2022年2月24日木曜日

夢ひとつ

2月23日、デイドリームをRPした。
先シーズンに5日通い、今シーズン5日目、通算でちょうど10日目だった。


家を出て岩場へと向かう車中、運転しながら自分はどんな顔をしていただろう。
移動は単身だったので知る人はいないし、自分にすら分からない。
9時に駐車場に集合して、いましさんと岩場へ。エッジの常連さん軍団も来ていた。

いつものボルダーで二段まで登って、ちょっと念入りにアップ。
密かに、「1回目のトライでつながるかもしれない」と思っていた。
後から合流した大ザルにビレイを頼んで、今回もトップロープでのワークなしでいきなりリード。
前回よりも遥かに暖かく、指が悴むことはない。体もずっとよく動いた。
前半のジャミングパートを比較的安定してこなし、中間のカムをセット。
前回足が抜けて落ちた後半パートの入りで、ホールドを間違えて一瞬怪しい動きになった。
すぐに持ち直して続けたものの、その一瞬で気持ちに隙ができた。
さらに2手こなして、あとは足を上げてリップへ、というところで気持ちが途切れた。
大ザルに一声かけてフォール。自分から落ちたと言うべきか。
肉体的な余裕はもう少しだけあった。それなのに何故このトライで押し切らなかったのか。
まだ何かを信じ切れずにいる自分に少し腹が立ったが、とにかくすぐに上へ抜けた。

指皮はほぼ無傷で、体のヨレもそれほどではない。
1時間ほど休んで、2回目のトライをすることに決めた。
今回は、声をかけられる前に自分からいましさんに一言、「次で登ります」とだけ言った。
ボルダーで盛り上がるエッジ勢を冷やかしに行くと、1時間はすぐに過ぎた。

準備を整えて、2回目。
タイトなフィンガージャムが、またもう少し楽になったように感じた。
前半パートの最後のジャムをこれまでで一番安定して決め、カムをセット。
後半の入りで一瞬、今度はロープに足がかかりそうになって流れが止まった。
繊細なスタンスを拾って大きなムーヴを繰り出す。
ほとんど息ができず、力が抜けそうになる。そうか、さっきはこれで挫けたのか。
しかし今度は「終わらせろ」と、気持ちが上へと向いていた。
最後のデッドでやっと一声吠えて、その後のマントルは安定してこなし、リップの上に立った。
少し、目が眩んだ。


終了点にクリップしてテラスに立つと、気持ちをどう言葉にするか迷った。
僕もある程度は幼稚で気の早い人間なので、登った時に自分がどう感じるかをよく妄想した。
しかしいざその時が来てみると、自分でも驚くくらいに落ち着いていた。
感情が暴走して全身の血液が湧きたつようなあの感覚ではなく、
今回はいたってシンプルであっさりとした興奮だけがあった。

14時にはすべての決着がつき、まだ時間は早かったけれど撤収することにした。
日向にあるデイドリームはかなり暖かく、Tシャツでちょうどよかったが、
谷に下ると雪はあるしツララは垂れているし、季節が一つズレているようだった。



このルートに通い、そして登って、学ぶことは沢山あった。
昔取った杵柄がまだあり、まだまだ磨くことができるということ。
減量はたしかに有効だけれど、安易にそれに頼ってはいけないということ。などなど。
しかし、今後自分の中に長く残るであろうことは二つ。

一つは、『可能性』を『可能』に変える経験ができたということ。
昨年、初めてこのルートに触った日の印象は「これが本当に登れるのだろうか」だった。
その後何日もかけてムーヴを作ったものの、繋がる目途も全く立たないまま春が来てしまった。
1年後、再びこのルートに戻った時、何かが確実に変わっていた。
ちょっとしたことに気づかなかっただけ、と言い切ってもいいかもしれないし、
1年の間に積み重ねたことの成果が出た、と胸を張ってもいいかもしれない。
いずれにせよ、初めは可能性を感じるどころかそれを疑うくらいだったものが、
最後には確信を持って挑むことができるまでになった。
これまで20年近く、ずっと繰り返してきたはずのこのプロセスだが、
今回はそのことをこれまで以上に強く感じていた。

もう一つは、それでもその登りに100点はつけられない、ということ。
登った後、いましさんに「点数をつけるとしたら何点?」と聞かれ、
少し迷って出した自分の答えは「90点です」だった。
困難さの追求には、ジャンルを問わず価値がある。そのことは疑いようもない。
しかしその成功への興奮の後には、頭の中に違うものが湧いてくる。
それは「これが初登だったなら」という仮定法的な思いだ。
嫉妬、あるいは羨望とも言える。
自分は間違いなく、限界をプッシュする登りをした。
それに成功したことは本当に嬉しいし、幸福感が溢れてくるけれど、
同時にそれだけではいられない気がしてくる。

それならば、と思う。自分のゴールはここではないということなのだろう。
今の自分はこれまでで一番強くなったのだと信じている。しかし、その先はまだある。
ひとつの壁を克服して見えてくるものは様々にあるが、
それよりもなお強く、今この時に胸を占めるのは、まだ先にある次の壁の気配だ。
視界にはまだ入っていなくても、たしかに何かが在る。
待つのでは巡り合えない。自分から歩みを進めて、そこに至るしかないのだろう。


Cobra Crackの映像を観てからずっと、5.14のクラックを登ることは僕にとっての夢だった。
沢山ある夢のうちのひとつだった。
それが叶ったことを喜びつつ、そこに胡坐をかくことはない。
次へ進もう。
合掌


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