて、後になって思いもしたけれど、
その瞬間はそれどころではなかった。
父親だろうが、師だろうが、目の前にいるのは限界を超えようとしているクライマー。
ついにやってきたその瞬間を自分のものにしようとしているクライマーだった。
1回目に失敗した部分を、きっと必死の形相で押し切ったことだろう。

右手がプッシュに変わって、重心が完全にリップの上に乗る。
空を掻いていた右足がゆっくりとリップの上に乗せられ、緊張が解けた。





その後、とやさんもリーチの差を見事にねじ伏せてゲット。
まさに、アンバマイカの日でした

その後は上流に移動して、高校生たちは「キラーボーイ」(初段)をトライしていた。
僕はマットを一枚持って、単身「狂骨」(三段)をやっているイガグリさんの応援にいった。
怖がりを自称するイガグリさんも、直前のアンバマイカ祭りを見て俄然燃え上がり、
このエリアの三段の中では一番高くて恐ろしい「狂骨」をばっちり仕留めた。
すんばらしい完登ラッシュでした。
キラーボーイの完登は出ず


誰かのクライミングを見ていて、驚いたり盛り上がったりすることは多々あっても、
心底感動することは滅多にない。
それに翌日にこうやって文章にしていて、どんどんとその気持ちが増してくることも、
やっぱり滅多にあるものじゃない。

大ザルが登り切ったとき、感動で体が震えるとともに、安堵を覚えた。
きっとそれは、この人とアンバマイカの5年間を知っているからだろう。
途中、ずっと一緒に通っていたわけではないし、山に行ったり海外に行ったり、
それでもずっとこの課題を「生涯の課題だ」と話していたことを、
ジムでも家でも黙々と指とフィジカルを鍛えてきたことを、
その年の天気とコンディションに一喜一憂していたことを、
そしてパートナーがいないときも一人で何枚もマットを運び、流れを渡って通ったことを。
「長かったね、よかったね」と、ただそう思っていた。

きっとこんな風に僕が書き綴っていても、まるでそれが的外れであるみたいに、
本人の中ではただただ嬉しくて、純粋な喜びとしてあるだけで、
ものすごいドラマでも、押し流されそうな感動でもないのかもしれない。
またひとつ自己の限界に打ち克ったという、気持ちがあるだけで、案外シンプルなのかも。
でも、僕には、僕らにとっては、本当に劇的で、感動的で、
誰かに語らずにはいられないくらいの出来事だった。

「生涯の課題」と語ってはいたけれど、その先はまだまだある。
「あれもやりたい」「つぎはこれ」と、すでに遠山川での次の目標は決まっているらしい。
それに、瑞牆にはもうひとつの大きな宿題が残っている。
アンバマイカの岩から降りてきて、思わず抱き合った大ザルの背中は、まだ力強かった。
まだまだこの先も進んでいってください。


前にどこかで書いたかもしれないけれど、
「アンバマイカ」という言葉は南信地方の方言で「遊ばねえか」という意味なのだそうだ。
なんていい課題名なんだ、と改めて思う。

クライミングについてああしろ、こうしろと教えられた覚えは、あまりない。
ただただ、自分の好きなものの魅力を示し、分かち合ってくれていただけだ。
だからこの先もずっと、自分がクライマーである限り、
いつもみたいに僕らに声をかけてくるのだろう。
「アンバマイカ」と。


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