2022年12月5日月曜日

Yosemite 4

10/26  荷揚げ
荷揚げの日。朝は8時にCamp4を出た。
当然のように、日が差さないうちはキンキンに寒い。

Heart Ledgeへのフィックスの取りつきに着くと、先行パーティーあり。
どうも僕らは2番手のようだったけれど、直後に来た強そうな2人組に順番を譲り、3番手になった。
荷物はホールバッグとポータレッジ(2人用+フライ)、合計で53kgだった。
マイクロトラクションを一つ噛ませただけのスペースホーリングでは上がらないだろうと、
Camp4で知人から教わったZシステムというのを試してみた。
が、これも相当に手間取った。
半分くらい四苦八苦して上げたところで、下した荷揚げロープにあさこさんの体重をかけてもらうと、
さっきまでの苦労はなんだったのかというくらいにシャーシャー上がった。
なんだ、スペースでもいけるじゃん!
支点についたところで次の荷揚げに移るところで手間取ったりもしたが、それもだんだん慣れていった。
すぐ後ろを上がってきたローカルのお兄さんに助けてもらいつつ、スタートから4時間くらいでHeart Ledgeに到着。
初めてのビッグウォールの荷揚げとしては、御の字だろうか。
壁の傾斜でロープにかかる摩擦が大きいところでは、やっぱりZシステムも使う必要があるけれど、
警戒していたよりはずっとスムーズに上がって一安心。
ハカセが授けてくれた、Metoliusのノーズコーンが相当に優秀だった。

こんなに近くに鹿が

フィックスの混雑を縫ってラペル、そのままOakhurstへ出かけ、街道沿いのOakhurst Grillへ。
荷揚げお疲れさまということで、美味しいハンバーガーをいただいた。



10/27 レスト
ゴーアップ直前のレスト。ゆっくりと起き、ギアの買い足しとパーミッションを済ませてシャワー。
昼食後はそれぞれに出かけて過ごした。
僕はEl Cap Meadowsに出ていって、双眼鏡を手に壁を眺めてみた。
この壁がいかに複雑な形をしているか、トポと見比べながらやっと分かってきた気がする。
それを読み解いて、挑んできた先達がどれだけ勇敢で、強かったか。
自分はまだ、読み解くことができていない。
しかし、彼らの足跡を追っていくだけでも、この時間に価値があるのだと信じたい。
芸術家が模写して学ぶように。棋士が棋譜を見て差し手を学ぶように。
明日からSalatheに取りつく。ヘッドウォールまで辿り着けるだろうか。
そこにある何かを目にすることもなく、はじき返されるかもしれない。
考えた分だけ、不安も膨らむ。
しかし一歩でも半歩でも、踏み出したいという気持ちのままにここへ来たのだ。
恐れはあってもいい。恐いと思うまま跳んでみれば、見えるものもあるだろう。
「えいやー」と踏み込む心ひとつで何かを得られた経験は、嘘ではない。
それに胡坐をかきたくない、それだけだ。

10/28  Salathe Wall day1
Freeblastからゴーアップ。朝は8時にキャンプを撤収して、9時にはSalatheの取りつきにいた。
が、前はやっぱり渋滞していて順番待ち。しかしそれもラジオ体操をしていたら空いた。
1P目(10c)をリードして、タグラインで荷揚げして、これが想定よりも重いことに今更気づいた。
2P目(5.8)はあさこさん、3P目(11b)は僕がリード。
11bのトラバースは思い切って動いたら意外とすんなり抜けられた。が、問題はその後。
タグラインとクライミングロープが交差したり、出だしのカムが抜けなくなったり、
かたや自分は荷揚げ中のホールバッグがチムニーに挟まって動かなくなったりと、トラブル連発。
最後にだらんと垂れたクライミングロープがクラックにスタックして、
登ってきたあさこさんに外してもらうというオマケまでついた。
いろいろとあったこのピッチで、一気に雲行きが怪しくなった。
4P目(10c)はあさこさんがリードし、Freeblastの核心にあたる5P目(11c)は僕がリード。
ここは慎重に登ってOSできた。雲が出て日差しが薄くなり、風が吹いてきたおかげで肌寒いくらいだった。

6P目(11a)はあさこさんが頑張ったものの、核心でエイドアップ。
寒さでつま先の感覚は皆無だったそうだ。
僕は時短のために荷物を背負ってユマール。が、ここでも少しトラブルが。
ユマールするためにしまっておいたショルダーストラップを付けなおすときに、
下部のベルトを片方落としてしまい、仕方なくスリングで代用。
辺りも暗くなってきた。
7P目(5.9)は僕がヘッドランプを点けてリード。Half Dollarの下でピッチを切った。
ここでランプの電池が残り目盛り1になってしまい、光量ががっくりダウン。余計に怪しくなる。
8P目のHalf Dollar(5.10b)があさこさんがまず行ったものの、核心が越えられずロワーダウン、リードを交代。
核心であるチムニーの入り口にピトンスカーが2つあり、どちらもカムとナッツで塞がっていたのでここはエイドした。
チムニーに入ってからは慎重にズリズリ上がった。トポには5.8と書いてあったけれど...
ここでも荷揚げでタグラインが岩角から外れず、一度ラペルして外すという手間が加わり、時刻はすでに22時過ぎ。
Mammoth Terracesまでの長い5.7は中間でピッチを切り、最後はあさこさんと交代。
互いにヘロヘロの状態でどうにかMammoth Terraceに抜けた。
Heart Ledgeへは下らず、2人分の幅のテラスでビバーク。
時間は1時近かったと思う。

翌日のことを考えたくないくらいに疲れていた。喉が渇いているのか、腹が減っているのかもよく分からなかった。
それくらいに気持ちに余裕がなく、ギリギリだった。
ゴーアップの日の荷物が70Lに満載になってしまったところで、この結果は見えていたのかもしれない。
シュラフはキャンプ用とビバーク用と2つ必要だし、他の荷物も荷揚げですべてデポしてFreeblastは小さい荷物で登る。
このことに思い至らずに、至極中途半端なやり方になってしまったツケが容赦なく返ってきた。
荷物が多いならフォローは登らずユマールにするべきだったし、
自分たちの採りうる方法を正しく考えられていなかったのだと思う。

ともかく、事故がなくて本当によかった。今はそれだけが幸いだ。

10/29 Salathe Wall day2
Mammoth Terracesで起きると、Heart Ledgeから登り始めている人々が見えた。
空腹なのもあって、次のピッチ(クライムダウン)を行く気力は湧かず、フィックスでHeart Ledgeまで下りた。
前日よりも多い荷物を上げつつワイド地獄を抜け、Alcoveまで行くのは無理だと判断。
丸一日レッジでレストすることにした。
老けている

遅い朝食を摂り、日が当たってくると少しずつ元気が出てきた。
が、日中は日向にいるのが辛いくらいの灼熱。
ロープを張り巡らしてシュラフをかけ、日陰を作って涼んだ。

水などを捨てて下降することも考えたが、それでもせめてEl Cap Spireへ向けてできるだけ登りたいということで、
翌日1日で登れるだけ登ってみることになった。
天気予報は早まり、11/1と11/2が荒れ模様。しかも冷え込んで雪も降るという。
この時点で、どれだけ頑張ってもトップアウトはできないことが見えていた。つまりは敗退。
しかしそれは初日の結果で予想できたことでもあったので、へたり込むほどのショックはなかった。
ただただ、じんわりと滲むように悲しく、悔しかった。
しかしあさこさんは、この大きな壁で過ごす時間が楽しく、有意義で、もっと登りたいと話してくれた。
ここに来られたことを喜びと表現してくれた。それだけでどれだけ気持ちが軽くなったことか。
夕暮れを待ち、レッジから始まる11cだけ登ってロープをフィックスしておくことにした。
トポに「すごくハードなムーヴの核心」と書いてあってビビったけれど、一瞬の緊張感のあと、OSできた。
夕映えの空の下、気持ちの晴れるようなクライミングだった。


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